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琉球王国を導いた宰相 蔡温の言葉
- 初版年月日
- 2016年3月
- 書店発売日
- 2016年3月17日
- 登録日
- 2016年3月16日
- 最終更新日
- 2016年3月16日
紹介
琉球王国の歴史に不滅の名を残した偉人、蔡温。『王国最大の政治家』と称される彼は、突出して多くの著作を残した。自叙伝、王府政治のマニュアル、啓蒙書、教訓書など、蔡温の言葉は、時を越えて我々に訴える。その生涯・活躍した時代背景をまとめ、『独物語』『自叙伝』など蔡温自ら書き残した著作を現代語訳し、蔡音の魅力にせまる。近世琉球に多大なる影響を与えた「蔡温の言葉」にふれてほしい。
目次
はじめに― 琉球王国の歴史上、最も偉大な、最も理屈っぽい政治家
蔡温が、そこにいた ― どういう人物だったのか
蔡温登場の時代背景
蔡温は何をした人物なのか 蔡温登場までの前史 そのとき、世界は
蔡温略伝
蔡温の出自
若き日の蔡温 蔡温、出世する 蔡温、薩摩の足下を見る 尚敬王の山北巡幸
蔡温、国政のトップに立つ 平敷屋(へしきや)・友寄(ともよせ)事件 羽地大川の大改修 森林育成政策 (杣山政策) 国土再編と乾隆検地 幻の名護遷都論 晩年
蔡温の人間像
羽地朝秀と蔡温、二つの個性 蔡温の妻子
蔡温の著作について
さまざまな著作 『自叙伝』について 『独物語(ひとりものがたり)』について
「蔡温、かく語りき」 について
『自叙伝』全訳 ― 落ちこぼれから三司官へ
間の悪い誕生 落ちこぼれの少年時代 謎の隠者 隠者との問答 隠者の教え 国師蔡温 冊封使との対決 評価(ハンガー)事件 三司官就任から隠居まで
『独物語』全訳 ― 時代を乗り切る王府政治のマニュアル
琉球王国の現状
琉球は小国である 御国元(薩摩藩)には感謝すべきである 結束して大局にあたれ
外交費について
琉球は大海の中にある 漂着船への費用 不意の使者の接待費 江戸立・渡唐・王世子上国・册封などの費用 唐の兵乱にも動揺するな
国家経営の心得
人口の増加を憂えるな 優先順位を誤るな 国の等級とは
酒と自律心
自律心を失わせるもの 酒に呑まれるな 一 酒に呑まれるな 二 酒に呑まれるな 三
優先すべき二つのこと
朽ちた手綱で馬を駆けさせる
商業の自由化
商人税の免除 泡盛・麺類・豆腐の製造販売の自由化 一
泡盛・麺類・豆腐の製造販売の自由化 二 屠豚業者の制限撤廃
外交の心得
倹約につとめよ 他国に恥じない振舞いをせよ 漢文筆者を育成せよ
遊郭は治安のためである
解決すべき課題
農民の酷使 勤務評定の精査 冠婚葬祭・賞罰に関する規則
学校の創設
外患について
南蛮船への対処 武道の訓練
水運構想
避難港の確保 浦漕船の活用 首里への築港 首里人の失業対策 首里の港は首里人のためのみにあらず
山林(杣山)政策について
深刻化する木材不足 杣山を重視すべき理由 木材は自給自足すべし 樫木(イヌマキ)の育成 本島周辺離島の林政 一 本島周辺離島の林政 二 宮古諸島の林政 八重山諸島の林政
国に仕える者の心得
大局を見よ 国家の条件とは 天の摂理に従え あくまで大局を見よ 国に仕える者たちに望む
蔡温、かく語りき ―そのほかの著作から
国家について
政治について
俗信について
家庭について
生きかたについて
蔡温が撰した碑文
主要参考文献
前書きなど
はじめに― 琉球王国の歴史上、最も偉大な、最も理屈っぽい政治家
琉球王国の歴史に不滅の名を残した偉人、蔡温(さいおん)。
「琉球王国最大の政治家」「古今独歩の大経世家」「近世琉球のスーパースター」など、彼を称える形容詞には事欠きません。
蔡温には、もうひとつの称号を贈ってもよいと思います。「琉球王国の歴史上、最も理屈っぽい男」と。
蔡温は言います。
「死者の祟りなどない!」と。
なぜか。
「死者が祟るのであれば、戦で死んだ兵士は、なぜ敵兵を祟り殺さないのだ。おかしいではないか」
また蔡温は言います。
「生まれ変わりなどない!」と。
なぜか。
「人間が生まれ変わるのならば、孔子はなぜ生まれ変わってこないのだ。おかしいではないか」
さらに蔡温は言い切ります。
「あの世などない!」と。
なぜか。
「あの世などという概念は、釈迦が大昔につくりあげた方便にすぎない。そんなものがいまだに信じられているとは、じつに嘆かわしいかぎりだ」
琉球史において、蔡温ほど、その個性をうかがい知れる人物はいません。それは彼が、当時としては突出して多くの著作を残しているからです。
蔡温は筆まめな人物でした。彼は自叙伝を書き、王府政治のマニュアルを書き、啓蒙書を書き、教訓書を書き、さらには森林育成の業務マニュアルまで執筆しています。その数は、単著のみにしぼっても十六編に及びます。
残念ながら、蔡温の著作のうちいくつかは、散逸して内容が確認できません。しかし、先人の努力によって、多くが写本として今日まで伝えられています。
私たちは、蔡温の言葉を聞くことができるのです。とはいえ、当然ながらそれらは古い文体(候文(そうろうぶん)や漢文)で書かれているため、容易に読めるものではありません。
そこで本書では、彼の言葉を現代語に訳し、気軽に読めるものにしました。蔡温の半生を綴った『自叙伝』と、王府政治のマニュアルともいうべき『独物語(ひとりものがたり)』、そして、その他の著作から選んだ印象的な言葉を「蔡温、かく語りき」としてまとめています。
また、蔡温の言葉をより深く理解するために、蔡温の生涯と、彼が活躍した時代背景などを「蔡温が、そこにいた」という一編にまとめました。
理屈っぽく、説教臭く、謙虚に見せかけて自信満々で、そうかと思うと、「若い頃の自分は本当に駄目な奴だった」と正直すぎる告白をしてしまう男、蔡温。彼の言葉を通じて、どこか憎めないその魅力に触れていただければ幸いです。
《新書版追記》
本書は、二〇一一年にボーダーインクより刊行された『蔡温の言葉』を新書判として改訂したものです。前書において『家導訓』という書物の中からいくつかの言葉を「蔡温、かく語りき」として紹介していました。しかし、出版後に調べ直したところ、『家導訓』は蔡温の著書ではなく、江戸前期の福岡藩士で儒学者の貝原益軒(かいばらえきけん)の著書であることがわかりました。このたび新書版を上梓するにあたり、『家導訓』からの引用をすべて削除しました。それにかわり、蔡温の著書の中から新たな言葉を紹介しています。旧版の読者の皆様にお詫びするとともに、このたびの新書版をご愛読いただければ幸いです。
版元から一言
本書は、二〇一一年にボーダーインクより刊行された『蔡温の言葉』を新書判として改訂したものです。
上記内容は本書刊行時のものです。