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古楽でめぐるヨーロッパの古都
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2016年7月
- 書店発売日
- 2016年7月20日
- 登録日
- 2016年6月14日
- 最終更新日
- 2017年11月6日
紹介
西洋音楽が生まれた中世から18世紀末まで、ヨーロッパの街と人と音楽とのつながりをたどる紀行エッセイ。
訪れるのは、ヴェネツィア(イタリア)やアントウェルペン(ベルギー)といった有名都市から、ザンクト・ガレン(スイス)、クレモナ(イタリア)、ツェルプスト(ドイツ)などの隠れた名都、さらにはキプロス島や中南米まで足を伸ばします。
歴史と旅をこよなく愛するチェンバロ奏者が案内するひと味違った音楽旅行へようこそ!
アルテスの贈る古楽本シリーズ〈Booksウト〉、創刊第1弾!
目次
まえがき
第1章 ザンクト・ガレン[スイス]──修道院に聖歌がひびく
雨の中央駅
ザンクト・ガレンの発祥
キリスト教を広めた国王
大聖堂と図書館
修道院の写本製作
グレゴリオ聖歌
虚弱なノトカー
新しい聖歌
頑強なトゥオティッロ
第2章 ニコシア[キプロス]──地中海の果てのフランス
ヴィーナスの島キプロス
ニコシアにフランス宮廷ができるまで
宮廷文化の開花
ニコシアの宮廷音楽
フランスでの音楽の推移
演奏されなかった写本
第3章 アントウェルペン[ベルギー]──交易と商業で栄えた街
三〇〇年前の音に触れる
アントウェルペンの黄金時代
市民たちが支えた街の音楽
チェンバロ界のストラディヴァリ
ルッカースの企業秘密
贋作の多い製作家
あるオルガニストの逃亡
ブルのアントウェルペンでの活躍
ヨーロッパの聖歌隊員養成所
大聖堂のオルガンとカリヨン
商業的楽譜出版の元祖
第4章 リューベック[ドイツ]──「夕べの音楽」とハン諸都市
運河に囲まれた街
聖マリエン教会のオルガン
ハンザ都市リューベック
祭壇で埋め尽くされていた教会
「夕べの音楽」のはじまり
リューベックに至るまで
「夕べの音楽」の発展
バッハが北ドイツに見ていたもの
オルガン製作家について
第5章 セビーリャ[スペイン]──新世界に開かれた街
オペラの舞台・セビーリャ
異文化に開かれた窓
イスラム建築の宮殿で
モスクで弾いた鍵盤の巨匠
ローマ教皇お抱えのセビーリャ人
海賊に襲われた音楽家
番外編 プエブラ[メキシコ]──インディオの聖歌隊
メキシコの聖堂に響いた音楽
スペイン人の入植と宣教活動
パディーリャのプエブラでの活躍
プエブラの成立とその特殊性
芸術のパトロン・メンドサ大司教
第6章 クレモナ[イタリア]──ヴァイオリン製作の聖地
ヴァイオリンへの憧れ
中世の面影を残す街
ヴァイオリンの街で育った声楽曲の巨匠
片田舎から芸術の街へ
モンテヴェルディとストラディヴァリの間に
ストラディヴァリの師匠は?
