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弱さの研究ー弱さで読み解くコロナの時代
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2020年11月16日
- 書店発売日
- 2020年11月16日
- 登録日
- 2020年10月18日
- 最終更新日
- 2021年2月22日
紹介
失敗や行き詰まりというものを大事にする文化、それを活かそうとする文化、だから、がっかりしている人を見ると「いやー今日のうなだれ方いいね、君も成長したね」ってなったり、「病気が良くなったら不安が増えた」という仲間には、「残念ながら回復したんだね、おめでとう」と言ったり、反転の文化に、このコロナの時代のような不確かな時代を生きる大切な何かがある、そのようなことを本書は述べる。
目次
はじめに
第一章 弱さの力
トークライブ「弱さの力」高橋源一郎×向谷地生良司会:辻信
対談「心の病を考える」糸川昌成×向谷地生良
心の病を考える
第二章 先進国から学ぶ
べてるのルーツを訪ねる旅
スリランカという〝先進地〟
第三章 回復
和解の時代
病態失認(Anosognosia)
対談 「弱さ」で読み解くコロナの時代
前書きなど
はじめに
“行き当たりばっちり”な人と場の創造
向谷地 生良
べてるの家がある浦河に何度も足を運ぶリピーターを人呼んで「ベてら-」と言います。これを最初に言いはじめたのは、TBSの「筑紫哲也の報道特集」のプロデューサーをしていた斎藤道夫さんだったような気がします。斎藤さんも、TBSを定年退職した後も、何度となく浦河に足を運び、しまいには家まで建ててしまいました。そして、いつしか、ベてら-は「べてるウィルス感染者」だと言われるようになったのです。その意味では、斎藤さんは、かなりの濃厚感染者であり“重症”です。(参考「安心して絶望できる人生」NHK出版2005)
これに“感染”すると次のような、いままでになかった“深刻な症状”が見られるようになると言われています。一つは「何も問題が解決していないのに、いつのまにか“解消”される」という“症状”です。これは、問題解決を急ごうとする人には、のらりくらりの優柔不断な態度に感じられて苛立ち、先が見えないことでイライラも募るという副作用がついて回るので気の毒です。二つ目は、いわゆる治療者・支援者に特徴的な“症状”で医師は「“治せない、治さない医者”」であることを公言するようになり、ソーシャルワーカーは「人の相談にのることよりも、人に相談すること」が多くなります。看護師は「“すること”よりも、何を“しないか”」を考えるようになり、牧師は「救えない牧師を自認する」ようになるのです。最後には、問題やトラブルがまるでダイヤモンドの原石のように輝いて見えるという“視覚異常”をもたらすので厄介です。
個人レベルでは、「病気なのにこころが健康」になってくる、しかも「病気のお陰で友達が出来る」ようになるばかりではなく「病気になってホッとする」する予想外の出来事がおきます。さらには、相変わらず貧乏なのに豊かさを実感するという“感覚障害”をもたらすのです。これは、個人を越えて私たちが生きる場もにも影響を与えるようになります。それは、「過疎地なのに商売が繁盛」し、「病気のおかげで昆布が売れる」ようになるからです。
次にもっとも特徴的なのは、「言葉の変化」です。いままで常識的に接続することが想定されていない言葉が呟かれるようになるのです。もっとも典型的なのは「安心して絶望できる人生」でしょう。どう考えても、「安心」と「絶望」は、つながる余地のない単語ですが、それが結び付くから不思議です。これ以外にも「悩み方が上手い」「いい感じの行き詰まり感」「爽快な絶望感」「一番得意な苦労」「苦労の専門分野」など、つぎつぎと新しいフレーズが生まれています。
これらに共通しているのが、「諦め(明らかに認める)上手」になり、問題を解決するよりも「問題の熟成」を待つことが可能(熟成期間は年単位)になり、「前向きな無力さ」が身につくようになることです。さらには、どんどん「いい加減」になってくるのと、一番大事なことは「“生きがい”が無くても、生きられる」ことです。
上記内容は本書刊行時のものです。