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放射線について考えよう。 多田将(著) - 明幸堂
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放射線について考えよう。 (ホウシャセンニツイテカンガエヨウ)

自然科学
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発行:明幸堂
A5判
縦210mm 横148mm 厚さ21mm
重さ 420g
312ページ
並製
価格 2,000円+税
ISBN
978-4-9910348-0-0   COPY
ISBN 13
9784991034800   COPY
ISBN 10h
4-9910348-0-9   COPY
ISBN 10
4991034809   COPY
出版者記号
9910348   COPY
Cコード
C0042  
0:一般 0:単行本 42:物理学
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2018年8月
書店発売日
登録日
2018年7月10日
最終更新日
2021年10月16日
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書評掲載情報

2018-09-27 週刊新潮    10月4日号
評者: 成毛眞
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重版情報

3刷 出来予定日: 2021-10-20
2刷 出来予定日: 2019-02-22
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紹介

『すごい実験』『すごい宇宙講義』の多田将、最新刊。

わかりやすい解説で人気の素粒子物理学者が今回取り上げるテーマは、ちゃんと理解しようとするとじつはかなり難しい「放射線」。

どうしても必要となる物理学の基礎知識から、順を追って、丁寧に解説していきます。

さまざまな数値から、自分の頭で定量的に考えられるようになるための、直球の物理学講座【全10回】。

「異色のニュートリノ研究者が論理的、定量的、かつ饒舌に語る! デマ拡散の本質にも迫る、ネット連載待望の書籍化」早野龍五氏(東大名誉教授)

目次

    なぜ、いまさら「放射線」なのか
第1章 原子と原子核の中身について考えよう
第2章 どうやって放射線が出てくるのかについて考えよう
第3章 放射能と半減期について考えよう
第4章 物質との反応について考えよう
第5章 人体への影響について考えよう
第6章 身を守る方法について考えよう
第7章 測り方について考えよう
第8章 過去の被曝事故について考えよう
第9章 利用方法について考えよう
第10章 それぞれの放射性物質について考えよう
    「ゼロリスク」を叫ぶ無意味さ

書籍版の出版にあたって

周期表
附録1 物理量まとめ
附録2 福島第一原子力発電所事故関連の調査結果
附録3 更に学びたい方のために
索引

前書きなど

なぜ、いまさら「放射線」なのか 

 日本で放射線の話をするときには、東北大震災にともなう福島第一原子力発電所事故について避けて通ることはできません。あの事故直後には、放射線に関する言説が、デマも含め、とてもたくさん出されました。いまさら放射線について書くくらいなら、なぜ、そのときに書かなかったのか、と思われる人もいるかもしれません。あのころ僕はちょうど生まれて初めての本を出そうとしていた時期であり、それを自分の勤務先の研究施設(J-PARC)の震災復旧のため、連日倒れそうなくらいの激務の合間にやっていたために、ほかの本を出すような無謀なことはできなかった、というのが実情です。復旧が終わり、時間に余裕が出てくると、完全に時機を逸してしまっていました。

 ではなぜいまさら書く気になったのかと言いますと、きっかけは豊洲市場問題です。あそこで繰り広げられた「安全より安心」とかいう無意味な話や、それを煽るマスコミ、間違った風評で相手を傷つけても自分のちっぽけな正義感さえ満たされればそれでよいのだという風潮に、なんだかとても既視感をおぼえたからです。6年たっても、あるいは、あれだけの大騒ぎをしたあとでも、日本人はまったく変わっていなかったのだなぁ、と。

 デマはなぜ正確な情報よりもはるかに広く拡散するのか。
 理由はとても簡単です。そのほうが面白いからです。「特になにも問題はありません」よりも、「じつは深刻な……」といったほうが、人間の興味をそそるのです。
 正直、デマを流されたほうとしては、とても許しがたい理由ですが、実態はこんなもので、人間のモラルなど、しょせんこの程度なのです。だから僕は、こういった連中が少しでもデマを流さないように期待することなど、いっさいやめてしまいました。
 その代わりに、少しでも「聴く耳」を持ってくださっている方々に対しては、可能な限りていねいに、誠実に、説明することにしました。世の中に数ある書籍やサイトの中で、わざわざ本書を選んでくださった方々には、それ相応の誠意をもってお話ししたいと思います。
 そして、その方々が、デマに立ち向かうための武器、と言えばおおげさですが、そうでなくとも、デマにだまされないようにするための道具として使っていただけるよう、この文章を書きました。
 原子力発電所事故の直後は、「誰の言うことを信じてよいのかわからない」という言葉も聞きましたが、それに対する答えは、「自分で考えるしかない」ということです。自分で考えることをやめて、他人に判断をゆだねている時点で、その人はだまされてもしかたないと言えます。本書は、そういった「自分で考える」ための準備のひとつでありたいと思います。本書を読めばすべてが解決するわけではありませんし、仮にそのように言いきるものがあれば、それをこそ疑うべきだと思います。

 ひところ「理系の人間はどういう連中か」というテーマの本が書店に平積みされているときがありました。僕もそれらをぱらぱらと見てみたのですが、見たページが悪かったのか、いっさい共感できないことばかり書いてありました。そこには、理系の人間を完全に誤解した、ステロタイプな「理系の人間像」が描かれていました。たとえば、コミュニケーション能力が欠如しているだの、すぐに専門用語を使いたがるだの、夢見がちで浮世離れしたところがあるだの、ところ構わず白衣を着ているだの、本当に理系の人間を見たことがあるのか、と疑わしくなるような内容でした。
 では、現実の「理系の人間」とはどういう特徴をもっているのでしょうか。

