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新型コロナで世の中がエラいことになったので関西大学がいろいろ考えた。
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2021年4月20日
- 書店発売日
- 2021年4月14日
- 登録日
- 2021年2月10日
- 最終更新日
- 2021年4月16日
紹介
自粛要請と保障、自粛警察に代表される他者への不寛容、風評被害やマスクに代表される買い占め…。新型コロナウイルスの大流行がもたらした危機は、感染症をめぐる健康や医療の危機にとどまりません。
新型コロナ禍で世界のあり方が大きく変わる中、我々はこの危機にどう立ち向かえば良いのか。暮らしや社会で直面するさまざまな問題に、誰もが思い悩み、重苦しい気分を感じているでしょう。
本書は関西大学の教授陣が、幅広い分野の専門知識を持ち寄り「新型コロナについていろいろ考えた」結果をまとめたものです。専門分野をまたいだ「interdisciplinary(学際的)」な視点でコロナ禍を捉えることで、いままで気づかなかった解釈が生まれるかもしれません。
本書は1章から7章で構成されており、その内容は以下の通りです。
■第1章「最悪シナリオはどこにある」
感染症のメカニズムと対策を医学・公衆衛生学の専門家が、自粛要請や休業補償などの社会的な措置を法学者がそれぞれ考察し、コロナ禍の行方を示します。
■第2章「緊急事態宣言 試される日本社会」
緊急事態宣言下で浮き彫りになった社会不安や、不正確な情報の悪影響を心理学、情報学の専門家が分析。問題解決のための「情報・行動の免疫システム構築」を提案します。
■第3章「政府対策のネクストステージ」
新型コロナをめぐる国と地方自治体の対立を広域行政の専門家が読み解く。また、社会心理学の第一人者が、「自粛警察」やSNSの炎上などを実際の調査をもとに分析します。
■第4章「感染予測を武器にする」
「人と人の接触の8割減」など社会的に大きな影響を与えた感染予測。数理モデルを使い、感染症の本質に迫る仕組みと活用法を理論物理学者とデータサイエンスの専門家がわかりやすく紹介します。
■第5章「出口戦略を考える 判断の根拠は何か」
都市防災や原子力災害などリスク管理の専門家2人が、過去の自然災害などと比較しながら、新型コロナという「災害」を評価し、どう向き合うべきかを提言します。
■第6章「ポストコロナ・世界経済の行方」
東南アジアでフィールドワークを展開する経済学者が、現地のコロナ対策と東アジア情勢を分析。また、金融財政の専門家が、今後の世界経済の見通しを示します。
■第7章「歴史は語る ポストコロナの世界像」
奈良時代のパンデミックでは日本人の約3割が死亡した。日本古代史の専門家が、新型コロナ禍での新たな歴史解釈を披露し、気鋭の研究者がデジタル技術を活用したプロジェクトを提案します。
目次
■まえがき 関西大学学長 前田 裕
■第1章 「最悪シナリオ」はどこにある
・新型コロナのクライシスが問いかけているもの 高鳥毛敏雄
・法学者がコロナウイルス災害について考えてみた 山崎栄一
■第2章 緊急事態宣言 試される日本社会
・新型コロナウイルス緊急事態宣言下の人々の心理 元吉忠寛
・インフォデミック その光と闇を見晴るかす 近藤誠司
■第3章 政府対策のネクストステージ
・政治過程から新型コロナ後の国と自治体・危機管理の在り方を考える 永田尚三
・2020年8月、日本で人々はどう行動したか 土田昭司
■第4章 「感染予測」を武器にする
・数理モデルで新型コロナウイルスを探ってみた 和田隆宏
・なぜ予測をするのか?―新型コロナウイルス感染症の理解からコントロールへ 矢田勝俊
■第5章 出口戦略を考える 判断の根拠は何か
・国や自治体の新型コロナウイルス感染症災害への危機管理をどう見るか? 越山健治
・“–informed”の「ひと呼吸」をー予測の数値に一喜一憂しないために 菅原慎悦
■第6章 ポストコロナ・世界経済の行方
・東南アジアのコロナ事情:世界経済復興の核となるか 小井川広志
・新型コロナ感染で株価は上がるのか? 地主敏樹
■第7章 歴史は語る ポストコロナの世界像
・コロナ禍で変わる歴史の見方―古代の疫病流行と対策― 西本昌弘
・コロナ禍の歴史を作るための「コロナアーカイブス@関西大学」 菊池信彦
■あとがきに代えて 関西大学社会安全学部教授 永松伸吾
前書きなど
