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現代東南アジアにおけるラーマーヤナ演劇
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2022年3月10日
- 書店発売日
- 2022年3月18日
- 登録日
- 2022年2月24日
- 最終更新日
- 2022年5月11日
書評掲載情報
2022-05-21 | 毎日新聞 朝刊 |
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紹介
ラーマーヤナを見ながらラーマーヤナを学ぶ。
古代インドの叙事詩ラーマーヤナは、9世紀以降東南アジア各地に広まり、人形劇、仮面劇、舞踊劇、創作舞踊、影絵、映画、歌曲、文学、コミックなどあらゆる分野の芸術・芸能において最もポピュラーなテーマになっています。各国・各分野でラーマーヤナ演劇はどのような展開を見せているのでしょうか。
本書刊行に合わせて日本でもファンの多いインドネシアの3人のアーティストがラーマーヤナの新作を創作。記載のQRコードからYouTubeでそのパフォーマンスを実際に見ることができます:
➀舞踊劇「人魚ウラン・ラユンとアノマン対レカタ・ルンプン」(ディディ・ニニ・トウォ)
➁ワヤン・アニメーション「ラーマーヤナ:最後の使命」(ナナン・アナント・ウィチャクソノ)
③合唱・ケチャダンス「シーターの火の試練」(ケン・スティーヴン)
「ラーマーヤナを見ながらラーマーヤナを学ぶ」という新しい試みの書籍です
目次
【第1部 ラーマーヤナの多元的解釈】
第1章 現代東南アジアにおけるラーマーヤナ演劇の多元的意味
第1章付論 ヴァールミーキ版の7巻本の概要と東南アジアにおけるその展開
第2章 タイのラーマーヤナ、「ラーマキエン」の現代的展開――チャイヨー・スタジオ
製作映画を中心にして
第3章 残虐なる魔物か、それとも勇敢に死にゆく英雄か?――バリ島のワヤンの演目
「クンバカルナの死」のダランによる解釈
第4章 カンボジアにおけるラーマーヤナ演劇
【第2部 多様化する上演コンテクスト】
第5章 インド人ディアスポラとラーマーヤナ――シンガポールにおけるアートマネージ
メントとローカル/ナショナル/グローバルな表象
第6章 観光文化におけるラーマーヤナ演劇――インドネシア、タイの事例から
【第3部 表象されるラーマーヤナ】
第7章 ラーマーヤナ演劇をめぐる近代タイ知識人の認識
第8章 日本の博物館で東南アジアのラーマーヤナを展示する
【委嘱創作作品】(QRコードで鑑賞できます)
1.ディディ・ニニ・トウォによる舞踊劇「人魚ウラン・ラユンとアノマン対レカタ・ルン
プン」
2. ナナン・アナント・ウィチャクソノによるアニメーション作品「ラーマーヤナ:最後の
使命」
3. ケン・スティーヴンによる合唱作品 「シーターの火の試練」
前書きなど
はじめに
◉ヴィシュヌ神の転生であるラーマ王子が、さらわれた妃シーターを取り戻す
べく猿の軍勢の助けを借りて魔王ラーヴァナと戦うという内容を持つラーマー
ヤナは冒険、戦い、ロマンスなどの要素が満載の物語である。この叙事詩は
古代インドにて成立した二大叙事詩の1つでマハーバーラタと双璧を成すもの
として知られる。神話が神々の物語であるのに対して叙事詩は英雄たち、特
に神の転生である英雄たちが活躍する物語であり、神々の世界から人間界に
より近づいたものとして位置づけられる。王位継承争い、武将の高潔な魂、
道徳的規範などを描く人間ドラマの部分は人間の世界に近づいた叙事詩の特
徴を示しており、その一方で登場人物たちの超能力、運命、不思議な武器な
どが描かれる部分は神々の転生である英雄たちの物語の特徴を示している。
猿をはじめとする動物や魔物などが登場することも特徴である。こうした特徴
のゆえにこの叙事詩は、絵画、文学作品のみならず演劇上演の中でさかんに
演じられてきた。
◉私が初めてラーマーヤナの演劇を観たのは1980年代終わりのインドネシア・
ジャワ島バンドンで上演された人形劇だった。演目は当時一世を風靡した人
形遣いアセップ・スナンダール・スナルヤ(1955-2014)による「魔王ラーヴァナ
の戦死」。悪役の魔王ではあるが偉大な存在としても位置づけられる魔王ラー
ヴァナの戦死を描く演目は、人々に怖れられており普段はなかなか上演され
ない稀少なものであった。残念ながら当時の私はまだ内容も分からず、その
演目の貴重な価値にも気づいていなかった。だが人形遣いアセップによる人
形操作のわざと語りが随所で観客の喝采を浴びていたのは印象的な経験だっ
た。特に勇者ハヌマーンの演技とセリフを通して語られる戦いについての語り
は多くの観客の拍手と歓声を受けていた。それは叙事詩ラーマーヤナを通し
て提示される人形遣い自身の解釈と人生哲学に対する観客からの共感と称賛
であったのだろう。
◉叙事詩ラーマーヤナは9世紀頃から東南アジアの広域に伝わり、多様な分
野において独自の発展を遂げて伝承されてきた。この本は、東南アジアの演
劇を中心とする上演芸術の中で叙事詩ラーマーヤナが多様なかたちで演じら
れる現状を考察したものである。戦い、冒険、恋愛、人間の生き方を描くラー
マーヤナは、その大筋や登場人物設定を基本としつつ多様な解釈を加えられ
てきた。東南アジアの人々が独自の翻案を生み出し演劇やダンスなどの中で
その効果的表現を追求してきた主要な題材の一つである。上述の人形劇だけ
でなく影絵、俳優劇、仮面劇など多様な演劇ジャンルの中で親しまれてきた。
演劇やダンスの上演は地域によっては王権や宮廷文化と結びつき、各地の主
要な文化表現の媒体として観光や文化遺産指定などのコンテクストで着目さ
れてきた。映画やコミックなどを通しても広まってきた。東南アジアのアー
ティストたちは、その時代における社会状況、文化的な価値観に対する独自
の考えを叙事詩ラーマーヤナに投影しながら芸術的表現を追求してきた。そ
うした現代東南アジアにおける叙事詩ラーマーヤナの多様なあり方を演劇的
ジャンルに焦点を当て検討しようと試みたのがこの本である。
◉口絵カラーページにはインドネシアのアーティスト3人による新作の作品も
収録されている。この本を通して叙事詩ラーマーヤナが演劇を通して東南ア
ジアに広く普及し人々に親しまれ、現在に至るまで独自の発展を遂げている
現状を多くの人々に伝えたい。
福岡まどか
版元から一言
➀舞踊劇➁影絵アニメーション③ケチャダンス・合唱という最新のラーマーヤナ作品のパフォーマンスをYouTubeで実際に鑑賞しながら「ラーマーヤナ」について学ぶ、という新しいスタイルの書籍です。おそらく今後このようなスタイルの研究書がどんどん出てくると思います。アナログ世代としては驚嘆するしかないというところです。
上記内容は本書刊行時のものです。