書店員向け情報 HELP
出版者情報
書店注文情報
在庫ステータス
取引情報
自由貿易は私たちを幸せにするのか?
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2017年2月
- 書店発売日
- 2017年2月3日
- 登録日
- 2016年11月11日
- 最終更新日
- 2017年3月30日
書評掲載情報
2017-03-12 |
朝日新聞
朝刊 評者: 諸富徹(京都大学教授・経済学) |
MORE | |
LESS |
重版情報
2刷 | 出来予定日: 2017-03-27 |
MORE | |
LESS | |
朝日新聞3/12(日)書評 大反響につき |
紹介
いま世界中で自由貿易に対する疑問の声が湧き上がっている。
トランプのアメリカ、EU離脱のイギリス……。
自由貿易を推進していくと普通の人びとの暮らしはどうなるのか、そもそも貿易をどう考えたらよいのか。
内外の研究者・NGOリーダーがわかりやすく論じる。
目次
序 章 公正な貿易のルールを創りだす 内田 聖子
1 メガ経済連携協定時代の終わりの始まり?
2 矛盾を生み出し続ける貿易と日本の課題
3 本書の構成
第1章 人びとを幸せにする貿易協定を求めて 首藤 信彦
――世界「貿易」の変容とメガ経済連携協定の脅威にどう立ち向かうか
1 メガ経済連携協定の時代
2 貿易の変容と消滅
3 貿易思想の変遷――自由から正義へ
4 経済大国の横暴へ盛り上がる批判
5 貿易における正義の視点
6 グローバル経済における貿易協定に必要な価値
7 人びとを幸せにする貿易協定をもとめて
第2章 自由貿易にNO!と言う欧米の市民社会
メリンダ・セント・ルイス × ローラ・ブルュッヘ × 内田聖子
大企業がつくる民主主義に反した秘密協定
アメリカでも期待されていないTPPの経済効果
グローバルに進む規制緩和
投資家の利益を守るためのISDS
多様な人びとの参加
第3章 途上国にとってのメガ経済連携協定 内田 聖子
――貧困・開発・人権と貿易はどのように調和できるのか
1 もうひとつの「秘密」交渉
2 日本でまったく注目されないRCEP
3 命をつなぐ医薬品アクセスの危機
4 農民の種子に関する権利が脅かされる
5 高まるISDSへの批判
6 達成できなかった国連ミレニアム開発目標
7 貿易や投資に貧困削減や格差の是正などを埋め込む
第4章 自由貿易で誰が得をし、誰が損をするのか ジョモ・K・スンダラム
――「経済効果の」真実
1 アメリカ政府による経済効果の誇大宣伝
2 貿易による経済効果の真実
3 日本とマレーシアの試算
4 誰のためのルールなのか
第5章 多国籍企業をどのように規制するか 上村 雄彦
――パナマ文書とグローバル・タックス
1 危機的な地球環境とグローバル格差社会
2 国を凌駕する多国籍企業
3 タックス・ヘイブン――パナマ文書が明らかにしたこと
4 グローバル・タックスの仕組み
あとがき 内田 聖子
前書きなど
あとがき
2016年は、貿易や投資のあり方の転換点として歴史に大きく刻まれるかもしれない。
過去30年間にわたって推進されてきた自由貿易の矛盾と無理が露呈し、メガ経済連携協定は世界各国の人びとからノーを突き付けられた。
1%の強者によるTPPに強く反対した、アメリカ大統領選挙での国民の政治的意思。環大西洋貿易・投資パートナーシップ協定(TTIP)やカナダEU包括的経済貿易協定(CETA)など地域主権を脅かす協定への、ヨーロッパ市民社会の猛烈な反対運動。また、オーストラリアやカナダなどISDSによって提訴されてきた国は、その経験から投資家優先の自由貿易協定に懐疑的だ。アジア各国でも、医薬品アクセスや貧困削減・格差是正を妨げる自由貿易への批判が高まっている。中南米の小農民の粘り強い反グローバリゼーションの闘いもある。
こうして、一時は世界中を飲み込む勢いだったメガ経済連携協定は、人びとの抵抗によって破綻の危機を迎えている。では、次に何が起こるのか? 誰もが予測できない現在、私たちは大きな転換点に直面している。
貿易や投資を完全に否定することはできない。同時に、貿易も経済も、大企業や投資家のためではなく、人びとを幸せにするための営みだ。では、ここまで歪んだ形で、貧困や格差、環境破壊の元凶になっている貿易を、どのように変えていけばいいのだろうか。