ひとり勝ちの名匠
逆境を転機に
第7章 ツェルプスト[ドイツ]──歴史に翻弄された街
マクデブルクからツェルプストへ
旧東ドイツの小さな街で
市壁と塔に囲まれた街
七〇年にわたる宮殿建設
宮廷楽団の確立
国際ファッシュ協会
宮廷楽長までのあゆみ
ファッシュと宮廷楽団
エカチェリーナ二世の誕生
宮廷の所蔵楽曲リスト
ツェルプストの悲劇
第8章 マンハイム[ドイツ]──モーツァルトの就職活動
碁盤の目の街並み
モーツァルトが訪れた街
カール・テオドールの宮廷音楽
選帝侯の生い立ちとフランス趣味
ヨーロッパ最強のオーケストラができるまで
「神童」のシュヴェツィンゲン・デビュー
モーツァルトの就職活動
第9章 ヴェルサイユ[フランス]──太陽王が創造した宮殿
狩猟の城から王の居城へ
太陽神アポロンの城館
ルイ一四世の宮廷生活と音楽
フランスにやって来たイタリア少年
宮廷音楽家の頂点へ
ヴェルサイユの饗宴
オペラ上演権をめぐって
音楽悲劇とは
オペラが上演されるまで
王を称える題材の変化
小アパルトマンの整備
公式行事と夜会
宮廷とクラヴサン
クープラン一族
第10章 ヴェネツィア[イタリア]──聖俗が交錯する街
アドリア海の女王
この上なく晴朗な共和国
サン・マルコ寺院
サン・マルコ寺院の楽長として
オペラの成功と晩年
オペラの誕生
世界初の公開オペラ劇場
赤毛の司祭
劇場の跡をめぐる
女子養育院での演奏会
女子養育院でバスを歌ったのは
ヴェネツィアのもう一つの顔
養育院の背景にあるもの
あとがき
参考文献
前書きなど
まえがき
クラシック音楽の中でも古い時代(中世・ルネサンス・バロック)の音楽のことを「古楽」と呼びます。また、作曲された当時の楽器や奏法・唱法を用いて演奏する「歴史考証に基づく演奏スタイル(historicallyinformed performance)」が二〇世紀に確立されましたが、そこで必要となることは、実際に演奏する前に、作曲者が楽譜に書き記しきれなかった情報を探っていく作業です。私の専門とするチェンバロも、演奏するためには作曲者が生きていた当時の演奏習慣を知らなければなりません。どのような楽器が使われていたか。どんな所で演奏されていたか。誰のために音楽が書かれたか。どのような社会でありどのような音楽が求められていたか。それらを探るには、当時の音楽家や理論家が書いた演奏の手引きや、演奏する場面が描かれた絵画などが参考になりますが、それでも情報は充分とはいえません。
しかし歴史上起こったことの断片を集めることによって、想像力で補いながらも、その音楽が書かれた当時の世界を浮かび上がらせることができます。私はそうしたことにとても魅力を感じ、自分の中に再構築された「作曲家が生きた時代」のイメージを、音楽とともに「レクチャー」という形でお話しています。
古楽を知るためのもう一つの方法は、実際に楽曲が作曲・演奏された場所へと赴くことです。私は旅が好きで、どこかに旅行するたびに旅行記を書いており、旅先で出会った美しい建物や美術品などについて、後から調べて分かったことを綴っています。しかし「ああ、訪れる前に調べておけばよかった」と反省することも多く、それなら音楽、特に「古楽」にフォーカスしたガイドブックのようなものを作ってしまおう、というアイディアを思いつきました。
こうして、もともとチェンバロを演奏するための副産物だったものが、「音楽と街と人とのつながり」を基本テーマとする、紀行文やエッセイのような文章になりました。本書では、西洋音楽の始まりの頃から一八世紀末頃までの音楽とそれを取り巻く環境について、一章につき一つの街を取り上げています。その範囲にはキプロス島や中南米も含まれ、ヨーロッパ文化圏の広がりに驚かされます。また研究を専門とする者ではない私が、本書を書くにあたって心がけたことは、一点集中型で深く掘り下げられた研究者の成果を、できるだけ浅く広く取り入れようとしたことです。現時点では日本語で読める資料がない情報もいくつか含まれています。
この本で初めて「古楽」という言葉に触れた方には、その世界に興味を持つきっかけになれば幸いです。また、古楽の時代背景を知りたくてこの本を手に取った方は、参考文献などを参照され、さらに知識を深めていただくこともできるかと思います。また、これから実際に旅に出かけようとしている方は、この本を旅のお伴としてくだされば光栄に存じますし、居ながらにして想像の翼を羽ばたかせたい方は、時空を超えた旅を、音楽をとりまく風景とともにお楽しみいただけたら幸いです。
上記内容は本書刊行時のものです。