いま、新型コロナウイルスによって世界が大きく変わってしまいました。世界のあらゆる側面が、このコロナ禍の影響を受けています。世界での死者は240万を超え、日本でも7000人を超える方が亡くなっておられます(2021年2月15日現在)。いまだトンネルの出口が見えない中、我々人類は、どのように進めば良いのでしょうか。関西大学が、新型コロナについていろいろ考えた結果が、ここにまとめられています。
元来、人類の歴史は、ウイルスや細菌との戦いでもありました。人と人が集まるところは必ず感染症の温床となります。感染症との戦いによって消えていったと考えられる文明がある一方で、多くの人類は、その闘いを乗り越えてきました。
コロナ禍の収束のためには、もちろん、治療や予防あるいは感染防止のための手段の開発が一義的に必要でしょう。
そうすると、医学や薬学、感染のメカニズム、感染の広がりの予測に関する研究が重要になります。もちろん、これらの分野での研究成果は極めて重要です。同時に、コロナ禍での社会、生活を支える上では、医薬系だけではなく、多くの分野で考えなければならないことがたくさんあります。例えば、感染拡大の中での行政のあり方と、その施策のもとに暮らす大衆の心理の問題は大切で、その中での人の行動の制御は難しい課題です。
さらに、新型コロナへの不安が罹患者に対する偏見や差別を引き起こさないようにする必要もあります。心理学や社会学、行政学の観点からの考察も大きな知見になると思われます。経済、ビジネスへの影響はいうまでもありません。経済的な損失は多くの犠牲者を生み、疾病そのものより深刻になる可能性があります。さらには、文化や芸術にもコロナ禍は影響を及ぼしています。疫病との戦いの歴史に学ぶこともたくさんあり、我々が精神面でも、どのように進化したのかが問われるときでもあります。
私たちは、このような大きな混乱と悲しみの中でも、私たちの生活を続けていかなくてはなりません。そのためには、人類の英知を集めて、この混乱をいち早く終息させなくてはなりません。しかし、これは単にワクチンや治療法が確立され、新型コロナを病気として治療できるようになったということだけではなく、新型コロナが起こったということに対して、現代社会がどのように対応し、人々を守ったのかという問題です。ひとつひとつの研究分野が、コロナ禍に対して、いまできることを実行する必要があります。このような積み重ねが、人類の新型コロナに対する闘いの歴史につながっていくものと確信します。
関西大学を含めた教育の場も、活動のあらゆる面で影響を受けています。教育や研究に支障を来していることは事実です。一方で、高等教育の場は、このようなコロナ禍に対して、ただ影響を受けるだけの場であってはいけません。高等教育の社会に対する役割が、教育、研究と社会貢献であることから、高等教育の場は、コロナ禍に対しても、社会に貢献できる発信をしなければなりません。
関西大学には、総合大学として、人文系、社会科学系、理工系の多数の研究者の方がおられます。それぞれの研究者の皆さんが、ご自身の専門としている分野の視点でコロナ禍について議論をいただくことができます。専門的な視点からの奥深い考察を得ることができるでしょう。一方で、総合大学の強みを生かして、異なった専門分野を跨いだ、interdisciplinary(学際的)な視点から、また、複眼的な視点でコロナ禍を捉えて議論をしていただくことも可能です。いままで気がつかなかったような解釈や解法が生まれるかもしれません。このような様々な成果は、新型コロナに対する有益な、多面的な知見を与えてくれています。
さらに、これらの研究の成果は、いまの世代への教育に用いられなくてはならないとともに、アーカイブして、次の世代にも伝えられなくてはなりません。このような活動を担う場として、大学は適している上に、その責務を負っているといえます。
南インドの風土病であったコレラは、人の往来の広がりにあわせて、世界に広がりました。この間、コレラにより世界で多くの方が亡くなりました。同時に、医学的な知見と治療薬の確立による完全なコレラの克服の前に、病気そのものによらない悲劇が幾度となく繰り返されたことも事実です。未知のものに対する恐怖は、ときには、人間から正気を奪うことがあります。コレラの世界的大流行の時代から150年がたっています。コロナ禍に対して、人の心のあり方は進歩したのか。次の世代の人々から、いまの世代のコロナ禍への対応が、まさに問われるところではないでしょうか。次の世代に何を残すのかという議論も、コロナ禍のもう一つの課題として考えなくてはなりません。
関西大学がいろいろ考えた、ここに述べられている内容が、新型コロナのもとで生じた社会の諸問題の解決の一助となることを祈念して、はじめの言葉とさせていただきます。
関西大学学長 前田 裕
版元から一言
関西大学の総力をあげ、幅広い視点からポストコロナへの提言などをわかりやすく纏めた。
上記内容は本書刊行時のものです。