版元ドットコム

探せる、使える、本の情報

文芸 新書 社会一般 資格・試験 ビジネス スポーツ・健康 趣味・実用 ゲーム 芸能・タレント テレビ・映画化 芸術 哲学・宗教 歴史・地理 社会科学 教育 自然科学 医学 工業・工学 コンピュータ 語学・辞事典 学参 児童図書 ヤングアダルト 全集 文庫 コミック文庫 コミックス(欠番扱) コミックス(雑誌扱) コミックス(書籍) コミックス(廉価版) ムック 雑誌 増刊 別冊
文化現象としての源平盛衰記 松尾 葦江(編) - 笠間書院
.
【利用可】

書店員向け情報 HELP

書店注文情報

注文電話番号:
注文FAX番号:
注文メール:
注文サイト:

在庫ステータス

在庫あり

取引情報

取引取次:
ト・日     書店
直接取引:なし
返品の考え方: 返品フリー

出版社への相談

店頭での販促・拡材・イベントのご相談がありましたらお気軽にご連絡ください。

文化現象としての源平盛衰記 (ブンカゲンショウトシテノゲンペイジョウスイキ)

文芸
このエントリーをはてなブックマークに追加
発行:笠間書院
菊判
736ページ
上製
定価 15,000円+税
ISBN
978-4-305-70766-6   COPY
ISBN 13
9784305707666   COPY
ISBN 10h
4-305-70766-7   COPY
ISBN 10
4305707667   COPY
出版者記号
305   COPY
Cコード
C0095  
0:一般 0:単行本 95:日本文学、評論、随筆、その他
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2015年5月
書店発売日
登録日
2015年5月1日
最終更新日
2015年5月22日
このエントリーをはてなブックマークに追加

書評掲載情報

2016-07-15 國學院雑誌  第117巻第7号
評者: 小島孝之
MORE
LESS

紹介

平家物語成立から300年の間に、一体何があったのか。
ひろく院政期から近世まで、平家物語の本文流動から歴史・文学のありようまで、つぶさに検証していく。
日本文学史を考え直すための、新たな提案とも言うべき書。

源平盛衰記を平家物語の異本としてのみ研究するのではなく、ひとつの「文化現象」としてとらえ、院政期から近世へ文化の動的な展開を観測する拠点として、他のジャンル、時代にも考察を及ぼして行こうとする野心的な書。
全体をⅠ文学・Ⅱ言語・Ⅲ芸能・Ⅳ絵画・Ⅴ歴史の五つのセクションに分け、付編「資料調査から新研究へ」を配し、源平盛衰記を中心にこの時代の文学・歴史をトータルに把握しようとする。

執筆者は、松尾葦江/黒田 彰/原田敦史/大谷貞徳/橋本正俊/小助川元太/早川厚一/辻本恭子/セリンジャー・ワイジャンティ/平藤 幸/北村昌幸/小秋元段/伊藤慎吾/池田和臣/橋本貴朗/高木浩明/志立正知/吉田永弘/秋田陽哉/石川 透/工藤早弓/出口久徳/山本岳史/宮腰直人/小林健二/伊藤悦子/相田愛子/岩城賢太郎/伊海孝充/玉村 恭/稲田秀雄/後藤博子/田草川みずき/川合 康/曽我良成/松薗 斉/坂井孝一/高橋典幸/岡田三津子(執筆順)。

