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取引情報
多様な性の視点でつくる学校教育
セクシュアリティによる差別をなくすための学びへ
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2020年11月25日
- 書店発売日
- 2020年12月2日
- 登録日
- 2020年11月18日
- 最終更新日
- 2023年3月2日
重版情報
2刷 | 出来予定日: 2023-03-01 |
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紹介
子どもたちに性の多様性をどう教え、教職員の意識をどう変えるのか。そして、教員のカミングアウトは学校に何をもたらしたのか。同性愛当事者が教員として取り組んだ、性差別をしないことを学校でまなぶための理論と実践。
目次
序章 学校での記憶―教室を支配するジェンダー規範と異性愛規範
1 主語の喪失―「オレ」が言えない
2 同性愛への気づきとクローゼットの出現
3 逃げ場のない教室―拘束され操られる身体と心
4 未来の喪失と獲得―電話相談でのカミングアウト
第1章 性の多様性と人権
1 SOGIEとは何か
2 SOGIEを理由とした差別
第2章 ジェンダー・セクシュアリティと教育に関する理論
1 隠れたカリキュラムとセクシズム
2 ジェンダーの再生産装置としての学校
3 ジェンダー・セクシュアリティに関する理論
4 同性愛嫌悪と異性愛至上主義
第3章 学校は性の多様性をどう教えてきたか
1 教材・教育課程の中の同性愛嫌悪
2 多様な性に関する教員の意識
第4章 性的マイノリティへの「支援」
1 性的マイノリティの子どもの可視化と「個別的な支援」
2 「個別的支援」の事例から見える課題
3 性的マイノリティの子どもが直面する困難と支援のあり方
第5章 人権同和教育と性の多様性の交叉
1 人権同和教育担当教員への聞き取り調査
2 人権同和教育の経験は、性の多様性にどうつながりうるか
3 考察―人権同和教育と性の多様性の交叉性
第6章 性の多様性をめぐる諸外国の教育
1 海外の教育実践から学ぶ二つの教育アプローチ
2 ドイツ・ハイデルベルク自由学校
3 考察―性の多様性と教育をめぐる分離と統合
第7章 性の多様性とカリキュラム
1 カリキュラムと中立性
2 学習指導要領と性の多様性
3 性の多様性を前提とした学習指導要領の提案
第8章 性の多様性をどう教えるのか
1 性の多様性と教育学の交叉
2 性の多様性を教える授業
3 成果と課題
第9章 教職員の意識を変える研修
1 性の多様性に関する教職員研修の要請
2 性の多様性に関する教職員研修
3 成果と課題
第10章 LGBT教育の手引書ができるまで
1 調査の概要
2 調査結果
3 結論―手引書ができたのはなぜか
4 課題―多様な語りの把握と分析
第11章 教員のカミングアウトは何を変えたか
1 学校でのカミングアウト
2 保護者たちはどう受け止めたか
終章 多様な性の視点でつくる教育へ向けて
あとがき
文献一覧
前書きなど
「性の多様性は子どもには理解できない」「中学生には早すぎる」。これは、かつて私が勤務する中学校で性的マイノリティの人権をテーマに授業をしたいと初めて提案したとき言われた言葉である。しかし、現実には性的マイノリティに対する差別的な言動は、小学校の低学年ですでに始まっている。「早すぎる」という言葉は、現実を無視した、あるいは現実を見ようとしない大人による差別の言葉である。やっと教壇に立つことができたとき、そこには、自分が子どもだった頃と変わらない差別の実態があった。教員として教育現場で経験した悔しい思いが、再び大学院に戻り博士課程で研究をする動機の一つとなった。
本書では、多様な性の視点から学校教育について考察し、なるべく具体的な提案を試みた。しかし、私が子どもの頃に受けてきた教育や学んだ学校空間は、ここに記したものとは違っていた。私は、自らの性的指向や性自認を自覚したとき、自らの存在を恥じ、目の前の事実を否定しようとした。そのとき、自分と同じような悩みを抱えている人が大勢いることなど想像すらしなかった。本書に記したように、性が人権であること、性は本来的に多様性を有していることなど知るよしもなかった。これは、これまでの学校教育が、本来多様であるはずの人間の性(セクシュアリティ)を、異性愛規範とジェンダー規範とに矮小化し、性の多様性を隠蔽してきたからである。このような矮小化したセクシュアリティのモデルは、性的マイノリティのみならず多くの人々の生き方を拘束し、それぞれの人が持っている多様性や可能性をも奪っている。
私は、二度目の大学院修士課程でゲイ・スタディーズと出会い、自らが体験してきたことが同性愛嫌悪(ホモフォビア)に基づく差別であることを知った。差別を告発する理論を身に着けた結果、初めて自らの存在に誇りを持つことができるようになった。その後、教員として学校現場で働きながら、性的マイノリティに対する差別を無くそうと様々な試みをした。その試みの一つが同性愛を公表して教壇に立つことであった。それは、教室にいるかもしれない当事者の子どものためであると同時に、同性愛は特別な存在ではないということを子どもたちに教えるためでもあった。それらの試みは、私が受けてきた教育への挑戦でもあったと思う。
現場では、何度も差別事象に出会い悔しい思いをした。しかし、そのたびに差別に負けたくないという思いも強くなった。また、幸いなことに目の前の子どもたちは、私を励まし支えてくれた。そんな子どもたちに、かつての自分と同じような辛い思いをさせたくない、また、差別をする側に立たせたくないという思いから、差別事象に直面するたびに問題提起をしたり、授業の提案を試みたりした。しかし、自分自身の力不足によって、歯がゆい思いを何度も経験した。どのようにしたら、教職員や学校長を説得できるのだろうか。どのようにすれば、固定的なジェンダー観や異性愛主義を変えられるのだろうか。教師や子どもたちの性に対する常識や当たり前を問い、固定した考え方を変える具体的な方法について知りたいと思った。そうした動機が博士論文のテーマへとつながった。
版元から一言
セクシュアリティが人権であるという前提に立ち、性が持つ多様性を排除するのではなく、むしろ生き方や社会を豊かにする上で欠くことのできないものととらえる。
本書は、このような性の多様性を尊重する立場から、学校教育をつくり直すことに挑戦する。
上記内容は本書刊行時のものです。