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復刻版 戦争放棄編
参議院事務局編「帝国憲法改正審議録」抜粋(1952年)
原書: 帝国憲法改正審議録 戦争放棄編
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2017年10月
- 書店発売日
- 2017年11月3日
- 登録日
- 2017年9月26日
- 最終更新日
- 2023年12月27日
書評掲載情報
2018-04-28 |
朝日新聞
朝刊 評者: 高見勝利(北海道大学名誉教授・憲法学) |
2017-11-19 | 朝日新聞 朝刊 |
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紹介
◆戦後の混沌の中で日本が立ち向かった最初の仕事
戦後の混沌の中で、日本が最初に取り組まなければならなかったのは、敗戦で痛めつけられた日本人の心の指針を持つこと、つまり、新しい憲法を起草することだった。しかも、世界に例のない「戦争放棄」「軍備全廃」という堅い決心のもと、日本の再建をするための基本的な考え方を示すことだった。
◆幣原喜重郎は憲法の中に、未来永劫戦争をしないようにするために、政治のやり方を変えることにした。
幣原が組閣を命じられ、総理の職についたとき最初に考えたのが、国民の意思を実現することだった。終戦の日に見た電車での光景を思い出した。男が叫んでいる。「俺たちは知らん間に戦争に引き入れられて、知らん間に降参する。勝った、勝ったと思っていたら、足も腰も立たぬほど負けたんじゃないか。怪しからん。騙し討ちだ。」自らの意思でもない悲惨な戦争を、国民に味あわせてはいけない。幣原は、この情景を見て、堅い決心をした。「戦争を放棄」し、「軍備を全廃」してどこまでも民主主義に徹しなければいけない。この信念を憲法に吹き込む決意だった。この憲法は日本人の意思に反して作ったんじゃないかという問いは、幣原には無用の質問だった。
◆多くの武力を持つことは、財政を破綻させること
生きるか殺されるかという問題になると、今の戦争のやり方で行けば、たとえ兵隊を持っていても、殺されるときには殺される。しかも多くの武力を持つことは、財政を破綻させ、したがってわれわれは飯が食えなくなるのであるから、むしろ手に一兵も持たない方が、かえって安心だということになるのだ。
◆起草にあたっては二晩も徹夜したこともあり、難航した
いよいよ憲法草案の審議にかかると、ある規定は少し進みすぎて、世の非難を受けるだろうという心配もあり、起草に関係した人たちは二晩も徹夜したことがある。相当難航を続けたが、「戦争の放棄」ということは、その中でも最重要な案件の一つだった。
目次
復刻版 戦争放棄編 目次
参議院事務局編
『帝国憲法改正審議録 戦争放棄編』抜粋(1952年)
まえがき
Ⅰ 序文
軍備全廃の決意 元内閣総理大臣・元衆議院議長 幣原喜重郎
序 内閣総理大臣 吉田 茂
編纂について 資料課長 市川正義
Ⅱ 衆議院の部
衆議院本会議
帝国憲法改正に対する勅書の朗読
内閣総理大臣施政方針演説
施政方針演説に関する質疑応答
衆議院帝国憲法改正委員会
衆議院本会議
Ⅲ 貴族院の部
貴族院本会議
施政方針演説
施政方針演説に関する質疑応答
貴族院帝国憲法改正案特別委員会
貴族院本会議
Ⅳ 附録
大日本帝国憲法改正案
対日理事会におけるマックアーサー元帥の演説
日本の新憲法――総司令部民政局報告書
「新憲法草案審議について」のマックアーサー元帥の声明
刊行の辞 参議院事務総長 近藤英明
Ⅴ 解説
戦争放棄の理論構造(事項索引)
人名索引
前書きなど
まえがき
本書は、参議院事務局編『帝国憲法改正審議録 戦争放棄編』(新日本法規出版、一九五二年)を抜粋し、復刻出版したものである。原本は、本書の序文に収めた、市川正義の「「帝国憲法改正審議録」編纂について」に書かれているように、『分類帝国憲法改正審議録』のなかの一編として企画・編集され、最初に公刊されたものである。原本は、新憲法制定の精神と政府の見解を知るうえで最適の資料として、第九〇回帝国議会における貴衆両院本会議および特別委員会の議事録を国民誰しもが容易に通読し理解できるようにするために編まれた本であるが、貴重な資料であるにもかかわらず、入手困難な状況にあった。
原本を編集した参議院事務局の市川正義が記しているように、もともとの速記録は、カタカナ書きであり、漢字も旧漢字が多用されており、文末にも読点が使われていたりして、そのままのかたちでは読みづらいので、カタカナ書きをひらがな書きにし、旧字を新字に変えたりして、読者に読みやすくしている。それでも原本は、序文と目次など冒頭部分だけで二二四頁、審議録(「審議経過及び審議要録」)と附録で六六四頁、索引は一六頁で、総頁九〇〇頁を超える大著であり、複雑な構成になっているので、さらに編集を加えなければ、現代の読者には読みづらいと思われた。