目次

源平盛衰記の三百年(松尾葦江)
一 はじめに/二 平家物語の流動過程と源平盛衰記/三 長門切と源平盛衰記/四 その後の源平盛衰記

Ⅰ 源平の物語世界へ

1 祇園精舎の鐘攷(序章)―祇洹寺図経覚書―(黒田 彰)
祇園精舎の鐘とは/祇洹寺図経の鐘/祇洹寺図経の鳴り物/居士之院の鐘/他方三乗学人八聖道之院の鐘/祇洹寺図経の楽器/仏病坊、諸仙之院の楽器/鐘、作り物と法文/仏典から/鐘の声、鐘の音/むすび。平家物語の解釈法
2 『源平盛衰記』形成過程の一断面(原田敦史)
一 忠盛の武勇/二 頼政の鵼退治/三 忠盛と頼政―女性をめぐる説話―/四 忠盛と頼政―説話の重層―/五 清盛へ
3 『源平盛衰記』の成立年代の推定―後藤盛長記事をめぐって―(大谷貞徳)
一 はじめに/二 「分廻」という語彙/三 盛衰記の後藤盛長後日譚/四 盛衰記の対象の捉え方/五 おわりに
4 『源平盛衰記』の山王垂迹説話(橋本正俊)
一 はじめに/二 『盛衰記』の山王垂迹説話/三 延慶本の山王縁起との比較/四 中世の山王神道説と『盛衰記』/五 おわりに
5 『源平盛衰記』における文覚流罪―渡辺逗留譚を中心に―(小助川元太)
一 はじめに/二 諸本の構成/三 伊豆への護送経路/四 文覚の悪戯1/五 文覚の悪戯2/六 放免と梶取/七 まとめにかえて
6 頼朝伊豆流離説話の考察(早川厚一)
一 「頼朝伊豆流離説話」とは/二 延慶本・盛衰記の頼朝伊豆流離説話について/三 『曽我物語』の頼朝伊豆流離説話について/四 闘諍録の頼朝伊豆流離説話について
7 『源平盛衰記』の天武天皇関係記事―頼朝造形の一側面として―(辻本恭子)
一 はじめに/二 盛衰記の天武天皇記事/三 源頼朝と天武天皇/四 おわりに
8 『平家物語』に見られる背景としての飢饉―木曾狼藉と猫間殿供応・頼朝饗宴の場面を通して―(セリンジャー・ワイジャンティ)
一 序論『平家物語』に示唆される養和の飢饉/二 木曾義仲の領地蚕食とその討伐/三 「猫間」章段にみられる食の秩序の小宇宙/四 院使をもてなす源頼朝の饗宴外交/五 義仲の形象と戦時の食料不足/六 まとめ  
9 与一射扇受諾本文の諸相(平藤 幸)
一 はじめに/二 与一射扇受諾本文の諸本の様相/三 与一辞退理由についての先学の言及/四 覚一本における一谷合戦から屋島合戦までの義経と頼朝との不和/五 与一射扇受諾の読み本系諸本と語り本系諸本の意義―むすびに代えて
10 『源平盛衰記』における京童部―弱者を嗤う「ヲカシ」―(北村昌幸)
一 はじめに/二 京童部の性格/三 『盛衰記』の京童部/四 『盛衰記』固有の「ヲカシ」/五 おわりに
11 『源平盛衰記』と『太平記』―説話引用のあり方をめぐって―(小秋元段)
一 『太平記』と『平家物語』諸本/二 延慶本における説話引用/三 盛衰記における説話引用/四 『太平記』における説話引用/五 むすび
12 『源平軍物語』の基礎的考察(伊藤慎吾)
一 はじめに/二 書誌的解説/三 構成/四 執筆態度/五 出版事情/六 おわりに/付表 『源平軍物語』『源平盛衰記』対照表

