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地方自治のあり方と原子力
- 初版年月日
- 2017年2月
- 書店発売日
- 2017年2月21日
- 登録日
- 2017年1月11日
- 最終更新日
- 2017年2月28日
書評掲載情報
2017-04-30 | 毎日新聞 朝刊 |
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紹介
福島原発事故から5年余、脱原発が世論の主流となり、多くの地方自治体が、住民の生命と生活・財産を守るため、脱原発の動きを始めました。国と地方自治体は本来「対等」ですから、地方自治体が住民の声を反映しなければなりません。脱原発を志向する地方自治体・地方議会の動きの報告とともに、取り組みができている要因や課題、今後の展望や提案を各地からレポート。
目次
はじめに──佐伯昌和(農業・反原発運動全国連絡会世話人)
巻頭インタビュー 嘉田由紀子前滋賀県知事に聞く
脱原発に取り組む県知事の苦悩
序 論 住民の安全と自治体
自治体にできることはたくさんある──末田一秀(自治労脱原発ネットワークアドバイザー)
1 原発再稼働にブレーキをかける
新潟県知事と歩む不断の取り組み──武本和幸(柏崎原発反対同盟)
鹿児島県で脱原発知事が誕生して──野呂正和(鹿児島県護憲平和フォーラム前事務局長)
伊方原発再稼働阻止を求める高知県の運動──山﨑秀一(高知県平和運動センター顧問)
玄海原発再稼働をめぐる佐賀での新たな息吹──深江 守(脱原発ネットワーク・九州)
2 隣接・隣々接自治体から原発を止める
「原発現地」の京都から文化を発信する──佐伯昌和(脱原発みんなの願いの会・京都)
海を越えた隣接市・函館が提訴──竹田とし子(大間原発訴訟の会)
浜岡原発永久停止を求める静岡県牧之原市──大石和央(静岡県牧之原市議)
立地並み安全協定を求める鳥取県米子市──土光 均(鳥取県米子市議)
兵庫県篠山市では市民の取り組みでヨウ素剤を事前配布──玉山ともよ(兵庫県篠山市原子力災害対策委員会委員)
3 福島第一原発事故被災の中から
宮城県で始まった「脱原発をめざす県議の会」との取組み──篠原弘典(仙台原子力問題研究グループ)
町ぐるみの指定廃棄物処分場反対運動──栃木県塩谷町総務課指定廃棄物処分場対策班
東海村で考える「ポスト原発」の未来──相沢一正(脱原発とうかい塾)
4 自然エネルギーを活かす
環境モデル都市・長野県飯田における自然エネルギーの活用──原 亮弘(おひさま進歩エネルギー(株)代表取締役)
自治体が始めた電力小売り事業──深江 守(脱原発ネットワーク・九州)
市民・事業者との協働により自然エネルギー導入推進──中川智子(兵庫県宝塚市長)
前書きなど
はじめに──佐伯昌和(農業・反原発運動全国連絡会世話人)
「どうやったら原発を止められるか」をずうっと考え、試行錯誤してきました。
チェルノブイリ原発事故後の1988年4月、高木仁三郎さんを先頭に脱原発法制定運動を始め、330万人の署名を集めました。しかし脱原発法は作ることができませんでした。それから、ずうっとです。
2011年3月、残念なことに福島原発事故が起こります。あの事故に直面し、福島をはじめ東日本・中日本の人たちだけでなく、日本中の、いや世界中の人たちが「えらい事になった。原発さえなければ」と思うようになりました。日本の約9割の人々が脱原発を願っています。原発再稼働についても、どの世論調査結果も約6割の人が反対しています。脱原発が保守・中道・革新を問わず、日本のコンセンサスとなりました。それを背景として民主党政権時に「2030年代に原発稼働ゼロが可能となるようあらゆる政策資源を投入する」とするエネルギー環境戦略が決定されました。でもそれは、安倍政権になって反故にされてしまいました。
しかし脱原発の大河はゆっくりと流れています。表面の水は時に逆流しますが、底流はしっかりと流れています。原発を重点的に動かす福島原発事故前の状態から、原発ゼロもしくはごく一部の原発が動く状態へと変わりました。省エネルギーも自然エネルギー利用も進みました。
