発行:明石書店
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四六判 400ページ 並製
定価:2,300円+税 総額を計算する
ISBN978-4-7503-1926-1(4-7503-1926-0) C0036
在庫あり
奥付の初版発行年月:2004年06月
書店発売日:2004年06月04日
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記者としてハノイに駐在した著者が,取材や自身の生活体験をもとに綴った,伝統と変化のはざまで揺れ動く「リアルな」ベトナム。ゆるやかに変わりゆく人々の価値観,経済変動などが,ベトナム初体験の著者の目を通して新鮮に語られる。
目次
はじめに
第1部 暮らし・文化
1 祖国でモデル・ビジネス
2 ファッション、ミス・コンテスト
3 女性の地位
4 結婚、家族
5 ポップス
6 映画
7 “海賊版天国”
8 インターネット
9 サッカー熱
10 オートバイ社会
11 イスラム教徒
12 民間信仰
13 亀と水牛……
第2部 社会
1 貧困
2 ストリート・チルドレン
3 ボートピープル
4 海外に出稼ぎ
5 「社会悪」
第3部 政治
1 ホー・チ・ミン
2 共産党
3 国会議員選挙
4 汚職
5 「治安」維持
第4部 経済
1 民間企業
2 コーヒー
3 豊饒のメコンデルタ
第5部 対外関係
1 二七〇万の海外同胞
2 初代米国大使
3 「ナマズ戦争」
4 戦争後遺症——枯れ葉剤
5 戦争後遺症——不発弾
6 社会主義の隣国——中国
7 国交樹立三〇年——日本
参考文献
ベトナムのホームページ
あとがき
前書きなど
はじめに はじめてベトナムの地を踏んだのは一九九五年三月。新聞記者としての出張取材で首都ハノイと南部の中心都市ホーチミン市(旧サイゴン)をあわせて一週間訪問した時のことだ。 両市の中心部では、多数の商店や食堂、ミニホテルなどが軒を連ね、建築ラッシュに沸いていた。路上にはオートバイの群れが続き、けたたましいクラクションの音が絶え間なく鳴り響く。それまで体感したことがない、圧倒的なエネルギーだ。市場経済化と対外開放、全方位外交を進めるドイモイ(刷新)政策のもと、経済発展が軌道に乗り、日本を含む海外企業から有望な投資先として注目を集める国の姿をのぞかせていた。 ホーチミン市ではその一方、両足のない男が台車に腹ばいになって歩道を移動しながら物乞いしている姿を見て衝撃を受けた。男がどんな理由で両足を失ったのかはわからないが、米国とのベトナム戦争や、カンボジアのポル・ポト派との戦闘などベトナムが戦った数々の戦争が想起された。また、老人や子どもの物乞いもいた。活気と一部の人びとの貧しさ、そして、日本人と似た顔をして箸でコメを食べる人びとの中での居心地のよさが印象に残る初訪問だった。 それから約一年後の一九九六年二月から翌九七年一〇月まで、新聞社のハノイ支局の駐在記者として同市で暮らした。その間、中国に接するランソン省、南端のカーマウ省、カンボジアと接するアンザン省、北部の港湾都市ハイフォン、中部のクアンチ、ダクラク省など、国内のさまざまな場所に足を運んだ。最大都市で商都のホーチミン市には十数回行った。 取材活動は楽ではなかった。国内のメディアはすべて国営で、一党支配を続ける共産党政権の管理下にある。報道法などの法律で、共産党の一党支配や基本政策に反対するような言論や、政権が「国家の機密」とみなす情報などの報道は禁じられている。これに反した新聞が発行停止処分を受けたり、記者が逮捕されたりしている。つまり政権が市民に知らせたくない情報を報じてはいけないのだ。一九九六年にハノイ市内のゴルフ場開発をめぐり、立ち退き補償金額などに不満を持つ農民と、警察官や機動隊員が衝突する事件があったが、あるベトナム人記者は、国内メディアはこれを報じないよう指示されていると明かした。 外国の報道機関も同様の管理下にある。取材の通訳などをするベトナム人の助手は外務省から派遣されていた。取材する際は原則として、外務省に希望取材対象や質問内容を記した文書を事前に提出し、許可を得る必要がある。ハノイの事件のような当局に対する住民の抗議行動など、政権が取材させたくないとみられる事柄については許可が下りなかった。 国内で売られる海外の英字週刊誌は、一部の記事が黒く塗りつぶされていることがあった。共産党・政府幹部の人事やスラム街についての記事などだ。記事が塗りつぶされることが何度かあった香港の週刊英字誌『ファー・イースタン・エコノミック・レビュー』の常駐記者は一九九六年一一月、事実上の国外退去処分を受けた。 