そこで、本書は、原本の審議録、序文、附録などから重要部分を抜粋し、さらに解説を付け加えて作成したものである。原本には、「戦争放棄の論理構造」と題する事項別目次も付いているが、帝国議会での個別の発言に照らし合わせると理解しやすくなるので、巻末に移し、索引として用いることができるようにした。原本では、審議録には発言内容の要旨を欄外に示しているが、本書では、これを小見出しにして文中に組み込んだ。傍点やルビはそのままにしたが、小見出しはゴシック体にした。現在ではほとんど使わない旧字や表記は、復刻版という性格上、そのままにしたが、明らかな誤植は訂正した。
このような改訂を加えているが、本書は、原本の根本精神をできうるかぎり現代の読者の益になるようなかたちで伝えることを目指して作成したものである。その際、重点を置いたのは、あくまで帝国議会での審議過程である。資料をもって語らせるという意味で、この部分はできる限り残すことにした。とはいえ、審議録自体、かなりの分量があるので、帝国憲法改正案の審議の過程でいかに質疑応答が交わされ、改正案に対する理解が深まり、第九条の条文修正に至ったかを示す部分を中心に選び、しかも、議場の臨場感が伝わるように拍手や野次などの状況記載も残した。戦争放棄の条項に関する議論の多面性を損なわないようにしたが、国体や主権や最高法規をめぐる議論は、現代からみて重要性が薄れているので、大部分割愛した。審議過程に重点を置いたのは、もとより民主主義において重要なのは決定に至るまでの過程だからである。原本では、冒頭に幣原喜重郎の「軍備全廃の決意」が載せられ、序文は吉田茂をはじめとして六人の寄稿し、そのあとに編集意図を示す「「帝国憲法改正審議録」編纂について」が載せられおり、附録は、補遺も含めて二九の資料から構成されているが、それらのうち、本書では、修正箇所が明記された「大日本帝国憲法改正案」と、憲法第九条制定に重要な役割を果たしたアクターである幣原喜重郎、吉田茂、マッカーサー、GHQ民政局の文書を選択し、原本刊行時に作られた、参議院事務総長、近藤英明の「刊行の辞」も附録に組み込んだ。
日本国憲法の制定過程に関する資料はこれまで数多く公刊されてきたが、戦争放棄に絞って議事録をまとめたのは原本しかない。しかも、原本は、たんに記録として公刊されたのではなく、編集した参議院事務局および刊行に協力した政府関係者がいかに情熱をもって戦争放棄に関する審議過程と政府見解を一般の人びとに伝えようとしたかがが伝わってくる点で、傑出した本であった。
ところで、戦後日本の政治において改憲の動きは繰り返し起こってきたが、そのターゲットが、戦争放棄を規定した第九条にあることに変わりはない。改憲に賛成か反対かは別にして、どのような議論によって戦争放棄についての認識が深められ、反対意見や疑念も率直に表明されたうえで、大多数の議員が合意するに至ったのかを知っておく必要があるだろう。帝国議会において、自衛権や安全保障についても真剣な議論がなされ、現在まで続く議論の原型が形づくられている。とくに重要なのは、帝国議会での審議をとおして戦争放棄についての立法者意思が明らかにされていることである。第九条を中心に改憲の議論を行なうとしても、先人の叡智に学び、どのような方向に進むべきかを熟慮のうえ決めていくことが、私たちの責務であろう。それこそが、戦争放棄に関する審議に焦点を当てた本を一般読者にとっても読みやすく、わかりやすいかたちで復刻出版するに至った理由である。
三和書籍が原本を抜粋して復刻出版することに決め、制作に当たった。私は、三和書籍社長の高橋考氏から依頼を受け、抜粋箇所の選択と解説の執筆に当たった。本書は、先人の努力にふたたび光を当てようとして作成した本であり、今後、憲法の改定があるとしても、過去から学び、深い議論と幅広い合意のもとでなされるための一助となることを期待している。
寺島俊穂
版元から一言
改憲派も護憲派も読んで欲しい!
日本国憲法が施行されて70年が過ぎた。戦後の平和を守ってきた世界に冠たる平和憲法であるが、今まさに憲法論議が喧しい。そこで原点に立ち返って日本国憲法が生まれた経緯や、その意義について「帝国憲法改正審議録」を紐解くのが、その精神を見るのに最もふさわしいことだと言える。審議録は全部で13巻あるが、その中で最も注目すべき巻は「戦争放棄編」だと考えて間違いない。今回、三和書籍では、「日本国憲法施行70周年」を記念して、本書の復刻に総力を挙げて取り組むことにした。
「本書はもともと国会・政府・裁判所はいうに及ばず、日本国憲法下の国民たるものは、ひとしく座右に備えて、随時繙くべきもの」(市川正義)というように、すべての国民に座右の書として読んでもらうため、口語体で読みやすく編纂した本である。本書を手に取られた方は、本書の読みやすさに驚くことだろう。ぜひ、多くの方に憲法を考えるための道しるべとして読んでいただきたいと願っている。
上記内容は本書刊行時のものです。