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蔓延する東京 武田 麟太郎(著) - 共和国
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蔓延する東京 (マンエンスル トウキョウ) 都市底辺作品集 (トシ テイヘン サクヒンシュウ)

文芸
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発行:共和国
A5変形判
縦225mm 横150mm 厚さ26mm
重さ 450g
400ページ
並製
価格 3,500円+税
ISBN
978-4-907986-77-3   COPY
ISBN 13
9784907986773   COPY
ISBN 10h
4-907986-77-7   COPY
ISBN 10
4907986777   COPY
出版者記号
907986   COPY
Cコード
C0095  
0:一般 0:単行本 95:日本文学、評論、随筆、その他
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2021年1月1日
書店発売日
登録日
2020年12月15日
最終更新日
2021年1月16日
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書評掲載情報

2021-10-07 imidas  
評者: 古川真人
2021-04-03 朝日新聞  朝刊
評者: 戸邉秀明(東京経済大学教授・日本近現代史)
2021-03-12 図書新聞  3488号
評者: 島村輝(フェリス女学院大学)
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紹介

高見順
「私に文学的開眼を与えてくれた人」

織田作之助
「血縁を感じている」「文壇でもっとも私に近しい人」

三島由紀夫
「武田麟太郎の作品を今読んで感心するのは、その文章の立派なことだ。目の詰んだ、しかも四方八方に目配りのきいた、ギュッと締って苦味のある、実に簡潔でしかも放胆ないい文章」

* 
関東大震災からの復興をとげた、1930年代の東京。都心から周縁部へと蔓延してゆく不良住宅、工場街、そして貧困。戦争に突入する《非常時》にあって帝都の底辺をアクチュアルに描き出し、ファシズムと対峙した小説家、武田麟太郎の都市文学を集成する。
これはメガイベントで再開発が進む、日本の首都の未来図なのか?

◎発表時に削除され、これまで幻とされていた『文藝春秋』版「暴力」を初収録。

目次

 
兇器
暴力(初出『文藝春秋』版)
色彩 
場末の童謡
浅草・余りに浅草的な
託児所風景 
新宿裏旭町界隈
上野ステーション 
隅田川附近
日本三文オペラ 
蔓延する東京――食ふ物語/遊ぶ物語(単行本初収録) *写真=堀野正雄
一の酉 
私の「大学生」 
一時代の思出(単行本初収録)
東にはいつも何かある  *挿画=木村荘八
大凶の籤 
好きな場所

  作品解説にかえて

前書きなど

 本書は、日本の20世紀前半で最も重要な小説家のひとり、武田麟太郎(1904―46年)の作品集である。かれが精力的に活動していた1929年から39年にかけての数多い著作のなかから、「東京」の「社会的底辺」とそこに生きる人びとをテーマとした短篇小説、ルポルタージュ、エッセイを撰び、発表年月順に収録した。「都市底辺作品集」というサブタイトルを附したが、本書で初めて作者にふれる読者にも、武田麟太郎という小説家の全体像が伝わるよう、作品選択には意を払った。

