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こなら亭暮らし
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2016年5月
- 書店発売日
- 2016年5月20日
- 登録日
- 2016年10月18日
- 最終更新日
- 2017年2月15日
紹介
著者木佐貫ひとみが、四季をとおし、雑木の庭「こなら亭」で暮らしてきた様子。そこから学んだ生き方を紹介。
雑木が育つとともに、訪ねてくる友だちが増え、鳥たちが増え、虫たちがそこで世代を重ねるようになった。そんな豊かな生き方を楽しめる一冊。
目次
山笑ふ(春告花
キンポウゲの魔法 ほか)
山滴る(夏の朝
いのちとくらす夏 ほか)
山装ふ(秋の葉
カマキリ ほか)
山眠る(冬を呼ぶ
こみ藁 ほか)
前書きなど
こなら亭へようこそ
「こなら亭」は、私たちの住まいの名前だ。宮崎でよく見られる照葉樹林の里山に点在するコナラ林を写し、更に理想化し、日々の生活の中で自然の豊かさをより実感できるように計画された雑木の庭。一九九六年秋、作庭家久富正哉さんによって造られた。
木造の母屋の設計は「えほんの郷」「若山牧水記念文学館」等の設計を手がけた「みつくぼ建築設計」の高森亮二さん。
林の中に住むこと。それは農家に生まれ里山で育った私の、子どもの頃からの夢だった。
ちいさい頃、私はよく祖母に連れられて家の裏山に入ったものだ。春はツワブキやゼンマイを採りにゆき、初夏はウツギの花咲く小径を「夏は来ぬ」を歌いながら歩き、秋はアケビや野栗を探した。冬は冬で、風呂炊きに使う薪づくりのため、家族総出で山の木を伐採する。その切りたての杉の葉の、鼻に抜ける青く清々しい香りが、私は大好きだった。自然の中にいると心が安らぐ。何より、冬の後には必ず春が来るという、廻る命の法則が私を安心させる。そんな体験が、私を林の中に住む夢に向かわせた。
おとなになって、さらにその想いをふくらませたのは一冊の本だった。それは吉野信さんの写真集「風のプレリュード」。八ヶ岳高原の四季を描いた写真集だ。そこには、春爛漫と花咲くヤマナシやサラサドウダンツツジ、夏の日ざしに輝く青葉、黄色く染まり落葉するカラマツ林の写真が魅力たっぷりに掲載され、その八ヶ岳の麓の森に点在する素敵な別荘とホテルのたたずまいという、心ひかれる風景が描かれていた。
「いつか、うつくしい林に暮らしたい。」
想いは強くなるばかりだった。
やがて結婚して、夏の旅を計画した時、迷わず選んだ先はその八ヶ岳の麓だった。以降、毎年のように、八ヶ岳をはじめ蓼科、軽井沢、安曇野、下諏訪と、山梨・長野のうつくしい森を家族で旅し、その度に木々に囲まれて暮らす日々を想った。
夢が夢でなくなったのは作庭家である久富正哉さんとの出逢いだ。
それまでは本物の林の中に家を建てることしか考えていなかった。だから、理想的な林が見つからない限り、想いは実現しないとあきらめていた。
ところが、そんな折、あるお宅で雑木の庭を見せて頂く機会に恵まれた。あまりにも自然な風景だったので、もともと木があった場所に家を建てたのかとお聞きしたら、作庭によるものだという。
庭を造るというと、頭に浮かぶのは日本庭園か花いっぱいのイングリッシュガーデンだったから、雑木林をつくる作庭家がいるということにまず驚いた。それが久富さんだった。
「この人の作った空間に住む。」
それから久富さんをご紹介頂き、家も当時私が読み聞かせのスタッフとして参加していた木城えほんの郷の〝えほん館〟を設計した高森さんにお願いすることが出来た。
息子が幼稚園に入る年頃になり、そろそろ家をつくろうと想っていた時期とお二人と知り合った時がちょうど重なったのだ。そこで、一生に一度の大きな買い物は夢を実現することにして、郊外にあった実家の土地を譲ってもらった。こうして家づくりが動き出した。
こなら亭のイメージは雑木林の中の別荘。なるべく生活感をなくし、心を解放出来る場にすること。庭も母屋も飾りすぎず凝りすぎず程々のしつらえ。
庭は宮崎の里山の風景を写すつくりだ。家もその庭と呼応しあうように木造の平屋で、リビングから庭へと広いデッキが延びて、建物と庭が自然に繋がっている。どの部屋も窓は大きく、その窓に庭の木々が枝垂れかかっている。それは、子どもの頃に夢見た通りの、里山の林の中にあるような家になった。
そして、出来あがる前から私は早々と住まいの名前を決めていた。
「こなら亭」
コナラが主木の雑木林。ここで生活しながら、子どもたちのための家庭文庫を開き、自然を身近に感じる催しやオープンガーデンをしよう。住まいに名前をつけることで、きっとそこは日常を越える素敵な時が流れる場所になる。
私の〝こなら亭暮らし〟は、こんな風に始まった。
版元から一言
宮崎県宮崎市に暮らす著者は、およそ20年前に、雑木のなかに暮らす家を理想として、雑木の庭のある家「こなら亭」を建てた。
そこでの暮らしは、木々の成長とともに昆虫や植物や鳥や小動物をも巻き込んだ豊かなものだった。そしてそうした暮らしに馴染むように、著者自身が考え方生き方を研ぎ澄ませてきたという。
彼女のそうした生き方は、現代の都会に暮らす人々が見失いがちになっている価値観だと感じる。
このエッセイ集を通して、暮らしのヒントを見つけていただけたなら、これほど嬉しいことはない。
上記内容は本書刊行時のものです。