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「文芸復興」の系譜学 平 浩一(著) - 笠間書院
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「文芸復興」の系譜学 (ブンゲイフッコウノケイフガク) 志賀直哉から太宰治へ (シガナオヤカラダザイオサムヘ)

文芸
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発行:笠間書院
A5判
388ページ
上製
定価 4,200円+税
ISBN
978-4-305-70770-3   COPY
ISBN 13
9784305707703   COPY
ISBN 10h
4-305-70770-5   COPY
ISBN 10
4305707705   COPY
出版者記号
305   COPY
Cコード
C0093  
0:一般 0:単行本 93:日本文学、小説・物語
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2015年3月
書店発売日
登録日
2015年3月12日
最終更新日
2015年4月7日
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紹介

「文芸復興」とは、近代や今日の社会を考えるうえでの、ひとつの重要な結節点である。
戦後文学や現代文学の礎が築かれた、1935年を軸とする前後5年間に巻き起こった「文芸復興」を検証することから、近代日本の文学史自体を相対化し、見直していく。戦後文学・現代文学の読解の新たな可能性を導き出していく書。

【 「文芸復興」それ自体については、近年、再考の契機を欠いたまま、関心自体が薄れつつある。その結果、「文芸復興」というものが、よく分からない現象のようにみなされてきているように思われる。本書は、こうした研究の背景をふまえ、近代日本の「文芸復興」研究が過疎化した原因を探り、既存の文学史観から遺漏してきた要素を中心に考察することで、「文芸復興」という現象を捉え直すことを試みるものである。
 考察の方法は、実証的なアプローチを基軸としながら、章を追うごとに、時代背景から作品へと徐々に視点を絞っていく形で論を運ぶ。ただし、対象とするテーマや作品ごとに、より適切な方法を選択し、考察を行う。その検証によって、近代日本文学の「分水嶺」とされながらも、「漠然とし」た現象とみなされてきた「文芸復興」を多角的に考察し、その全体像に迫っていきたい。さらにそこから、「文芸復興」期に飛躍を遂げ、戦後に大きな活躍を見せた太宰治や井伏鱒二をはじめとする、戦後文学・現代文学の読解の新たな可能性を導き出したい。……「はじめに──捨象された近代」より】

目次

凡例

はじめに──捨象された近代
一、文学史における「文芸復興」/二、「文芸復興」の名付け親/三、前景化された提唱者/四、戦後研究の検証の必要性/五、ジャーナリズムの検証の必要性/六、「大衆文学」の検証の必要性/七、「新興芸術派」の検証の必要性/八、新進作家の登場と戦後文学への潮流/

第一部 文学史の形成と「文芸復興」
 ─平野謙の文学史観を中心とする戦後研究の検証

第一章 戦後批評と「文芸復興」─一九五〇年代
一、「文芸復興」と戦後の研究/二、「文芸復興」の時期と「昭和九年」をめぐる問題/三、ナルプ解散と「文芸復興」/四、一九四〇年代末に作られた「公式」/五、「エポック」の問題─捨象された要素(1)
第二章 純文学論争への道程─一九六〇年代
一、「文芸復興」と「純文学論争」/二、「純文学論争」とその評価/三、『近代文学』同人による批判 ─「純文学論争」前夜/四、予想された結末─「大衆文学」への視座/五、戦後「特有」とされた問題─「ジャーナリズム」への視座/六、「内部」に設定された「外部」─捨象された要素(2)
第三章 「神話」化された「文芸復興」─一九七〇年代以降
一、「ノーマル」な文学史観/二、生前全集刊行と没後の平野謙/三、恣意的な「文芸復興」の把握/四、「文芸復興」再検証の気運/五、比喩で語られる「文芸復興」