私自身はこうした問題意識でこの数年間、さまざまな活動を行ってきた。 本書の編集者であるコモンズの大江正章さんとともに共同代表を務めるアジア太平洋資料センター(PARC)が設立以来掲げる「日本と世界のつながりを捉え直し、オルタナティブな(もうひとつの)社会を創る」という理念が、その根底にある。
そうした取り組みのひとつとして2016年6月、PARCは国際シンポジウム「自由貿易は私たちを“幸せ”にするのか?――TPP・TTIP・TiSAが脅かす民主主義・環境・暮らし」を開催した。それは、世界各地で進むメガ経済連携協定を分析し、環境や人権の保護、ジェンダーの平等、貧困・格差の是正などを追求する市民社会からの対案を提示するための、横断的・学際的な取り組みの一歩である。本書はこのシンポジウムにおける国内外の専門家の報告がきっかけとなっている。
その後の半年間、世界の状況はめまぐるしく変化し続けてきた。本書では、一過性の課題を扱うだけに終わらないように、そして貿易や投資を考える視座を大きく転換するための提言をできるように、努めたつもりである。
日本ではいまだに「自由貿易イコール農業・工業の関税問題」と認識されている。だが、それは国際市民社会が立ち向かっている問題の本質ではない。本質は、ルールづくりの不正義であり、誰もが当たり前に生きていける地域や国を強者から取り戻すということだ。言い換えれば、自国の狭い利害の保護が、より脆弱な立場に置かれた他国の人びとの健康や人権、環境を破壊していないかという想像力と責任を持つことである。世界中でいま、自由貿易にもっとも従順であり、変革を恐れ、現状維持を求めている国の代表格は、日本だろう。その意味で、私たち自身が変わり、説得力のある対案を提示することが求められている。
なお、この国際シンポジウムは財団法人庭野平和財団のご支援をいただき、実現することができた。また、大江さんは半年がかりで編集に取り組んでくださった。改めてお礼を申し上げたい。最後に、本書に登場する執筆者はもちろん、巨大貿易協定を草の根の立場からウォッチし、日々情報収集して果敢に批判してきた海外の仲間たち、国内で一緒に活動してきた方々のすべてに感謝を申し上げたい。
2016年12月27日
内田聖子
版元から一言
「朝日新聞」書評(2017年3月12日)評者:諸富徹氏(京都大学教授・経済学)
「政府は、TPPが貿易自由化により国民に成長と雇用増加をもたらすと喧伝してきた。負の影響は農業に限定されるとし、どう保護/解放すべきかにもっぱら焦点が当てられてきた。
しかし実のところ、農業をはじめとする「モノの貿易」は、TPP協定のほんの一部にすぎない。本書は、全編を通じてTPPの本質が、多国籍企業の投資自由化にあると鋭く指摘する。多国籍企業の投資を妨げる障壁、それは貿易相手国の税制であり、国民の健康、安全、環境を守る規制であり、あるいは独自のビジネス慣行だったりする。これらを除去し、多国籍企業の収益最大化への道を敷き詰めることこそ、TPPの最大の眼目である。
多国籍企業の権益はTPPを通じて強化される。経済の主戦場は、すでにモノからサービスへ、さらには知的財産などの無形資産に移行している。例えば、医薬品に関する知的所有権保護の強化で多国籍企業の収益は底上げされる一方、それによるコスト増加は、国民の医療費に転嫁される。極めつきは、「ISDS(国家と投資家の間の紛争解決)条項」だ。これは、自国民の健康・安全、あるいは環境保護のため多国籍企業を規制した場合、彼らが「損失を被った」として該当国政府を訴えられる制度だ。本書は、日本ではほとんど報道されてこなかったTPPのこうした本質に、私たちの目を向けさせてくれる。
本書が採用するタフツ大学経済モデルの示す試算結果は衝撃的だ。日米両国とも、TPPによってマイナス成長、雇用減、そして労働分配率の低下が生じるというのだ。これは、「TPPは多国籍企業のためであって国民のためにならない」と警告する米国のノ―ベル経済学者スティグリッツ氏の主張とも筋道が合う。TPPは経済好影響どころか、負の影響をもたらすのだ。我々は少なくとも、こうした論点を知悉した上でTPPを論じるべきではないだろうか。」
上記内容は本書刊行時のものです。