Ⅱ 文字と言葉にこだわって

1 長門切の加速器分析法による14C年代測定(池田和臣)
一 はじめに/二 炭素14年代測定の原理・測定法・化学処理・暦年代較正/三 古筆切の年代測定/四 長門切の炭素14年代測定の結果/五 おわりに
2 中世世尊寺家の書法とその周辺―「長門切」一葉の紹介を兼ねて―(橋本貴朗)
一 はじめに/二 「後三年合戦絵巻」に見る世尊寺家書法の特徴/三 「長門切」再考―断簡一葉の紹介を兼ねて―/四 世尊寺家書法の影響圏/五 むすびにかえて
3 古活字版『源平盛衰記』の諸版について(高木浩明)
一 はじめに/二 慶長中刊本/三 元和・寛永中刊本/四 乱版
4 『源平盛衰記』巻第三に収められた澄憲の「祈雨表白」をめぐって―三宝院本『表白集』、実蔵坊真如蔵『澄憲作文集』との関係―(志立正知)
一 はじめに/二 醍醐寺三宝院本『表白集』との関係―後藤丹治の指摘―/三 『源平盛衰記』から三宝院本『表白集』へという可能性―清水宥聖の指摘―/四 三宝院本『表白集』典拠説の見直し―欠文の問題から―/五 『澄憲作文集』との関係―異本注記、傍記補入、文字表記―/六 注進文の異同をめぐって/七 三宝院本『表白集』の異本注記/八 まとめ
5 『源平盛衰記』語法研究の視点(吉田永弘)
一 はじめに/二 考察の前提と方法/三 「新出語」の検討/四 「新出語法」の検討/五 おわりに
6 源平盛衰記に見られる命令を表す「べし」(秋田陽哉)
一 はじめに/二 中古の〈命令〉を表す「べし」/三 中世の〈命令〉を表す「べし」/四 おわりに

Ⅲ 描かれた源平の物語

1 軍記物語の奈良絵本・絵巻(石川 透)
一 はじめに/二 プリンストン大学蔵『平家物語』の書誌/三 豪華奈良絵本・絵巻の筆者/四 注文者の問題/五 おわりに
2 水戸徳川家旧蔵『源平盛衰記絵巻』について(工藤早弓)
一 はじめに/二 『源平盛衰記絵巻』の特色/三 『源平盛衰記絵巻』の制作/四 『源平盛衰記絵巻』の時代
3 寛文・延宝期の源平合戦イメージをめぐって―延宝五年版『平家物語』の挿絵を中心に―(出口久徳)
一 はじめに/二 延宝版の挿絵の表現―明暦・寛文版との関係をめぐって―/三 挿絵と物語本文との関係/四 物語の状況と挿絵の表現/五 延宝版の挿絵と近世メディア/六 おわりに
4 寛文五年版『源平盛衰記』と絵入無刊記整版『太平記』の挿絵―巻四十四「三種宝剣」と『太平記』「剣巻」の挿絵の転用をめぐって―(山本岳史)
一 はじめに/二 『源平盛衰記』・『太平記』の整版本/三 『源平盛衰記』・『太平記』の挿絵の比較  四 まとめ
5 舞の本『敦盛』挿絵考―明暦版と本問屋版を中心にして―(宮腰直人)
一 問題の所在/二 寛永版『敦盛』以降の展開―明暦版と本問屋版を中心に/三 明暦版の表現志向をめぐって―敦盛の物語へ/四 本問屋版の位相―直実から平家一門の物語へ/五 まとめにかえて
6 屏風絵を読み解く―香川県立ミュージアム「源平合戦図屏風」の制作をめぐって―(小林健二)
一 はじめに/二 能《藤戸》を描いた屏風絵/三 能《藤戸》が屏風に描かれた意図/四 盛綱の行為は名誉か、不名誉か/五 能に描かれた盛綱の後悔と補償/六 一の谷合戦を描く理由/七 本屏風の制作と佐々木氏/八 京極氏と若狭武田氏/九 むすび―共有する栄光の記憶として
7 久留米市文化財収蔵館収蔵「平家物語図」・「源平合戦図」について(伊藤悦子)
一 はじめに/二 「平家物語図」(紙本墨画淡彩)について/三 「源平合戦図」(紙本墨画淡彩)について/四 まとめ
8 平家納経涌出品・観普賢経の見返絵と『源平盛衰記』の交差―「銀ニテ蛭巻シタル小長刀」の説話から貴女の漂流譚へ―(相田愛子)
一 はじめに/二 涌出品・観普賢経の見返絵/三 「銀ニテ蛭巻シタル小長刀」の説話/四 厳島社の本地垂迹/五 おわりに―「平家納経」涌出品・観普賢経の解釈―