当局から取材の許可を得ることができても、取材の際には、一般の人びとから話を聞く場合でも役人が同席。インタビュー相手が役人を意識して言葉を選んでいるように感じた。 それでも、取材に応じてくれた人びと、とりわけ一般の人びとの話は興味が尽きなかった。ベトナムは、ベトナム戦争をはじめ一九七〇年代までいくつもの戦争を経験した。自由主義体制だった旧南ベトナムはベトナム戦争終結後、社会主義体制へと移行した。そして一九八六年にはドイモイ政策による改革がはじまり、社会が大きく変容してきた。それだけにドラマチックな人生を送ってきた人が多く、話を聞くうち、目頭が熱くなって困ったことも何度かある。 一九九七年にハノイを離任した後も、ベトナムをたびたび訪問した。この間、ベトナムの共産党や主な中央省庁、地方自治体、国営メディアはインターネット上にホームページを次々に開設。日本にいても現地の新しい情報がかなり入手できるようになった。 ベトナムのメディアや公的機関のホームページに掲載される情報を読んだり、ベトナム人の知人らと雑談したりしていると、ベトナム社会の急激な変化を示すものをはじめ、興味深い事象がたくさんある。駐在記者として取材した人びとについて新聞紙上で伝えきれなかったことも数多くあった。そんな話をまとめたのが本書である。 はじめてベトナムを訪れてから九年。ベトナムの人口は八〇〇〇万人を突破し、世界で一三番目に人口の多い国になった。初訪問で感じた街の活気は増す一方だ。共産党政権は一党支配を堅持しているが、同様の政治体制を敷く中国にならい、民間の経済活動をより積極的に評価するようになるなど、イデオロギーに縛られない柔軟な政策も引き続き実施。民間企業の設立ラッシュが起き、経済活動は一層、活発化している。 共産党政権は二〇二〇年までに国を工業国にする目標を掲げ、ドイモイ政策のもとで工業化・近代化を推進。二〇〇五年までの五年間に年平均七・五%の経済成長率を達成し、二〇一〇年までに国内総生産を二〇〇〇年の一〇倍にすることを目指している。目標をわずかに下回っているものの、近年も年率約七%の経済成長を続け、国民一人あたりの平均年間所得は二〇〇二年には四三〇ドル(約四万七三〇〇円)と、九五年の二倍近くになった。海外に住む親類らからの送金など、公的統計には反映されない収入も多いと言われる。 国営メディアによると、携帯電話を持つ人(加入者数)は一九九五年には約一万五〇〇〇人だけだったのが、二〇〇三年なかばには約二三〇万人まで増えた。海外旅行に出かける人も、九五年にはわずか約一万人だったのが、二〇〇二年には約四〇万人にのぼった。 同時に農林水産業も輸出向け産品を中心に一層の振興が図られ、世界第二位のコメ輸出国の座をほぼ毎年維持し、コーヒーの輸出量でも第二位に躍り出た。 また、ファッションや歌謡、映画など、文化やエンターテインメント活動も、一部は規制がゆるめられ、格段に充実してきた。 一方で、ドイモイの「負の副産物」と言われる現象は深刻化してきている。都市部と地方の間、個人間の所得格差はさらに広がり、地方を中心に貧困にあえぐ人びとが大勢残っている。共産党や政府、警察の大物と犯罪組織との癒着が明るみに出るなど、汚職も跡を絶たない。また国民、とりわけ若者の意識や生活ぶりは儒教などの伝統的な要素が薄れ、欧米化する傾向を示している。 また、ベトナム戦争中に米軍が散布した猛毒の枯れ葉剤など、数々の戦争の後遺症が依然、社会に大きな影を落としている。 こうしたベトナムの姿を、気になるテーマで切り取ってみた。共産党一党支配下の社会主義体制の国だけに、政治、経済、社会のしくみは日本とは大きく異なり、情報も管理されている。その上、私自身の勉強不足もあり、本書で、ベトナムの実像を伝えきれるとは思っていない。私が現地で取材した情報と、ベトナムのメディアなどを通じて得た情報の範囲内で、改革・開放のうねりの中で生き生きと暮らすベトナムの人びとのありのままの、“リアル”な姿を記録するよう努めた。本書が、ベトナムの人びとの素顔を少しでも伝えることができ、読者の方がベトナムを理解する上での一助となれたら幸いである。(後略)
著者プロフィール
千葉 文人(チバ フミト)
1964年、宮城県生まれ。上智大学卒。<br>1987年、読売新聞社入社。英字新聞部、外報部などを経て、1996〜1997年、ベトナム・ハノイ支局駐在。<br>2000年、NHK入局。現在、国際放送局制作センターに所属。
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