 ひとつは、論理的に考える、ということ。
 もうひとつは、定量的に考える、ということ。

 理系でない人たちにとって、前者が「こうるさい」、後者が「細かい」と否定的に考えられる原因になっていると思います。
 僕はいちおう理系の学者のはしくれではありますが、それでよかった、と思うことがあります。それは、世の中に満ちあふれるデマに、だまされにくいことです。デマや疑似科学の多くは、論理的でもなければ定量的でもありません。ところが、それに気づくには、ふだんから論理的かつ定量的に考えることに慣れていないとむずかしいのです。デマを堂々と否定するためには、「こうるさく」「細かく」なければなりません。
 デマに流される人やデマを発信する側の人には、あらゆることを○×式にとらえる、という特徴があります。実際世の中で起きていることのほとんどは、自然科学に関することではなくとも、「程度問題」なのであって、単純に○×式で判断できるものはほとんどありません。にもかかわらず、自分の頭で考えることを面倒臭がって、○か×かの二元式の答えを要求する。全否定か全肯定しかない。そういう人たちこそが、もっともだまされやすい人間です。しかし残念ながら、そのような人たちが日本ではまだまだ多くいて、主流ですらあるというのが悲しい現実だと思います。そういう風潮に流されないために、「どの程度か」ということを考えることが、「定量的」な思考なのです。

 そして、放射線の問題でも、豊洲問題でも、「安全より安心」という言葉を呪文のように唱える人たちがいます。その人たちに聞きたいのは、では、「安心」を感じる基準はなにか、ということです。それが科学的なものではなく「自分たちの心の中の問題だ」などと言われたら、人間がふたり以上いる社会ではまったく話になりません。なぜなら、「心の中」など、人それぞれまったく違うからです。そのまったく違うことを考える人たちがたくさん集まった社会で「安全」を調整する手段こそが法であり、その法の根拠となるものが科学であるはずです。
 ですから、本当に「安全」かどうか「自分で考えて判断する」ための、科学的な根拠を与える道具として、本書を活用していただきたいのです。

 本書は、高校では物理学の授業を受けなかった、または、受けたのだが、すっかり頭の中から抜けてしまった、という方を主な対象として書いたつもりですので、学生のみなさんや、学生時代のことがまだ頭に入っている方には、もの足りないと感じられることでしょう。そのときには、本書を、より詳しい放射線についての本を読む「きっかけ」としていただければ幸いです。

 あるいは逆に、中学校の段階ですでに物理学を苦手とされていた方には、なんだかむずかしいことが書いてあってつらいな、と感じられるかもしれません。本書は、表面的な知識を並べたてるだけでなく、「なぜそうなっているのか」ということから理解するのが目的ですから、原理から詳しく書いてあります。物理学が苦手だった方の中には、物理学という学問が「なんかよくわからない公式を憶える科目」という認識であった人すらいるらしいですが、それは完全な間違いで、物理学とは、「物」事はなぜそうなっているのか、その「理」由を考える「学」問なのです。
「なんかよくわからないものを憶える」では、物理学という学問とまったく逆のことをしていることになります。公式なんかどうでもよいのです。「なぜか」ということを考えていただきたいのです。それをしてこなかった方には、慣れないことゆえに、多少戸惑うかもしれませんが、根元から考えることこそ、だまされないために絶対に必要なことだからです。「他人にそう教わった」ではなく、「自分で考えた」が大切です。苦労して身につけたことは、そう簡単に揺らいだりしないからです。ゆっくりと、少しずつでよいので、考えながら読み進めていってください。
 そして、みなさんに言いたいことは、本書を、放射線のことだけでなく、世の中のあらゆるできごとを科学的に、つまり「論理的に」「定量的に」考える「きっかけ」として利用していただきたい、ということです。
 本書では、「なぜそうなっているのか」という仕組みを理解するために、順を追って話を進めていっています。そのため、みなさんが知りたいことにすぐにたどりつけなくて、ちょっとイライラするかもしれません。でも、そうやって「なぜ」という仕組みを順序立てて考えることが、「論理的に」考える練習になります。

 そして、多くの量や数値が出てくるのも本書の特徴です。これも数字を見るのがいやな人には、ちょっと気分がよくないかもしれません。しかし、数値がもつ意味を考えること、その数値が大きいのか小さいのか、どの程度であって、我々にとって問題はないのか、それを考えることこそ、「定量的に」考えることなのです。

「お化け」が怖いのは、つまるところ、その正体がわからないからです。お化けに光を当て、正体を白日の下にさらしてやれば、それほど怖いものではありません。お化けが主に夜に活躍するのはそのためです。
 放射線という「お化け」も、必要以上に恐れられているのは、多くの人が「それがなんだかわからない」と思っているからです。ですから、その正体を理解することで、恐れをなくし、「安心感」を得るのが、本書の目的です。
 放射線という「お化け」を、白日の下にさらしてやりましょう。

著者プロフィール

多田将  (タダ ショウ)  (

1970年大阪府生まれ。京都大学理学研究科博士課程修了。理学博士。京都大学化学研究所非常勤講師を経て、現在、高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所、准教授。
著書に『すごい実験』『すごい宇宙講義』『宇宙のはじまり』『ミリタリーテクノロジーの物理学<核兵器>』『ニュートリノ』(全てイースト・プレス)がある。

上記内容は本書刊行時のものです。