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沖縄の環境・平和・自治・人権
- 初版年月日
- 2017年2月
- 書店発売日
- 2017年2月27日
- 登録日
- 2017年1月11日
- 最終更新日
- 2017年3月3日
紹介
オスプレイ墜落事故、辺野古裁判を最高裁は上告棄却……、沖縄の民意は「オスプレイはいらない」「辺野古に新基地はつくらせない」ことにある。10月に開催された学会のレポートから、高江と辺野古の問題について、専門家がアカデミックに検証します。“オールスター”ともいえる豪華執筆陣です。
目次
はじめに……寺西俊一
総 論 沖縄から未来を拓く……桜井国俊
1 特別講演 日本にとって沖縄とは何か……新崎盛暉
2 基調講演 沖縄の環境問題……桜井国俊
3 基調講演 安全保障と沖縄……我部政明
4 基調講演 安全保障と地方自治……宮本憲一
5 基調講演 国際人権と環境・文化──先住民族の視点から……上村英明
第1部 環境・平和・自治・人権についての辺野古・高江の問い
はじめに……花輪伸一
1 生物の多様性豊かな辺野古・大浦湾と埋め立て問題……安部真理子
2 東村高江・国頭村安波の自然と米軍ヘリパッド建設の影響……宮城秋乃
3 「高江アセス」の問題点……宮城邦治
4 オキナワ問題とは何か……屋良朝博
5 戦後日本の立憲主義の欺瞞と沖縄が主張する自己決定権……島袋 純
6 日本の環境アセスメントの問題点……原科幸彦
7 沖縄の全基地返還への展望……前泊博盛
第2部 辺野古が提起する法的(国際法を含む)諸問題
はじめに……喜多自然
1 米軍への提供施設・区域と環境保全……新垣 勉
2 脅かされる地方自治──辺野古争訟(裁判)の検証……徳田博人
3 辺野古が問う日本の環境民主主義──オーフス条約の視点から……大久保規子
4 どの故郷にも戦争に使う土砂は一粒もない……阿部悦子
5 国際社会から見た辺野古新基地建設……吉川秀樹
6 東アジアの平和と辺野古新基地建設……ガバン・マコーマック
第33回日本環境会議沖縄大会宣言
あとがき……真喜志好一
前書きなど
まえがき──寺西俊一(日本環境会議理事長、帝京大学教授、一橋大学名誉教授)
2016年10月21日(金)~23日(日)、沖縄国際大学を会場にして「第33回日本環境会議沖縄大会」(以下、沖縄大会)が開催され、規模・内実ともに成功裡に終えることができた。この沖縄大会は、日本環境会議(JEC)と大会実行委員会(実行委員長:桜井国俊氏、事務局長:砂川かおり氏)の共催という形をとったが、同実行委員会には、沖縄環境ネットワーク、沖縄社会教育研究会、沖縄平和ネットワーク、沖縄リサイクル運動市民の会、原発事故避難者に公的支援を求める会、大学等非常勤講師ユニオン沖縄、つなごう命──沖縄と被災地を結ぶ会、日本科学者会議沖縄支部など、地元の関係諸団体にも幅広く参加していただいた。さらに、協賛団体として、一般社団法人アクト・ビヨンド・トラスト、名義後援団体として、日本弁護士連合会、日本自然保護協会、全国町並み保存連盟、日本生活協同組合連合会からの協力を得た。また、前記の一般社団法人アクト・ビヨンド・トラスト、辺野古基金、沖縄国際大学からは、それぞれ貴重な助成や大会経費の一部補助を受けることができた。ここに、沖縄大会成功のためにご尽力を賜ったすべての関係者の方々に対し、日本環境会議を代表して、改めて感謝の意を表しておく。
さて、この沖縄大会では、10月22日(土)の開会式で、淡路剛久氏(日本環境会議名誉理事長・立教大学名誉教授)、小柳正弘氏(沖縄国際大学副学長)、翁長雄志氏(沖縄県知事、代理)、稲嶺進氏(名護市長)の各位から挨拶を受けた後、続く全体会で、特別講演(新崎盛暉氏)と4つの基調講演(桜井国俊氏、我部政明氏、宮本憲一氏、上村英明氏)が行われた。そして翌10月23日(日)にかけて6つの分科会が開催された。初日の10月21日(金)には、現地視察ツアーとして、①「辺野古コース」、②「米軍基地周辺コース~騒音と汚染」も企画・実施され、とくに本土からのツアー参加者にとっては、沖縄の米軍基地をめぐる現場の理不尽な実態をつぶさに学ぶ良い機会となった。
