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キッズライクアス
原書: kids Like Us
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 書店発売日
- 2020年7月3日
- 登録日
- 2020年5月21日
- 最終更新日
- 2021年1月13日
紹介
自分は自分のままでいい
自閉症スペクトラム障害の男の子の自立の物語。
ロサンゼルスの「特別な学校」に通う、自閉症スペクトラム障害の高校生のマーティンは、映画監督である母親の仕事について行き、フランスの田舎町で夏休みを過ごすことになる。
そこで通う初めての「普通の高校」で、フランス人の女の子に電撃的に恋に落ちる。
愛読書であるプルーストの『失われた時を求めて』と結びつけて、取り巻く世界を解釈する特徴があるマーティン。
恋に落ちた彼女も、周りにいる「普通の友達」も、プルーストの物語の中から見た「空想」の一つだったはずなのに、次第に、彼はそれが空想ではなく、生身の人間であることに気づきはじめてしまう。
彼にとって衝撃的な気づきと葛藤の先に見出していく答えとは。
障害の有無は関係なく、誰もが感じる人間関係の難しさや殻を破ることへの勇気が強く優しく描かれていく。
前書きなど
「〝僕ら〞はみんな? みんなって誰を指しているの、マーティン」
「自閉症スペクトラム障害の人たちのことだよ。自閉症がこの世界での存在の仕方だと思っている人たちのことだ。同性愛の人たちのようにね。同性愛も自閉症も、障害でも疾患でもないんだ。治療に抵抗を示している人たちもいる。僕らを治すことは、僕らの根底を否定することだとレイラは言っていた」
「つまり、あなたはこれからもずっと自閉症スペクトラム障害でいるってことね?」
母さんの顔が険しくなった。目には涙が溢れた。
「でも母さんたち、ずっとがんばってきて……」
版元から一言
自閉症スペクトラム障害の子供が自立へと向かうとき
翻訳者・林 真紀より
自閉症スペクトラム障害のお子さんを育てる親御さんが、口を揃えて言うこと。
「この子はどんな思春期を迎えていくのか。やがてどんな大人になっていくのか。」
子どもが自閉症スペクトラム障害という診断がおりてから、様々な療育を施した方も沢山いることでしょう。特に幼児期は、病院や療育施設で様々な療育が準備されているため、親子共々忙しい日々をおくるかもしれません。そして幼児期の療育が終わると、今度は学校に入り、学習支援に走り回る日々が始まります。そうこうしているうちに、子どもはあっという間に育ちます。親御さんのほうも悩んだり不安になったりすることもあるでしょうけれども、この時期は割と明確な「支援」の形が見えています。
けれども、その先は…?
その先、つまり、自閉症スペクトラム障害の子供が自立へと向かい始める「思春期」以降のヴィジョンが、なぜかぽっかりと空白になってしまうのです。
恋をしたり、「友情」を築いたり、あるいは自分の才能や将来の夢について考えを巡らせたり、そんな思春期の子供たちの毎日を、自閉症スペクトラム障害の子供たちがどのように迎え、感じていくのか。それが見えてこない不安を抱えながら、とにかく幼少期の療育と支援に奔走せざるを得ない親御さんがなんと多いことか。親御さんにとっては、その先は荒野に投げ出されるかのような不安感をおぼえるに違いありません。
私自身もそうでした。自閉症スペクトラム障害と診断された我が子の将来への不安ばかりが先に立ち、幼少期は「療育博士」のようになっていました。通常の幼稚園生活に加え、言語療法、作業療法、音楽療法、運動療育、そして家庭療育…。我が子も私も休む暇は全くありませんでした。ある日、我が子に「僕、疲れた。ママといるときは、もっとゆっくりしたい」「自分が『できない子』だと思うのはもう嫌」と言われたとき、「自分は一体何をやっているのだろう」と立ち止まることになりました。子どもの将来のためにはどうすることが良かったのか、私は一体我が子にどうなってもらうことを目指していたのか、その答えがまるで見えないままに子育てをすることは、本当に辛いことでした。
どんな子育てだって、正確な航海図を描き出すことは難しいですよね。それが自閉症スペクトラム障害の子どもの子育てであればなおこと。
そんな親御さんたちのたくさんの声が、この本を翻訳しようという私の気持ちを後押ししました。どちらかというと使命感に近いです。特に、暗中模索の状態で療育や支援に駆け回っている親御さんへ。マーティンが最終的に「自分は自分のままでいいのだ」と受け入れることができたように、きっと読み終わった後に、「私は私のままで、我が子は我が子のままでいいのだ」と思うことができます。この読後感、ぜひ味わってみてください。思い描く未来が、いつの間にか優しい色合いに変わっていることに気づくはずです。
上記内容は本書刊行時のものです。