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シャイロックの沈黙
ヴェニスの商人・飽くなき亡者は誰か
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2017年3月
- 書店発売日
- 2017年2月25日
- 登録日
- 2017年2月17日
- 最終更新日
- 2017年3月1日
紹介
400年間,誰も語らなかったシェイクスピアの魂の叫び。『よみがえる「ハムレット」』に続くシェイクスピア精読シリーズ第2弾!
物語は謎かけで始まり,復活したポーシアの父親がヴェニスの商人の悪を滅ぼす別の物語の幕開けで終わりを告げる。悪者の「ぬか喜び」が善の力によって滅びるからこそ,『ヴェニスの商人』は喜劇なのだ──
目次
序 文
第1章 『ヴェニスの商人』の概要
1 くじ引きによる結婚と借金話
2 人肉裁判
3 その他の結婚話
第2章 現在までの読まれ方
第3章 謎かけで幕が上がる
第4章 召使いラーンスロットの転職
1 良心の痛み
2 「鳩」について
3 ラーンスロットの罪状
4 仕掛人は誰?
第5章 指輪と猿の物語──ジェシカ論
第6章 グラシアーノの謎の乗船
第7章 裁判と判決の問題点
1 証文作成の経過
2 ポーシアの驚き
3 シャイロックの沈黙─深い悲しみ
4 判決に込められたアントーニオの野心
第8章 ポーシアの「絶望の詩」
第9章 絞首に関する科白など
第10章 限りない欲望
第11章 正しい人間の復活
1 物語のまとめ
2 謎の恋の歌
3 ポーシアの父は生き返った
4 偏見と先入観
おわりに──批判のお願い
前書きなど
『ヴェニスの商人』は,まさにユダヤの民に対する偏見の物語である。シェイクスピアがその偏見に対し「ノー」を突きつけた物語である。しかし,四百年間,ユダヤ人であるシャイロックこそ極悪非道の人間とみなす基調で書かれたものとして読まれてきた。これ以上の偏見の例を私は知らない。
シャイロックを敵に回してその財産と魂を取り上げる物語を,シェイクスピアはなぜ書こうとしたのか? 具体的動機を確定することは不可能だとしても,やはり,エリザベス女王暗殺未遂事件で絞首台に消えたロペス医師事件が背景にあったであろう。善良な人格の持ち主シャイロックが,聖書を手にした偽善者アントーニオに全人格を奪われたように,ロペス医師がユダヤ人に対する偏見によって無実の罪によって刑場に消えたという事実に,彼は黙っていることができなかったのであろう。(略)
『ヴェニスの商人』を読むとき,そして四百年間、『ヴェニスの商人』に込められたシェイクスピアの魂が全く読まれなかったという事実を知るとき,偏見の恐ろしさを思うと同時に,シェイクスピアの人間としての偉大さに圧倒される。恐るべき人間の中の人間に会えた喜びを感じる。
偏見は,恐るべき力をもって現在もシェイクスピア研究を覆い尽くしている。
(「終章」より抜粋)
上記内容は本書刊行時のものです。