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a:9:{s:12:"shoshi_title";s:25:"満州開拓団の真実 ";s:11:"shoshi_isbn";s:17:"978-4-8228-1780-0";s:16:"shoshi_publisher";N;s:11:"description";s:315:"特定秘密保護法の決定、共謀罪の強行採決といった政策は、満州開拓団の過去をないがしろにしている。軍隊の庇護も受けず、現地に取り残され、逃げまどったあげく集団自決した「満州開拓団の悲劇」を、元毎日新聞記者が伝える。";s:6:"author";s:22:"小林 弘忠(著/文)";s:10:"publishers";s:15:"七つ森書館";s:9:"publisher";N;s:9:"productor";s:15:"七つ森書館";s:12:"release_date";i:1501686000;}

満州開拓団の真実 なぜ、悲劇が起きてしまったのか

歴史・地理 ラノベ

小林 弘忠(著)
発行:七つ森書館

四六判   240頁  並製
定価 2,000円+税

ISBN 978-4-8228-1780-0   C0021
在庫あり(出版社情報)

奥付の初版発行年月 2017年8月
書店発売日 2017年8月3日
登録日 2017年5月26日

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書評掲載情報

2017-10-08 東京新聞/中日新聞  朝刊

紹介

 中国未帰還者問題はじめ、満州開拓団の悲劇はいろいろな面でとりあげられているが、長野県高社郷(長野県下高井郡出身者で構成)の500人にのぼる集団自決──軍隊の庇護も受けずに、現地に取りのこされ、逃げまどったあげく自決したのである。集団自決したのはどんな人たちだったのか。
 特定秘密保護法の決定、集団的自衛権の行使容認や武器輸出三原則の撤廃、ODAを他国軍にまで支援拡大し、「共謀罪」の強行採決といった政策は、満州開拓団の過去をないがしろにしている。満州開拓事業が国策として決定されてから、今年で81年になるが、政治の意思決定が国民の生命に深くつながっていることを、後世に伝える。

目次

はじめに

第一章 開拓民の犠牲者は八万人余

第二章 陸軍が主導した満州移民事業

第三章 ソ連軍の来襲

第四章 死の結束

第五章 沈黙の名簿

第六章 流血と闇市

第七章 強権発動もできなかった軍

第八章 大本営の哀訴

第九章 重かった終戦への舵

第十章 政府・軍の相互情報隠し

「満蒙開拓平和記念館」──あとがきに代えて

参考文献

前書きなど

はじめに

 第百八十六国会予算委員会初日の平成二十六(二〇一四)年一月三十一日、前年自民・公明の政府与党などがあたふたと強行議決した特定秘密保護法案が質疑の俎上にのぼった。質問に立ったのは、民主党(現、民進党)衆院議員・篠原孝。冒頭、このように切りだした。

 篠原議員 森雅子担当大臣(当時)にお伺いしたい。戦争をこれからはじめる、あるいは終わるといった事実は特定秘密にあたるのでしょうか。常識の範囲でいいからお答えください。
 森大臣 私は、戦争は二度と起こしてはならないとの立場でありますから、戦争が起こるという前提に立った質問にはお答えできません。
 篠原議員 過去のことでいいのです。お答えください。
 森大臣 特定秘密のことは、これからの問題ですから、過去のことについてはお返事できません。
 篠原議員 そういう答弁ではだめです。ここでしっかり議論して国民にわかってもらうためのいい機会なのに、なぜそういう機会を利用しないのですか。