Ⅳ 演じられた源平の物語

1 「平家物語」の「忠度都落・忠度最期」から展開した芸能・絵画―能〈俊成忠度〉の変遷と忠度・俊成・六弥太の造型に注目して―(岩城賢太郎)
一 『平家物語』『源平盛衰記』を典拠とする芸能・絵画/二 「平家物語」の平忠度関連話/三 「忠度都落」「忠度最期」に関連する能の作品/四 能〈俊成忠度〉から能〈五條忠度〉へ―明和改正謡本の指向したもの―/五 平忠度関連話に取材する絵画作品/六 平忠度・岡部六弥太らが活躍するする浄瑠璃・歌舞伎の作品/七 「平家物語」の視覚化を追究するために―能が示唆するもの―
2 小袖を被く巴の造型―『源平盛衰記』における能摂取の可能性をめぐって―(伊海孝充)
一 はじめに/二 能「巴」の問題点/三 巴の恋慕/四 長刀を持つ巴をめぐって/五 能「巴」の改作の可能性/六 戦場からの離脱と小袖被き/七 「小袖」をめぐる能と『源平盛衰記』の関係/八 『源平盛衰記』における能摂取の可能性
3 君の名残をいかにせん―能《巴》 「うしろめたさ」のナラトロジー―(玉村 恭)
一 はじめに/二 《巴》と平家物語/三 描写と物語/四 《巴》の描写
4 狂言「文蔵」のいくさ語り―もう一つの石橋山合戦物語―(稲田秀雄)
一 狂言「文蔵」のあらまし/二 「文蔵」の語りにおける武装表現(一)(大蔵流・和泉流)/三 「文蔵」の語りにおける武装表現(二)(鷺流・狂言記)/四 「文蔵」の語りにおける武装表現(三)―幸若舞曲との近似/五 『源平盛衰記』との相違点/六 「石橋山の草子」/七 劇中芸としての語り―原拠からの加工
5 土佐少掾の浄瑠璃における軍記の利用方法―「故事来歴」の趣向化―(後藤博子)
一 はじめに/二 『大職冠二代玉取』─主人公の人物造型と「恋」への利用─/三 『土佐日記』─「身代わり」への利用─/四 『源氏花鳥大全』─合戦場面への利用─/五 おわりに
6 浄瑠璃正本における〈平家〉考―文字譜〈平家〉の摂取と変遷をめぐって―(田草川みずき)
一 はじめに/二 浄瑠璃の節付について/三 文字譜〈ウタイ〉の場合/四 文字譜〈平家〉の記譜状況/五 〈平家〉記譜箇所の詞章/六 おわりに

Ⅴ 時の流れを見さだめて

1 治承・寿永内乱期における和平の動向と『平家物語』(川合 康)
一 はじめに/二 源頼朝の和平提案/三 平氏都落ち後の和平の模索/四 小松家の脱落と新たな和平交渉の展開/五 おわりに―元暦元年の政治的意味―
2 『源平盛衰記』の史実性―殿下乗合事件の平重盛像再考―(曽我良成)
一 はじめに/二  平重盛の「激怒」/三 平重盛像/四 『源平盛衰記』の史実性/五 おわりに
3 『平家物語』にみえる夢の記事はどこからきたのか(松薗 斉)
一 はじめに/二 『平家物語』にみえる夢/三 藤原邦綱の母の夢/四 源雅頼の青侍の夢/五 おわりに
4 和田義盛と和田一族―歴史・文学・芸能におけるその位置づけ―(坂井孝一)
一 はじめに/二 和田義盛および和田一族の基本情報/三 『吾妻鏡』の義盛像―弓射の名手として/四 『吾妻鏡』の義盛像―侍所別当として/五 『吾妻鏡』の義盛像―人間味のある東国武士として/六 『源平盛衰記』の義盛像/七 『真名本 曽我物語』の義盛像/八 『仮名本 曽我物語』の義盛像/九 狂言『朝比奈』/一〇 風流と能の『朝比奈』/一一 和田合戦にまつわる能と伝承/一二 和田合戦が与えた衝撃と影響/一三 おわりに―朝比奈の伝説化と和田義盛―
5 『山田聖栄自記』と平家物語―平家物語享受の一齣―(高橋典幸)
一 はじめに/二 山田聖栄と『山田聖栄自記』/三 平家物語になぞらえる/四 おわりに
6 静嘉堂文庫蔵賜蘆本『参考源平盛衰記』の注釈姿勢―奈佐本『源平盛衰記』の引用を中心として―(岡田三津子)
一 はじめに/二 賜蘆本注釈の特徴/三 〈奈佐本〉による脱文の補訂/四 内閣A本と賜蘆本の先後関係/五 おわりに