以上のように、先の沖縄大会は、非常に充実したプログラムのもとで緊迫感のある有意義な議論が行われ、幸いにも、この大会の模様は、連日、地元紙の『沖縄タイムス』と『琉球新報』が1~2面を割いて大きく報じてくれた。だが、きわめて残念なことに、本土の主要メディアによる取材や報道は皆無に近かった。このため、大会実行委員長を務めていただいた桜井氏からの提案を受け、急遽、1か月後の11月23日(祝日・水)午後、明治大学駿河台キャンパスを会場にして「沖縄大会東京報告集会」を開催することにした。当日は、祝日だったにもかかわらず、120名余の参加者があり、花輪伸一氏(沖縄環境ネットワーク世話人)の司会・進行のもと、礒野弥生氏(日本環境会議代表理事・東京経済大学教授)の開会挨拶、沖縄から前出の桜井氏、屋良朝博氏(フリージャーナリスト)、島袋純氏(琉球大学教授)、高里鈴代氏(基地・軍隊を許さない行動する女たちの会共同代表)が登壇され、10月下旬の沖縄大会の成果も踏まえながら、改めて活発な議論が行われ、きわめて有意義な集会となった。
さらに、その翌日(11月24日)には、辺野古米軍新基地建設や高江でのヘリパッド建設の強行によって深刻な自然環境の破壊が進行しつつある沖縄県の大浦湾・辺野古沖および「やんばるの森」の環境保全をめぐる緊急の課題について、環境省への直接要請行動を行った。この要請行動では、「沖縄大会宣言」とともに、日本環境会議が「普天間・辺野古問題を考える会」(代表:宮本憲一)と協力して昨年(2016年)9月9日(金)に記者発表を行った「有識者共同声明」(「沖縄の人権・自治・環境・平和を侵害する不法な強権発動を直ちに中止せよ!」)(賛同呼びかけ人182名、賛同者数:2016年11月24日現在2666名)も併せて、環境大臣あてに提出した。なお、この「有識者共同声明」に盛り込まれた内容は、沖縄大会の全体テーマ(「環境・平和・自治・人権──沖縄から未来を拓く」)に即したものであった。
さて、本書は、後出の桜井氏による「総論──沖縄の未来を拓く」において詳しく述べられているとおり、先の沖縄大会における全体会、および、第1分科会(「環境・平和・自治・人権についての辺野古・高江の問い」)と第2分科会(「辺野古が提起する法的(国際法を含む)諸問題」)での主な議論を収録・編集したものである。ここで、本書のタイトルにも使われている「環境・平和・自治・人権」というキーワードの意義について、一言だけ、付け加えておきたい。
実は、1996年11月の「第16回日本環境会議」を沖縄で開催したときの大会テーマは、「環境と平和」であった。それから20年目にあたる先の大会テーマについて実行委員会で議論した際、まず「環境と平和」はそのまま引き継ぎ、さらに辺野古での米軍新基地建設をめぐる問題等を念頭に置くならば、「自治権」に関する沖縄の主張を入れねばならないということで、「自治」のキーワードが加えられることになった。その後、昨年(2016年)5月には、元米軍属による20歳の女性の殺害という悲惨な事件が発覚した。改めて考えてみれば、沖縄ほど、基本的人権がこれほど踏みにじられているところはない。そこでさらに、「人権」のキーワードも追加されたのである。そのような経緯があったために「環境・平和・自治・人権」という順になったが、少し論理的に考えれば、「人権・平和・環境・自治」の順にするほうがより適切ではないかと思われる。つまり、「人権」が守られるためには「平和」がなければならない。また、「平和」があってこそ「環境」も守られる。そして、この21世紀において、私たちは「人権・平和・環境」という3つの基本的な価値ベクトルをさらに大きく発展させていかなくてはならない。そのためには「自治」が不可欠である。「自治」は、私たちが発展させていくべき3つの基本的な価値ベクトルを担う主体に関するキーワードだと言えるのではないか。
