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私たちの教室からは米軍基地が見えます 渡辺豪(著/文) - ボーダーインク
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私たちの教室からは米軍基地が見えます (ワタシタチノキョウシツカラハベイグンキチガミエマス)

社会一般
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B6判
並製
定価 1,400円+税
ISBN
978-4-89982-213-4   COPY
ISBN 13
9784899822134   COPY
ISBN 10h
4-89982-213-8   COPY
ISBN 10
4899822138   COPY
出版者記号
89982   COPY
Cコード
C0036  
0:一般 0:単行本 36:社会
出版社在庫情報
不明
初版年月日
2011年9月
書店発売日
登録日
2011年10月6日
最終更新日
2011年10月6日
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書評掲載情報

2012-05-13 朝日新聞
評者: 戸邉秀明(東京経済大学准教授・沖縄近現代史)
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紹介

「世界でもっとも危ない基地」米軍基地である普天間飛行場と隣り合わせの、普天間第2小学校に通う子ども達は、切実な思いを、学校の文集「そてつ」に綴った。大人になった彼らは、いま何を思うか。
「そてつ」は、沖縄の日本復帰の翌年から刊行されている小学生たちの思いを綴った文集だが、やはり「基地」に関するものが目をひいて多い。沖縄タイムス社記者・渡辺豪は、作文を書いた子どもたちのその後の人生を追い、インタビューを重ねた。「動かない基地」の現実を当事者の言葉で見つめたそのルポルタージュは、今年四月から五月にかけて「基地の街の子」として連載された。さらに追加取材を続け、新たな視点でまとめなおしたのが本書である。
 等身大の「普天間問題」に触れる、渾身のルポルタージュ。

目次

まえがき
「基地の街の子」~文集「そてつ」からのメッセージ

基地のとなりの小学校

「普天間飛行場」 五の三 知念小百合
      子ども心に違和感をもっていた

    「ぼくたちの学校」 三の三 上地完友
      やはり基地はなくなってほしい

    「爆音」  五の二 真志喜信克
     爆音に悩まされ、腹をたてる小学生がいたということ



基地と原発
  
     「私の住む沖縄」 五の二 川田学
    本心は出て行ってほしいけど、簡単じゃない
      
     「普天間飛行場」 五の五 池原武司  
      基地が生活と密着しすぎて抜け出せない

近くて遠いフテンマ

     「普天間第二小学校」 五の四 比嘉ムツ子  
      まさかまだ基地が存在しているとは思わなかった

     「アメリカ軍のき地」 四の一 翁長麻乃  
      やっぱり固定観念が邪魔をしていると思う

    「うるさい爆音」 六の五 稲福貴子
     危険と隣り合わせであることを日々感じていた

いつか、きっと

    「ぼくたち、わたしたち」 伊礼精得 (校長)
    決して言葉にはできなかったこと

    書く子は考える     知念春美(校長)