また福島原発事故被害に対する民事裁判、福島原発事故の責任を問う株主代表訴訟や刑事裁判、原発運転差し止め訴訟など原発裁判が各地で起こり、成果を上げています。
さらに、多くの地方自治体が住民の生命と生活・財産を守るため、脱原発の動きを始めました。2016年3月、共同通信社が全自治体対象のアンケート調査を実施し、99・6%に当たる1782自治体が回答しています。それによると全国の知事と市区町村長の65・6%が「原発低減」を求めています。さらに京都府や滋賀県・山形県など8府県の知事は全廃を求めています。住民を守る責務を有する自治体が、身近な住民の意識を反映したものといえます。
北陸電力・金井豊社長は「東日本大震災後の5年半、ほとんど原発なしでやってきたせいもあるかもしれないが、原発は必要ないと考える人が多くなっているように思う。その結果が新潟、鹿児島の知事選や、高浜原発の運転差し止めなど各地の裁判結果に表れてきている」と福井新聞社のインタビューに答えています(2016年12月28日)。
前書にあたる『脱原発、年輪は冴えていま──フクシマ後の原発現地』(2012年10月、七つ森書館刊)の「はじめに」で私は「フクシマ後、脱原発が国民の願いとなり、世論であることは誰にも否定できません。そして多くの人々が、地方自治体や地方議会が声を上げ、脱原発をさまざまな場でさまざまなスタイルで求めるようになりました。しかし電力会社や大手金融機関が実権を握る経済団体をはじめとする『原子力群』の抵抗は激しいものがあります。自らの利権がかかっているのですから当たり前です。『綱引き』はこれからが正念場です」と書きました。未だ政府や電力会社は原発再稼働をあきらめ切れないでいます。
地方自治法によれば、国と地方自治体は本来「対等」であるとされています。頭では「ああ、そうか」と思っても、実感としては「現実とは違うなぁ」というのが、私も含めて多くの人の感想ではないでしょうか。
しかし、こんな大事な、大切な法律を使わない手はない、理想に終わらせてはいけないと思います。私が〝京野菜〟や〝有機農業〟のテーマで講演する時、「百姓は人のマネしてナンボです。真似する価値を見出して、自分のものにして次の展開があります」とよく話します。地方自治体もよく似ていると思います。先進事例の視察や勉強会がいい例です。
福島原発事故によって、原発問題はいわゆる「立地」自治体だけでないことを皆が理解するに至りました。「隣接」自治体の取り組みも活発化しました。接していない「離れた」自治体の取り組みもいっぱい出てきました。「立地」自治体にも変わろう、変わらねばの動きが出てきました。そこには住民の切実な声があります。
「原発再稼働に地方自治体が待った! をかけられるのか。防災計画や避難計画は大丈夫か。福島原発事故でバラ撒かれた放射能をどうするのか。原発避難者とどう手を携えていくのか。省エネルギーや自然エネルギー利用をはじめ脱原発社会のあり方は」等々、多くの課題を抱え、市民とともに脱原発社会実現に向け歩み出しています。華々しい取り組みもあれば、血がにじむような地道な取り組みも、ささやかでもとても大切な取り組みもあります。
『はんげんぱつ新聞』を1978年より毎月1回発行する反原発運動全国連絡会は、各地の住民団体や市民グループ・労働組合など脱原発を希求する緩やかなネットワークです。そのネットワークを使って、各地の地方自治体の取り組みや住民の働きかけを課題や今後の展望も含めて一冊の本にできないかと考え、企画したのが本書です。
書き手は脱原発運動の活動家だけでなく、地方自治体の首長や議員、その経験者にもお願いし、奥の深い内容を読みやすくしようと努めました。
本書の趣旨に賛同して下さり、滋賀県の嘉田由紀子前知事や兵庫県宝塚市の中川智子市長、栃木県塩谷町役場処分場対策班にも執筆していただきました。また「自治体にできることはたくさんある」と題して、はんげんぱつ新聞編集委員で自治労脱原発ネットワークアドバイザーの末田一秀さんが、ヒントに満ちた序論を書いています。
地方自治体が脱原発社会実現に向けて住民とともに動くことで、国と「対等」の関係も実現できればと思います。本書がその糧になれば幸いです。(2017年1月吉日)
上記内容は本書刊行時のものです。