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鞍馬天狗のおじさんは
聞書・嵐寛寿郎一代
- 初版年月日
- 2016年3月
- 書店発売日
- 2016年2月26日
- 登録日
- 2016年2月9日
- 最終更新日
- 2016年5月25日
書評掲載情報
2016-04-03 | 朝日新聞 |
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紹介
「ゲイジュツ、関係おまへんおや」とアラカンが繰り返し言うこの聞書は、竹中労の怨筆と相まって、私を夢中にさせた。──ともに無頼の竹中とアラカンが“合体”したとも言える絶品の快作を心ゆくまで堪能してほしい。(佐高信「解説」より)
目次
世界一面白い本や マキノ雅弘
序 章 嵐寛寿郎の他に神はなかった
聞書・1 生い立ちの記
第1部 ああ、サイレント時代
聞書・2 天狗、売り出す
聞書・3 山中貞雄のこと
聞書・4 さらば無声映画
レポート・Ⅰ マキノ・東亜・寛プロ
(活動写真よろしかった)
第2部 雲の上から地の涯てへ
聞書・5 かくて、神風は吹かず
聞書・6 戦争あきまへん
聞書・7 女難・剣難の巻
レポート・Ⅱ 日活~三社統合・敗戦
(ほてからに、ほてからに)
第3部 化天の中をくらべれば
聞書・8 あらかん天皇紀
聞書・9 老兵・路頭に迷うの巻
聞書・10 君知るや南大東島
総括・A かえりみれば半世紀
聞書・11 老いらくの章
総括・B==嵐寛寿郎名作劇場
あとがき・ファンの皆さんに 竹中 労
解説 佐高 信
前書きなど
あとがき──ファンの皆さんに(竹中 労)
ようやくこんな形で、“アラカン一代”を活字にすることができました。寛寿郎さんとお約束したのは、一九七三年六月ですから、まる三年以上かかったことになります。書店等を通じて、出版社への問いあわせは数百に及び、私自身にも直接手紙や電話で、「いつ本になるのか?」と度々のご叱声が寄せられました。
けっして怠けていたわけではなく、完璧な書物にしたい、とりわけて[マキノ・東亜・寛プロ]=鞍馬天狗・むっつり右門の原点というべき時代を、できるだけ正確に記録するために、思わぬ歳月を要してしまいました。資料の収集・整理だけで、『美空ひばり』に何層倍する労力を、ついやさねばなりませんでした。オールド・ファンの方々には、それでもご満足をいただけない、不備脱落があると思います。昭和初年生まれの私にとって“無声映画の黄金時代”は、いうならば空想旅行の世界に属します。一世代前の人々には現実であり、追憶である映像が、私には夢でありまぼろしです。僅かに残された断片的なフィルム、出版物などで、辛うじて継ぎあわされる壊れた玻璃の器なのです。つまりは、これが精一杯の営為であるのだと、ご寛恕をいただきたい……
あの永田雅一はん、“松竹・東宝戦争”の記述など、俳優の伝記には無用のことと考えられる方々もあるのではないか? 著者の独断・もしくは偏見で、寛寿郎さんご自身が迷惑するのでは、と。そうかもしれません、しかし私も、まぎれもないアラカン・ファンであり、ファンにはそれぞれの恣意的な思い入れがあるのです。そもそも、「嵐寛寿郎の他に神はなし」と、あられもなく口走ること自体、アラカンに何の興味もない人々には、まさに独断であり偏見であり、狂気のサタであります。ファンとはスターにとって大抵、有難迷惑な存在なのです、竹中労もまたその例外ではないのだ、とご理解下さい。断わるまでもなく、この書物の責任はすべて著者が負わねばなりません。寛寿郎さんは、「おまかせをいたします」といわれて、ゲラにも眼も通されませんでした。何卒、こんな本は気に入らない、ウソが書いてあるとお思いになる方は、寛寿郎さんご当人にではなく、著者にお申し越しを。
……この書物に収録した写真は、故・南部僑一郎所蔵のスチール等に、「映画と演芸」「映画スター全集」「キネマ旬報」の口絵、グラビア復写を加えました(ささやかな私のコレクションも何点か)。写真がボケているじゃないか、印刷が汚いと思われるむきも、おそらくあるでしょう、これは復写・拡大のためです、美しさよりも記録のほうに重点を置いて選んだのです。作品名・共演者など、推定でキャプションを付したものも、すくなからずあります。誤まりがございましたら、ぜひご指摘をおねがいします、再版の機会に訂正いたします。
新潟の渡辺才二さんから、新聞雑誌のスクラップ、上映館のプログラムその他、貴重な資料と助言をいただきました。後援会を取材しなかったのは、『美空ひばり』のときでも同じで、全国のアラカン・ファンに、いわば白紙の心境で、この書物をうけとってほしいと考えたからです。スターの伝記、“著者”と称するものの中には往々、所属をしている会社・プロダクション、あるいは後援会とのタイアップで、出版される場合があります。まちがっているとはいいませんが、“自由なもの書き”としては、どのような影響にも、予断にもとらえられたくない。寛寿郎さんの後援会が、「親衛隊」というジャリ・サクラ集団を煽動して、宣伝・営利に結びつけようという類のものとは、まったく性格が異なることを承知で、やはり遠慮をさせていただきました。“自由なファン”として、きびしいご批判をお寄せ下さい。
マキノ稚弘、仁科熊彦、並木鏡太郎、稲垣浩、青山正雄(嵐寿之助)の諸氏、そして森光子さん、アラカンゆかりの方々のご協力を心から感謝します。とくに、マキノ監督には序文=談話を寄せていただきました、有難うございました。“近刊予告”を何度もして、ファンの皆さんに叱られながら(?)、長いあいだ辛棒してくれた、白川書院の方々にもお詫び、お礼申し上げます。「キネマ旬報」白井佳夫編集長、「日本映画縦断」担当吉田成己君にも、あらためて──
昭和五十一年九月二十五日
*寛寿郎さんのたってのご希望に、この本の定価は、どうしても添えないことになりそうです。それは、「嵐寛寿郎名作劇場」をくわえた私に、責任のあることなのです。予定の枚数を百五十枚もオーバーしたので、映画料金と同額ではとうてい採算がとれないと、編集部からいま申入れがあったところです。
寛寿郎さんにも、ファンの皆さんにも申し訳ございませんが、“指定席”よりは安いということで、お恕しをいただきたいと存じます。
上記内容は本書刊行時のものです。