    「聞けない耳 きけない口」 五の三 伊波真由美
    いつか、きっと、きける時がくる

          普天間飛行場・普天間第二小学校をめぐる年表

前書きなど

 宜野湾市立普天間第二小学校は、沖縄の本土復帰の翌年に当たる一九七三年度から毎年、在校生の文集「そてつ」を発刊している。同小は普天間飛行場と隣接し、敷地の境界が基地のフェンスという苛烈な環境に置かれ続けている。文集のタイトルにはこうした逆境を乗り越え、岩をも貫いて生きる蘇鉄のようにたくましく育ってもらいたい、との願いが込められている。
「そてつ」と向き合うきっかけは、二〇一〇年五月四日の鳩山由紀夫首相の来県だった。鳩山首相が普天間飛行場を「最低でも県外」へ移設する方針を断念し、「県内回帰」を地元に伝える対話集会の場として普天間第二小の体育館が選ばれた。筆者も取材のため立ち会い、そこで忘れ難い光景に出くわした。
 入り口に金属探知機が設置され、大勢の警護が控える物々しい会場。重苦しい空気をはねのけるように、普天間第二小の教諭が威勢よく発言を求めた。
「騒音による昨年度の授業の中断は実に五十時間。それだけの時間を七百人余の子どもたちが奪われている。墜落したときにどのように子どもたちを守ったらいいのかと、いつもヘリを見上げている。一日も早い閉鎖を」
 そう訴えた後、教諭はつかつかと鳩山首相に歩み寄り、児童たちが書いたメッセージを手渡そうとした。報道関係者のカメラのストロボやライトが集中し、警備が一斉に飛び出して制止する中、もみくちゃにされながら、教諭は子どもたちの声を首相に託した。
 対話終了後、その教諭からコメントを得ようと、記者たちが取り囲んだ。筆者も加わったが、そのときふと頭をよぎったのが、第二小の文集だった。確か、同小独自の卒業文集のようなものがあったはずだ。ローカルのニュースで見た記憶がある。過去の分も含めて通読してみたい、と思った。
 後日、同小の知念春美校長の許可を得て、数週間かけて過去の「そてつ」を全部読ませてもらった。子どもたちの日常生活をリアルに切り取った、きらりと光る、印象深い言葉が並んでいた。何より、「そてつ」というタイトルがいい。予想した通り、毎年必ず「普天間基地」をテーマに取り上げる児童がいた。当たり前のことだが、地元の人たちにとって、「基地被害」は九六年の日米の普天間返還合意後に始まった問題ではない。九六年というのは、全国メディアが「普天間問題」というかたちで「ニュース」として発信し始めた年であって、地元住民には単なる通過点にすぎない。
 基地問題に関しては、日本本土と沖縄の認識のギャップがたびたび浮上する。しかし、沖縄県内でも、基地が集中する本島中北部とそれ以外の地域では、基地問題に対する受け止めに温度差がある。県内外を問わず、「当事者以外」の人たちに共感してもらう術はないか。生活者の視点から基地を語ってもらうことで、「等身大の世論」に近づけるのではないか。そのためには、小学生時代の詩や作文の紹介にとどまらず、「基地の街」で育った子たちが大人になった今、「動かぬ基地」に何を思うのか、じっくり腰を据えて聞く必要がある。そんな思いからインタビュー取材を始めた。彼らの基地との関係は、思想でも政治信条でも研究対象でもない。「親基地」「反基地」で単純に色分けできるものでもない。生活の中に基地が溶け込んでいる人たちである。普天間問題の当事者ともいえる人たちの心のひだに触れることで、複雑な心情を理解し、関心を深めてもらうきっかけになれば、と願っている。


 本書は、日米の普天間返還合意から十五年の節目に合わせ、沖縄タイムス紙で二〇一一年四月四日から五月五日にかけて計二十四回連載した「基地の街の子~文集「そてつ」より」がベースになっている。新聞連載後も取材を重ね、単行本化に際して加筆し、再構成した。新聞連載時には掲載がかなわなかった、心をわしづかみにされた作文も、ご本人の承諾を得て所収している。
 今この瞬間も、子どもたちが駆け回る校庭のすぐ真上を米軍機が飛び交っている。その現実に抗う言葉が本書には散りばめられている。
 一人でも多くの人の心に届けば幸いである。

版元から一言

「そてつ」は、沖縄の日本復帰の翌年から刊行された。小学生たちの思いを綴った文集だが、やはり「基地」に関するものが目をひいて多い。普天間第二小学校が基地と隣接している、というのは文字通りで、学校敷地と普天間飛行場は金網フェンスひとつの仕切りなのである。授業が爆音で中断してしまうことが日常で、子どもたちが遊んでいる校庭に、飛行場に着陸する戦闘機の影が落ちて、びっくりした子どもたちは思わずその場でしゃがみ込む……。その光景こそが、米軍統治下から日本復帰を経て現在にいたるまで、日本とアメリカが沖縄に押しつけたままの[日米安保]の姿である。その光景をあなたは想像できるだろうか。
■沖縄タイムス社記者・渡辺豪は、作文を書いた子どもたちのその後の人生を追い、インタビューを重ねた。「動かない基地」の現実を当事者の言葉で見つめたそのルポルタージュは、今年四月から五月にかけて「基地の街の子」として連載された。さらに追加取材を続け、新たな視点でまとめなおしたのが本書である。
■今この瞬間も、子どもたちが駆け回る校庭のすぐ真上を米軍機が飛び交っている。その現実に抗う言葉が本書には散りばめられている。収録された子どもたちの作文には、まっすぐな思いで見た基地と沖縄の現実があり、大人になった彼らの言葉には、「いつか、きっと」という希望が込められている。「生活者の視点」から基地を語ってもらうことによって、動かない沖縄の基地問題の本質が浮かび上がってくる。
■本書が、沖縄の、そして日本全国の、ひとりでも多くの人の心に届いて、当事者たちの、切実で複雑な心情を理解し、関心と共感を深めてもらえたら幸いである。

著者プロフィール

渡辺豪  (ワタナベ ツヨシ)  (著/文

1968年兵庫県生まれ。関西大学工学部卒。毎日新聞社記者を経て98年から沖縄タイムス社記者。現在、特別報道チームキャップ兼論説委員。主な著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(沖縄タイムス刊)、『「国策のまちおこし」~嘉手納からの報告~』(凱風社刊)

上記内容は本書刊行時のものです。