書店員向け情報 HELP
出版者情報
在庫ステータス
取引情報
システム正当化理論
原書: A Theory of System Justification
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2022年7月31日
- 書店発売日
- 2022年8月10日
- 登録日
- 2022年6月7日
- 最終更新日
- 2022年8月9日
紹介
なぜ隷従するのか? 迫害され不利益を被る人々が,不公正や搾取を引き起こす現存の社会システムを擁護し正当化するのはなぜか。自分自身や犠牲者を非難し,社会変革への抵抗を示すのはなぜか。社会科学に多大な影響を与えてきたシステム正当化理論について,理論的考究から実証研究,今後の展望までを詳述する待望の一冊。
目次
第1章 新たな「自発的隷従論」
第2章 社会的正義とは何か
第3章 システム正当化理論の知的源流,主要仮定,実用的関連性
第4章 ステレオタイプ化と虚偽意識の生成
第5章 システム正当化の心理――現状の合理化,劣位の内在化,自己・集団・システム正当化動機間で生じうる葛藤に関する18の仮説
第6章 勢力をもたない感覚は権力と階層の正当化を促進するのか
第7章 「貧しいけれど幸せ」――相補的ステレオタイプのシステムを正当化する可能性
第8章 少女と女性の従属と自己従属
第9章 公正「神」信念(そして,公正社会信念)―システム正当化の一形態としての宗教
第10章 気候変動に関する変化への抵抗と動機づけられた懐疑主義を克服するために
第11章 なぜ男性や女性は反乱したりしなかったりするのか
第12章 システム正当化理論の誕生から25年を経て――批判,反論,今後の展望
付録
前書きなど
日本語版への序文
私は2010年末に一度だけ日本を訪れたことがあります。それはとてもすばらしい旅でした。社会階層と不平等教育研究センターにおける講演を東京で,さらに,京都では,こころの未来研究センターで講演を行いました。講演を開催したホストたちは,とても親切で,非常に寛大でした。どちらの会場でも,出席していた教員や学生たちは,非常に鋭く,理解も速く,熱心で,生き生きとしていて,温かく,親しみやすく,魅力的であったことを覚えています。そして社会心理学,人格心理学,政治心理学の現在進められている研究活動を知るとともに,日本の文化や歴史について多くを学ぶことができ,知的刺激に満ちた旅となりました。このときには,ハンガリー出身の妻で共著者のオルソリー・フニャディが同行してくれたこともあり,個人的な面でもすばらしい旅となりました。私たちは一緒に,仏教寺院,荘厳で色鮮やかな庭園,すばらしい寿司レストラン,京都の「哲学の道」など,多くの思い出深い場所を訪れました。新型コロナウイルスの世界的流行で海外旅行が難しくなったいまとなっては,人生で最も楽しい旅行の1つだったと,何年も経ってから懐かしく振り返っています。
A theory of system justification(Jost, 2020)の日本語版出版に感激しています。カリフォルニア州サンタバーバラではじめて出会った旧知の北村英哉教授と,ちとせプレスの櫻井堂雄社長には,この先ずっと感謝することになります。この1年,私の本に対する彼らの熱意と,日本の読者のためにこの本を準備してくれた彼らの努力は,私にとって非常に大きな喜びとインスピレーションの源となりました。私が住み,働いているアメリカを含むおもに西洋の文脈で発展してきたアイデアが,アジアの社会関係の研究に何らかの科学的,社会的関連性をもつかもしれないという可能性はとてもすばらしいことです。社会科学における普遍主義的な野望は長期的にはうまくいかないだろうことは承知していますが,さまざまな文化的文脈における二者関係や,家族,学校,職場などの社会,経済,政治制度や仕組みを含む多様な社会システムに対して,真の有用性と適用性をもつ理論的枠組みを開発しようと,私は努めてきました。北村教授たちが,私の視点に価値を見出してくださったことを,私はとてもとても嬉しく思っています。
