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ベトナムの皇帝陶磁
――陳朝の五彩と青花――
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2008年9月
- 書店発売日
- 2008年9月19日
- 登録日
- 2010年2月18日
- 最終更新日
- 2015年8月22日
紹介
全世界の美術愛好家が注目するベトナム陶磁の名品が初めて世に出ます。40年の経験を誇る現役古美術商の著者がこの10年間に全精力を傾けて蒐集した五彩(色絵)と青花(染付)の極上品です。著者の豊富な経験に基づく鑑定眼と膨大な資料による研究、科学分析による年代測定から、これらの作品がベトナム陶磁史の空白を埋める13~14世紀の陳朝のものだということがわかりました。自らの「心の眼」による確信をもとに、ベトナム陶磁史の定説に挑戦する過程は緻密かつスリリングな美術史研究として読むことができます。もちろん500枚のカラー写真を見ていくだけで、中国、タイ、クメールなどの名品とともに、ベトナム陶磁の真髄を味わうことができるはずです。
目次
はじめに――比類なき壮麗なる陶磁の出現
第1章 安南の由来
第2章東南アジアの古美術
第3章咲き誇る紅色の大輪
第4章無謀とも思える挑戦
第5章海底から引き揚げられた交易陶磁器
第6章花街城の太上皇
第7章孔雀と牡丹
第8章先駆けの様相が見られるベトナム五彩
第9章 宋赤絵と元五彩
第10章未知なるベトナム五彩
第11章陳朝の青花と南海交易
第12章中国の双龍とベトナムの鳳凰
前書きなど
「はじめに――比類なき壮麗なる陶磁の出現――」から
それは、1999年に始まった。
ベトナムの北部で新たに陶磁器が発掘され、国外へと運ばれたのである。出土品はごさい五彩(赤絵)とせい青か花(染付)のみで、これらは国境をなす西の高地を越えて、ラオスを通過し、メコン河を渡った。それを受け入れたタイの町は、主に東北部のノーンカーイと北部のチェンコーンであったが、時にラオスからミャンマーを経由して北部のメーサーイへ着いたこともあった。この動きは、ほぼ、三、四ヵ月に一度の割合で、五年にわたりえんえんと続いた。
この間私は、五彩と青花に備わった高い芸術性に魅せられて、収集に全力を挙げた。またその過程で、ただ単に優れているというだけに止まらない特別な価値があるのではないかと、その素性や正体に興味を持った。そして器形と文様を手掛かりに編年を求めた結果、すでに中国陶磁の影響下から脱して独自性を発揮し、ベトナム陶磁が頂点を極めていたチャン陳朝(1225~1400)後期の未知なる遺品群であるとの確信を得た。
器種は多様で、一対を除く超大作から極小品まですべて一点主義で構成されていて、器面は最高位の龍や鳳凰をはじめとした吉祥文と、多彩な従属文で装飾されている。特に中心となる大作群は、祭器であった可能性が高い。その表情は華やかなうえに艶やかで、温かさと優しさに満ちている。同じ作品が一点たりともないという極めて贅沢なこの作陶は、壮大な構想の基に、国家の財力と技術と英知の粋を集めてこそ創作できた優品であろう。その背景に精神性豊かで充実した社会なくしては成し得ない。しかも官窯経験豊富な指導者と、画院の存在が不可欠である。これらを満たし統率できた人物、それは時の為政者であった皇帝以外にいないと断言できる。
同時代である中国のげん元朝(1271~1368)では、主に景徳鎮の官営工房である官窯やその管理下にあった民窯で、皇帝やその家族、もしくは宮廷でのみ使用するための官窯製品を焼造していた。同様にベトナムでもチャン陳朝前期の天長府に官窯が置かれていたとされ、他の重臣たちもそれぞれの要地で盛んに製陶を営んでいたようであるが、その実体はまだ解明されていない。だが、本稿で初公開となる五彩や青花は、チャン陳朝後期の皇帝窯とも言える皇帝直轄の窯で焼造された官窯製品と推察できる格調高き遺品である。しかも、過去にその例を全く見ていないことからも、皇帝一族の超特別な独占物であり秘陶であったと想像される。したがって、本書ではこれらを正しく皇帝の陶磁器とみなし、ベトナム陶磁史から抜け落ちていた知らせざる栄光の一章を明らかにするとともに、べトナム国家の主体性と伝統美の神髄を浮き彫りにしつつ、定説となっている従来の編年を遥かに超えた新見解に基づき、歴史を踏まえた新たな陶磁史を再構築している。そして、現世に忽然と甦ったベトナムの至宝をここに『ベトナムの皇帝陶磁』と命名し、題目に留めて上梓する次第である。
東南アジア陶磁のみならず、東洋陶磁における近来稀にみる世紀の大発見を、みなさまとともに享受したいと思う。
版元から一言
ベトナム陶磁がこんなに素晴らしいとは知りませんでした。世界の美術愛好家が注目しているというのもうなずけます。この本は、ベトナム陶磁に魅せられた著者の10年にわたる蒐集の道筋をたどったものですが、テーマは2つあります。1つはベトナム陶磁の魅力を伝えること、もう1つはベトナム陶磁史の定説への挑戦です。その根っこにあるプロの鑑識眼――それを著者は「心の眼」と言っています――はさすがに凄いものだと思います。
上記内容は本書刊行時のものです。