 森担当大臣との間で、このようなやりとりがあったのち、篠原は「みなさん、ご存知ないと思いますが」と前置きして、旧満州(現、中国東北部)の満州開拓団のある出来事を話した。終戦十日後(昭和二十年八月二十五日)に起きた長野県高社郷(郷は開拓団のこと)の五百人にのぼる集団自決についてである。開拓団民はほとんどが農民で、お国のためにと政府に勧められて、農業生産のため、極寒の地へ渡った人たちである。
 この事件にふれたあと、篠原は特定秘密保護法案が成立したあとも、同法案の撤廃ないし凍結を求める地方議会が、平成二十五年十二月末までに十四道県四十一市町村議会におよんでいると説明、つぎのように語った。
 「反対している市町村は長野県が圧倒的にトップ、ついで北海道の順となっている。これは何を意味するか。長野県民は終戦直後に起きた集団自決事件を念頭にして、不安を感じているからです。戦争が終わったという公然の事実さえ政府から知らされなかったために、多くの人が(参戦してきたソ連軍に追いつめられて)非業の死を遂げたのです。戦争が終わったと知っていたら、集団自決はなかったでしょう。日本が降伏したのはまぎれもありません。秘密でも何でもない。それが伝わらなかった。こうしたことが特定秘密保護法でまた蒸しかえされるのではないか」
 そして、安倍晋三首相に問いかけた。
 「長野県には満蒙開拓平和記念館という施設があります。ボランティアで建設されたものです。史実を伝えようとつくられたのです。こうした歴史にこそ、国は『ごめんなさい』と頭を垂れるべきではないですか。総理、記念館に一度いらしたらどうですか」
首相の返答は、以下のようだった。
 「(高社郷の集団自決は)寡聞にして知らなかった。きちんと人びとに終戦を知らせなかったのは大変な問題で、それにより悲しいことが起きたことは肝に銘じなければならないが、こうした苦しみがないよう私たちも努力していかなければならないし、悲劇に遭われた人びとには手を合わせたい」
 ぶっきらぼうで誠実味がない。靖國神社に参拝したときの、「国のために尊い命を落とした英霊に対し、尊崇の念を表するのは一国のリーダー、また国民として当然」との談話とはずいぶん違っていた。
 長野県満州開拓団(通常「満蒙開拓団」と呼ばれるが、本書では便宜上「満州開拓団」とする)の農民たちも、国の施策にしたがって大地も凍るソ連国境の地へ渡った。しかし、その国策の一部は、大陸の土地簒奪による開拓事業だったのであり、そのことと、ソ連参戦はおろか、終戦も知らされず、軍隊の庇護も受けずに、現地に取りのこされ、逃げまどったあげく自決したのである。
 戦前、大陸の地に赴いたこれら「鍬の戦士」たちは二十七万人といわれ、開拓民のうち昭和二十年八月九日以降のソ連との戦闘や飢え、寒さ、自決で亡くなった人は八万人におよんでいる。その中の一つが高社郷集団自決事件である。銃を手にして国のために戦った「鍬の戦士」と軍人と、農民と命の尊さに差があろうはずはなく、集団自決そのものさえ、いまは忘れ去られようとしている。
 中国未帰還者問題はじめ、満州開拓団の悲劇はいろいろな面でとりあげられているが、国会論議を聞き高社郷事件が頭にこびりついた。集団自決したのはどんな人たちだったのか、自決者は実際にどのくらいいたのか。無性に知りたい気持ちにかられた。
 満州開拓事業が国策として決定されてから、平成二十九年で八十一年の歳月が過ぎた。往時は茫々としてきたが、高社郷集団自決事件がどうして起きたのかを中心に、満州開拓団について思いをいたしてみたい。

著者プロフィール

小林 弘忠(コバヤシ ヒロタダ)

 1937年、東京都生まれ。毎日新聞社に入社、社会部、地方版編集長、メディア編成本部長などをつとめ、定年退職後ノンフィクションの著作活動をつづけている。2006年刊行の『逃亡』(毎日新聞社)で第54回日本エッセイスト・クラブ賞を受賞。
 主な著書に『新聞報道と顔写真』『巣鴨プリズン』(ともに中公新書)、『金の船ものがたり』『天に問う手紙』(ともに毎日新聞社)、『ニュース記事にみる日本語の近代』(日本エディタースクール出版部)、『江戸川柳で現代を読む』『熟年介護日誌』(ともにNHK出版)、『私の戦後は終わらない』(紀伊國屋書店)など。

上記内容は本書刊行時のものです。