ニューヨーク大学(NYU),それ以前はカリフォルニア大学サンタバーバラ校とスタンフォード大学で教えている私は,日本からの留学生を何人か受け入れて来ました。2017年には,北村教授のサバティカル滞在をNYUで受け入れたことも光栄であり,現代日本の社会・政治問題に対する彼の鋭い分析から大きな恩恵を受けました。これらの非常に有益な情報源から,私は,家族や友人間の関係のネットワークを形成する力学,ジェンダー問題,権威者への敬意の重要性,さらには宗教,移民,経済生産性,集団間関係に対する態度など,日本のイデオロギーやシステム正当化の過程について学びました。第二次世界大戦後の日米関係の歴史も,複雑で議論の余地があることは承知していますが,システム正当化理論の観点からは魅力的なものです。外国が一部導入した新しい社会システムと新憲法が,敗戦の痛手を受けた国民にいかにして正当なものとして受け入れられていくのか,という一種の自然実験が行われたのです。20世紀から21世紀にかけての日本の社会的,経済的成功は,ある意味で,人間が依存する社会,経済,政治システムの変化に対する適応力と認知―動機づけの柔軟性を証明するものでしょう。
私の知る限り,このような日本のシステム正当化の実験的実証は,ニューヨーク市立大学大学院とブルックリン・カレッジのカーティス・D. ハーディン教授と彼の教え子の1人であるヨシムラカスミ氏が行ったのが最初だと思います。関西大学の学部生を対象に,「アメリカ覇権」条件では「日本や日本の文化はアメリカに劣っており,アメリカの支配に屈してきた,それが日本人の生き方にどのような影響を与えてきたか」,「日本覇権」条件では「日本や日本の文化はアメリカより優れており,アメリカや世界を支配してきた,それが日本人の生き方にどのように影響を与えてきたか」について記述させるという実験を行いました。彼らは,ケイとジョスト(Kay & Jost, 2003)の一般システム正当化尺度の日本語版の得点が高い人ほど,低い人よりも「アメリカ覇権」の条件下では外集団ひいきの態度,すなわち,日本よりもアメリカに有利となる政治的態度を表明することを見出したのです(Yoshimura & Hardin, 2009)。この画期的な論文の発表以来,他のいくつかの研究が日本,中国,韓国,その他のアジアの文脈におけるシステム正当化理論の含意を探ってきました(たとえば,Du & King, 2021; Kuang & Liu, 2012; Li et al., 2020a, 2020b; Liu et al., 2021; Napier et al., 2020; Seo & Hyun, 2018; Tan et al., 2016; Vargas-Salfate et al., 2018; Verniers & Vala, 2018; Yada & Ikegami, 2017; Yam et al., 2020; Zhang & Zhong, 2019)。
この『システム正当化理論』日本語版の読者が,私と共同研究者がこの四半世紀にわたって行ってきたことに興味と価値を見出すことを,私は心から願っています。さらにいえば,文化的,言語的,学問的な境界を越えることによって,全人類にとってより平等で,革新的,平和的,そして環境的に持続可能な未来を築くのに必要ないくつかのステップを踏むことができればと願っているのです。そして,運がよければ桜並木のある運河沿いをゆっくり歩いて再び会話を交わすことを始められることを願って。
2021年8月17日
アメリカ・ペンシルベニア州イーストン市
ジョン・T. ジョスト
版元から一言
迫害され不利益を被る人々であっても,自分たちにそうした不公正や搾取を引き起こすような社会システムを非難したり抗議したりすることは少なく,むしろそうした社会システムを擁護し正当化することが多い。なぜそうした現象が生じるのでしょうか。ジョスト教授が提唱するシステム正当化理論は,そうした「隷従する」人々の心理や行動を解明します。理論的な考究からさまざまな実証研究,今後の展開を詳述しています。
上記内容は本書刊行時のものです。