 日本国の首都である東京とその近郊は、戦後の高度経済成長、そしていわゆるバブル期を経て大きな変貌を遂げてきたが、2021年にいたるこの数年もまた、メガスポーツイベントの開催と成功(!)を目途として、あらゆる反対意見を犠牲にしながら、激しいジェントリフィケーションに見舞われてきた。
 新宿、渋谷、池袋といったターミナル駅周辺からは暗部が一掃された。わずか30坪ほどの土地にもむやみやたらと雑居ビルやビジネスホテルが建設され、いつまで経っても「普請中」の札を掲げ続けている。公園は解体され、「カルチャースポット」へと変貌を遂げた。ベンチとおぼしきものは、撤去されるか肘掛けや仕切りが設けられ、寝そべって休憩したりそこで夜を過ごしたりという、人間として自然な行為すら峻拒されてひさしい。ホームレスを排除するためだとは公言せず、路面にくさび状の凹凸を刻みつけた一角すら存在する(「公共アート」というそうだ。くそったれ!)。セーフティネットとしての機能を放棄した「都市の東京化」はすでに日本全国に輸出され、どこもかしこもがリトルトーキョーになったとはいえ、地価や住居の暴騰はむろん、居住空間としての東京の非人間的な悲惨さは、もう眼を覆わんばかりだ。
 そういう東京に暮らしながら、本書の収録作品を読み返していると、なかば絶望的にすら思えてくるのは、ここに描かれている不良住宅や貧困をめぐる環境が、90年が経過した21世紀の現在になってもまったく変わっていないのではないか、ということだ。それが言い過ぎなら、これは東京の未来図ではないのか。 
〔……〕
 武田麟太郎というと、一般的な文学史では、宇野浩二‐武田麟太郎‐織田作之助……とつらなる「大阪の庶民」を描いた作家の系譜に位置づけられる。たしかにかれは大阪の生まれではあるが、しかし、けっして「大阪の作家」ではない。その作品を読むほどに、むしろこれほどまでに東京の現実を描こうとしたアクチュアルな作家はいないことを知るだろう。
 この作者ならではの特徴として、たとえば、初期のプロレタリア文学時代に用いられた、新感覚派を彷彿とさせるモンタージュとカットバックを駆使した文体や、あるいは「反ファッショ」を標榜した稀有な雑誌『人民文庫』の創刊など、いくつも列挙することができる。しかし、その全作品を通じて現在もなお重要な個性は、かれの作品に描かれる世界観が、社会的底辺や弱者の視座を獲得していたことに尽きる。世の中や都市を見る視座をその底辺に据えることで、底辺だからこそ仰ぎ見える帝都の実像を、一貫して描こうとしたのだ。
〔……〕
 本書に描かれる経済格差、差別、ホームレス、ジェントリフィケーション、もしくは戦争を日常としながら巨大都市に生きる人間の姿は、まるっきり21世紀の隣人なのである。

――「作品解説にかえて」より

版元から一言

本書は、1930年代の日本で最も重要な位置を占めた小説家、武田麟太郎の数ある作品のなかから、東京の底辺下層社会を描いた作品を中心に集めた1巻本選集です。「明治」時代の松原岩五郎『最暗黒の東京』、横山源之助『日本の下層社会』などに連続するといえるルポルタージュなど、17篇を収録しています。

震災から復興し、「昭和」に改元して世界第2位の人口を誇る巨大都市となり、モダニズムが謳歌される《大東京》では、その周縁地域でますます貧困が進行し、やがて戦争へと突入します。これを過ぎ去った一時期のエピソードととるか、はたして未来の姿と読むかは、読者の自由です。メガスポーツイベントのためにジェントリフィケーションが進行する《帝都》の現在と重ね合わせつつ、ぜひご一読ください。

小社から復刊した高見順『いやな感じ』の読者にも、きっと楽しんでいただけるはずです。

著者プロフィール

武田 麟太郎  (タケダ リンタロウ)  (

1904年、大阪市に生まれる。
第三高等学校卒業、東京帝国大学文学部退学。
同人誌『真昼』を経て、1929年、「兇器」でデビュー。
プロレタリア文学者として活躍するが、やがて「市井事もの」と呼ばれる作風に活路を見いだす。36年、雑誌『人民文庫』を創刊し、反ファシズム文化戦線の後退戦を担う。41年、報道班員としてジャワ島に従軍。敗戦直後の46年、藤沢市に没する。

主な小説集に、『暴力』『反逆の呂律』『釜ヶ崎』『銀座八丁』『下界の眺め』『市井事』『大凶の籤』『雪の話』など多数。エッセイ集に『好色の戒め』『世間ばなし』『市井談義』がある。

上記内容は本書刊行時のものです。