付編 資料調査から新研究へ

1 源平盛衰記写本の概要(松尾葦江)
2 源平盛衰記の古活字版について(高木浩明)
一 慶長中刊本/二 元和・寛永中刊本/三 乱版
3 『源平盛衰記』漢字片仮名交じり整版本の版行と流布―敦賀屋久兵衛奥付本・無刊記整版本・寛政八年整版本・寛政八年整版関連本をめぐって―(岩城賢太郎)
 一 近世期における『源平盛衰記』整版本の享受の様相から/二 敦賀屋久兵衛奥付本概説/三 無刊記整版本概説/四 寛政八年整版本・寛政八年整版関連本概説/五 片仮名整版本の終焉―近代の『源平盛衰記』本文の版行へ
4 源平盛衰記 絵入版本の展開(山本岳史)
一 はじめに /二 寛文五年版・延宝八年版/三 元禄十四年版・宝永四年版/四 『源平盛衰記図会』
5 源平盛衰記テキスト一覧(山本岳史)
一 源平盛衰記/二 参考源平盛衰記
6 [調査報告]平家物語・源平盛衰記関連絵画資料(石川透・山本岳史・伊藤慎吾・伊藤悦子・松尾葦江)
一 はじめに/二 白描絵巻/三 絵巻/四 特大縦型奈良絵本/五 半紙縦型奈良絵本/六 小型扇面/七 屏風
7 フランス国立図書館蔵「源平盛衰記画帖」場面同定表(伊藤悦子・大谷貞徳)

あとがき(松尾葦江)

執筆者プロフィール

前書きなど

あとがき

 本書は平成二十二年度から四年間(二〇一〇~二〇一三)に亘って行われた共同研究【「文化現象としての源平盛衰記」研究―文芸・絵画・言語・歴史を総合して―】(科学研究費補助金・基盤研究(B)課題番号22320051)の研究成果報告書を兼ねた論文集である。本書の中でしばしば言及される「本共同研究」とは、それを指している。毎年、冊子体による報告書を出し、ホームページ「中世文学逍遙」に活動報告を掲載してきたが、得られた成果はそれらにすべては盛り込めず、また論文化することによってさらなる進展も見込まれると考え、笠間書院にお願いして論集出版を企画することにした。

 科研費の申請に当たっては、およそ以下のような「研究目的」をうたった―源平盛衰記を平家物語の異本としてのみ研究するのではなく、また他の文芸への影響関係を指摘するだけでなく、むしろ源平盛衰記をひとつの「文化現象」としてとらえ、室町時代から近世へ文化の動的な展開を観測する拠点として、そこから他のジャンル、他の時代にも考察を及ぼして行こうとする。

 右の方針に沿って調査、研究発表と討議、講演会やシンポジウムなどを行い、また源平盛衰記年表作成のための作業も行ってきた(その結果は、まもなく三弥井書店から刊行される)。但し、当初「室町から近世へ」と見込んだのは誤算であった。長門切の研究が進むにつれ、「文化現象としての源平盛衰記」は室町以降の問題に限定できなくなってきたからである。ひろく院政期から近世まで、平家物語の本文流動から歴史文学のありようまでを抱え込むテーマになっていった。