第二部 「純文学」外の要素と「文芸復興」
 ─ジャーナリズム・大衆文学を中心に

第一章 企図された「文芸復興」
 ─志賀直哉「萬暦赤絵」にみる既成作家の復活
一、「文芸復興」生成の要因をめぐって/二、「萬暦赤絵」争奪戦と既成作家復活の謎/三、雑誌媒体と文学作品の変遷/四、「萬暦赤絵」争奪戦の背景と仕組み/五、「神話」に席巻された文学と「文芸復興」/六、「文芸復興」への転倒した認識
第二章 「円本ブーム」後のジャーナリズム戦略
 ─『綜合ヂヤーナリズム講座』を手がかりに
一、「文芸復興」前夜と『綜合ヂヤーナリズム講座』/二、「円本ブーム」後の悪循環/三、文学作品の商品化/四、文学者によるジャーナリズム批判とその限界/五、「消費物」としての文学作品と「文芸復興」の勃興
第三章 読者意識と「大衆文学」
 ─純文学飢餓論争にみる「文芸復興」の底流
一、「純粋小説論」をめぐって/二、「純文学飢餓論争」とその問題/三、争点の移行/四、読者意識の行方と「文芸復興」
第四章 黙殺される「私小説」
 ─直木三十五「私 眞木二十八の話」にみる文学ジャンルの問題
一、直木三十五の「純文芸作品」/二、「私小説」を企図する直木/三、「あたらしい」手法の検証/四、小説に表出された「ヂヤアナリズム」/五、作成された「大衆文学」概念

第三部 「モダニズム文学」の命脈と「文芸復興」
 ─「新興芸術派」の位置

第一章 「文芸復興」期における「新興芸術派」の系譜
 ─龍胆寺雄から太宰治へ
一、既存の「文芸復興」観の新たな問題点/二、「正統」な〈モダニズム文学〉像の形成/三、「M・子」の造形/四、「モダニズム文学」の方法/五、継承される「モダニズム文学」/六、「文芸復興」と「モダニズム文学」
第二章 「文芸復興」期における文学賞の没落と黎明
 ─「『改造』懸賞創作」と「芥川龍之介賞」
一、龍胆寺雄と太宰治の行く末/二、「『改造』懸賞創作」衰退の背景─「円本ブーム」の行き詰まりと龍胆寺雄/三、「芥川龍之介賞」と「文芸復興」─既成作家偏重から新進作家発掘へ/四、「『改造』懸賞創作」と「芥川龍之介賞」との交点/五、「第一回芥川龍之介賞」発表とその後の展開/六、「文芸復興」後の作家の行方
第三章 「ナンセンス」をめぐる戦略
 ─井伏鱒二「仕事部屋」の秘匿と「山椒魚」の作家の誕生
一、井伏鱒二「仕事部屋」が孕む問題/二、「不当」な評価という観点/三、同時代における「ナンセンス小説」の位置/四、「仕事部屋」という「ナンセンス小説」/五、「山椒魚」と「文芸復興」期の戦略/六、「仕事部屋」の意味─井伏文学の新たな読解の可能性
第四章 「私」をめぐる問題
 ─牧野信一「蚊」にみる「文芸復興」の一源泉
一、狭間の「私小説作家」/二、「私」の閉塞/三、表題「蚊」の意味/四、大正期末の「私」とその商品化/五、「文芸復興」の一源泉へ

第四部 「文芸復興」からみる太宰治─新進作家の登場

第一章 「通俗小説」の太宰治
 ─黒木舜平「断崖の錯覚」の秘匿について
一、「文芸復興」と太宰治「道化の華」/二、半世紀の秘匿/三、久保喬宛書簡と「断崖の錯覚」秘匿との関係/四、「断崖の錯覚」と「実験的小説」の類似点/五、「断崖の錯覚」と「実験的小説」の相違点/六、「純文学」概念の獲得/七、「断崖の錯覚」の可能性
第二章 生成する〈読者〉表象
 ─太宰治「道化の華」の小説戦略
一、太宰治と〈読者〉/二、冒頭部の予告/三、〈読者〉への語りかけの構造/四、〈読者〉表象の背景と戦略/五、戦後への系譜
第三章 市場の芸術家の「復讐」
 ─「道化の華」と消費社会
一、大衆消費化と文学作品/二、「市場の芸術家」の意味/三、「芸術品」の意味/四、投げ出される「小説」/五、残された「復讐」

おわりに─新たな系譜に向けて
一、一九三九年の一シーンから─「素材派・芸術派論争」/二、「素材派・芸術派論争」と太宰治/三、太宰治にもたらされた転機/四、太宰治の変化/五、「協力/抵抗」と〈矛盾・亀裂〉/六、「文学非力説」における高見順の姿勢/七、「再び文学非力説に就いて」における高見順の姿勢/八、本書を振り返って/九、「文芸復興」の「非力」さと〈可能性〉