いずれにしろ、今日、以上のことを、最も先鋭的かつ凝縮的に示している現場が沖縄にほかならない。沖縄の人びとは、「人権の尊重」「平和の実現」「環境の保全」を切実に願い、また、そのために沖縄の自治権──現地では「自己決定権」という言葉が使われている──を強く主張している。まさに、これからの時代においては、将来世代への責任の自覚を踏まえて、自分たちのことは自分たちで決めていくという原則、つまり「自治」の確立こそ、私たちがこれから追求すべき最も重要な価値ベクトルだと言うべきかもしれない。今、沖縄の人々は、そのことを私たちに鋭く突き付けているのである。
ところで、すでに幕開けした2017年は、いったい、どのような年になるのだろうか? 年明けの各新聞にほぼ共通していたのは、「不穏な世界の始まりの年」あるいは「混迷と混乱の時代の始まりの年」といった、かなり悲観的な見出しであった。こうした各紙に共通する見出しに接して、ふと私の頭をよぎったのは、今から40年前の1977年、アメリカの著名な経済学者だった故ジョン・ケネス・ガルブレイスが出した“The Age of Uncertainty”という本である。同書は、たちまちベストセラーとなり、日本では「不確実性の時代」がキーワードとなった。そして実際、この本の出版後、アメリカでは1979年3月にスリーマイル島の原発事故が発生し、80年代初頭には旧ソ連によるアフガン侵攻が始まり、1986年4月には世界を震撼させたチェルノブイリ原発事故が起こった。それから間もなくして、旧ソ連体制が脆くも崩壊し、東西冷戦が過去のものとなった。つまり、予測された確定的なシナリオで時代が動くのではなく、全く予想外の“Uncertainty”な時代が目の前に到来している、そういう先見的な問題提起の本であった。ここで、仮に同書のタイトルになぞらえるならば、今は、“The Age of Unseen”、要するに「誰も先が見通せない」、そういう時代に入っているのではなかろうか。また、“Unseen”に「前代未聞」という意味があるとすれば、これまで経験したことがないような事態がこれから次々と起こってくることになるのかもしれない。こうした不透明な時代においては、「歴史は未来への道標」という言葉のとおり、まずは歴史に立ち戻って、今を確認し、そして確かな未来の方向を探っていく、そういう冷静な英知がとくに重要となってくる。そこで、改めて歴史を振り返ってみれば、今年は、戦後の日本国憲法と地方自治法が施行されてから70年という節目に当たる。このことは、私たちにとっては非常に大きな意味がある。先の沖縄大会のテーマであり、本書のタイトルにも使われている「環境・平和・自治・人権」という、戦後社会における重要な価値体系を集約的に示しているものが戦後の日本国憲法であり、地方自治法だと思われるからである。
上述したように、確かに今は、“The Age of Unseen”(「先が見えない時代」)かもしれないが、他方で、私たちには、はっきりと見えていることがある。それは、間違いなく、前記の「環境・平和・自治・人権」が、この21世紀においてこそ、ますます重要になってくる基本的な価値ベクトルだ、ということである。この4つの普遍的な価値ベクトルは、これからの時代において私たちが目指していくべき未来への「確かで揺るぎない基本的な指針」だと言ってよいだろう。私たちは、これらの普遍的な価値ベクトルのさらなる発展に向けて、沖縄から日本の本土、アジア、そして世界の未来をどう切り拓いていくか、そのための着実な取り組みをさらに前進させていかなくてならない。本書は、そのために大いに役立つ貴重な記録となっている。少しでも多くの人々の手に本書が届き、今後、幅広く普及・活用されていくことを心から念願する次第である。
上記内容は本書刊行時のものです。