 その上、共同研究は四年間だったがその後の一年間、つまり本書を出すための作業の結果も殆ど四年分に匹敵するほどのものであった。連携研究者・研究協力者の多忙な日常に割り込むようにして行われた調査とその成果の整理は、本書の基底部分の重石となった。付編「調査から新研究へ」に収めた盛衰記伝本研究と絵画資料研究がそれである。粘り強い調査と、未踏の課題に挑戦する「蛮勇」とが開けた突破口から、その先へすでに歩き出している人たちもあり、本書によってさらに新たな飛び地ができることを期待したい。

 本編に収めた論考についても、それぞれに自由な題でお書き頂いたが、講演・発表時以降の課題が意識されている。分かりやすいように、Ⅰ文学・Ⅱ言語・Ⅲ芸能・Ⅳ絵画・Ⅴ歴史の五つのセクションに分けて配列したが、Ⅰには平家物語の成立、その背景、説話の伝播・変容、太平記との比較などの諸問題が含まれており、いずれも今日の軍記物語研究で正統的に行われる研究方法に則っているものの、その見定めている射程距離は決して短くない。後年、出発点としてふり返られる論文だと言ってよいと思う。Ⅱには盛衰記の成立年代をめぐってさまざまな角度からの照射が行われている。長門切の科学的年代判定、書写の歴史との関連、盛衰記が普及しそれらしい文体を確定する契機となった近世初期の出版事情、また引用文献との関係や語法変化から検討しうる年代の範囲。それらから導かれる結論はいまのところ一点に収斂していない。この難題をどう解くか、柔軟な試行錯誤が要求される。

 ⅢとⅣは従来ならば享受・受容などの用語で一方向的に論じられたであろう分野であるが、本書においては双方向、多方面に視野を広げて考える志向が顕著に見られる。それは盛衰記のように長い期間に亘って流動し続けた作品にとって、必要不可欠な視野だといえよう。Ⅴには歴史学の面白さを改めて味わわせてくれる論考が並ぶ。

 巻末に付編を置いたことから分かるように、本書は閉じられていない。科研費による共同研究は終了したが、これまで着手されていなかった数多の研究課題の種が播かれ、いくつかは発芽した。その伸びようとする勢いが本書の第一の魅力となっているが、さらに、文学史の上での中世と近世の隔壁を低くしたこと、盛衰記を始め平家物語読み本系諸本の成立と変貌の契機について再考を迫っていること、絵画や芸能との関係を双方向で捉えること等々、私たちの新しい提案が、将来ある研究者に、また好奇心に満ちた文学愛好家にも届くよう、希って送り出す。

…本書より一部掲載いたしました。

著者プロフィール

松尾 葦江  (マツオ アシエ)  (

神奈川県茅ヶ崎市に生まれ、東京都の小石川で育つ。1967年、お茶の水女子大学文教育学部卒。1974年、東京大学大学院人文科学研究科博士課程満期退学。その後、鳥取大学教育学部助教授、椙山女学園大学人間関係学部教授などを経て、2002年から2014年まで國學院大学文学部教授。2003年~2007年まで放送大学客員教授も兼任。1997年、『軍記物語論究』で東京大学の博士(文学)号を取得。専門は中世日本文学、特に軍記物語。
著書は、『平家物語論究』(明治書院、1985年)、『軍記物語論究』(若草書房、1996年)、『軍記物語原論』(笠間書院、2008年)、『源平盛衰記 二』(三弥井書店、1993年)、『源平盛衰記 五』(三弥井書店、2007年)など。
共編著として、『太平記』(大曽根章介と校註・訳、ほるぷ出版、1986年)、『海王宮 ―壇之浦と平家物語』(三弥井書店、2005年)、『延慶本平家物語の世界』(栃木孝惟と共編、汲古書院、2009年)など。

上記内容は本書刊行時のものです。