主要参考文献一覧
初出一覧

あとがき
索引

前書きなど

「はじめに──捨象された近代」より

 よく知られているように、この時期には異なる世代の文学者──いわゆる大家、中堅作家、新進作家──が、多彩な活躍を見せていった。大家では、第二次活動休止期から創作を再開した志賀直哉や、長い療養を経て再び作家活動を開始した宇野浩二をはじめ、徳田秋声、正宗白鳥、幸田露伴、室生犀星等、沈黙をしていた作家が続々と復活した。中堅作家では、川端康成(「禽獣」「雪国」等)や堀辰雄(「美しい村」「風立ちぬ」等)、井伏鱒二(「集金旅行」「ジヨン万次郎漂流記」等)らが、後世に残る代表作を執筆・発表している。新進作家では、石川淳、高見順、太宰治、丹羽文雄、石坂洋次郎、石川達三など、戦後まで長く活躍した文学者が次々と登場した。このように世代毎の文学者の動向を振り返るだけでも、「文芸復興」期には、他に類をみないほどの活発な文学状況が形成されたことが分かる。
 その背景には、もちろんメディアの動向も深く関与していた。『文学界』、『行動』、『文藝』等、新たな文芸雑誌が次々と創刊され、『文藝春秋』において芥川龍之介賞・直木三十五賞が創設されたのもこの時期であった。また、様々な同人雑誌の登場も広く知られており、たとえば高見順が後に「転向という一本の木から出た二つの枝」と評した『日本浪曼派』、『人民文庫』もこの時期に創刊され、戦中の問題系に深く関わっていくことになる。
 さらに、「もし文芸復興といふべきことがあるものなら、純文学にして通俗小説、このこと以外に、文芸復興は絶対に有り得ない」と冒頭で宣言した横光利一の「純粋小説論」(一九三五年)や、同年の小林秀雄「私小説論」は、「文芸復興」期を代表する評論であり、戦後の「風俗小説」、「中間小説」等の系譜に直接関わる重要な問題を提起した。また、従来の文学史で示されてきたような、プロレタリア運動への大弾圧やナルプ解散、それにともなう「転向文学」の発生も、もちろん見逃すことができない事柄であり、それと関連して、「シェストフ的不安」や「行動主義」、「能動精神」といった新しい文学の流れも次々と形成されていった。たとえば『文学界』創刊が「呉越同舟」と称されたように、この時期には様々な文学上の流れが融合しながら(あるいは融合させられながら)、戦中・戦後にまで連なる多くの問題系が一挙に表面化していったのだ。
 以上を概観するだけでも、一九三五年前後の「文芸復興」と呼ばれた時期が、昭和文学や近代日本文学を語る上で、いかに重要な期間であったかが看て取れるだろう。


【凡例】
・引用部の漢字や変体仮名は、原則として現行の字体に改め、仮名遣い・送り仮名は底本のままとした。ただし、固有名詞については旧字体や異体字を残したところもある。また、ルビ・圏点・返り点などは、必要に応じて省略した。
・引用・強調箇所は、原則として「 」で括った。ただし、長めの引用については括らずに前後一行空け、二字下げとした。また、引用と混同しやすい強調箇所、あるいは特に強い強調箇所については〈 〉で示した。
・引用部の誤記や一般の表記になじまない場合は適宜ママを付した。また、引用部の傍線・傍点は、注記の無い限り引用者による。
・繰り返し用いた出典については、原則として前出・前掲で示した。ただし、読みやすさへの配慮から、刊行年月等を複数回示した箇所もある。
・本文中の年次の記載は西暦を採用し、適宜( )内に元号を補った。ただし、必要に応じて元号を用いる場合は、原則として「 」で表記した。
・資料の引用に際しては、書名、新聞・雑誌名は『 』で、作品名、新聞・雑誌掲載記事のタイトルは「 」で統一した。

著者プロフィール

平 浩一  (ヒラ コウイチ)  (

1975年、兵庫県生まれ。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業。早稲田大学大学院文学研究科修士課程・博士後期課程、日本学術振興会特別研究員(DC2→PD)などを経て、現在、国士舘大学文学部准教授。博士(文学)。

上記内容は本書刊行時のものです。