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佐高信の男たちのうた 佐高 信(著) - 七つ森書館
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佐高信の男たちのうた (サタカマコトノオトコタチノウタ) 自選「人間讃歌」 (ジセンニンゲンサンカ)

文芸
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発行:七つ森書館
四六判
218ページ
定価 1,800円+税
ISBN
978-4-8228-1543-1   COPY
ISBN 13
9784822815431   COPY
ISBN 10h
4-8228-1543-9   COPY
ISBN 10
4822815439   COPY
出版者記号
8228   COPY
Cコード
C0095  
0:一般 0:単行本 95:日本文学、評論、随筆、その他
出版社在庫情報
不明
初版年月日
2015年10月
書店発売日
登録日
2015年9月1日
最終更新日
2016年5月25日
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紹介

人生の機微を語り尽くし、男たち、女たちへ贈る。
ここに登場する男たちは、みんなしたたかに強く、潔く、成功もし、有形無形のものを世の中に残している。しかし、それと同じくらいに、弱さを持ち、板挟みに悩み、失敗も重ね、失ったものの痛みを抱えている。ひとひねりも、ふたひねりも屈折している。(吉永みち子)

目次

はじめに

男と男のつきあいは……
吉井勇と石坂泰三
良寛的人間
落首の精神
贈る言葉
手紙、葉書、手紙
鬼瓦とライオン
キャプテン・ラストの思想
チャーチルの戦い
平松守彦と義父、上田保
「舟唄」を好んだ前川春雄
本田宗一郎と久野収
俵万智と『心の花』
「異色官僚」佐橋滋の純情
横山やすしと与謝野晶子
悪役俳優、成田三樹夫
東京の日
雨ニモ負ケズ
二十四歳の中学生
語りかける「時代」
身柄引受人
たき火
北の訛り

佐高信のうた──吉永みち子

前書きなど

はじめに

 姉二人、妹一人の女の中に育ってきたためか、男ということを妙に意識して生きてきた。たとえば、「男は背中」などと言われると、そうだなと納得したりするのである。

  蟻食いを噛み殺したまま死んだ蟻

 一九三八(昭和十三年)年秋、二十九歳で獄死した鶴彬はこんな川柳を詠んだ。

  手と足をもいだ丸太にしてかへし
  万歳とあげて行った手を大陸へおいて来た

 こうした壮絶な反戦川柳をつくって逮捕された鶴の死には、官憲による赤痢菌注射説まで噂された。蟻食いを蟻が噛み殺すことなどはありえない。しかし、鶴の、短くも壮烈な生涯は、そのありえないことがありえたかのような感じを抱かせる。
 鶴の死から六十年近く経ち、芦屋のマンションで、その川柳がよみがえった。大阪の〝夜の商工会議所〟といわれた「クラブ太田」のママだった太田恵子と妹が百人一首の上の句と下の句を誦し合うように、鶴の川柳を誦し合ったのである。
 きっかけは太田が私の本を読んでくれたことだった。あるいは彼女は私を鶴に擬しているのかもしれないが、それでは、私も早晩、〝獄死〟しなければならなくなる。
 『財界』の元社長で、『文化通信』の会長だった山口比呂志が『文化通信』に連載していた「某月某日」の一九九七年七月三十日の項にこうある。
 「夕刻、佐高信さんと大阪の元マダム・太田恵子さんの対談司会に。この日のため彼女、20冊の著書を読んだとか。メモを片手に質問は女学生のよう。さすがの佐高サンもテレていた」
 この対談は同紙の同年八月二十五日号に掲載されたが、彼女も拙著『男のうた』(講談社文庫)を読むまでは、私を「怖い斬るばっかりの人やと思ってた」という。
 「大阪の人はとくに知らないんですね。佐高さんと会ってきたというだけで、『フゥー』なんて私を怖がる人もままある。とにかくクラブ『太田』に来てた人は、みんなことごとくやられてるね」
 日銀総裁の前川春雄(当時)等、「やられて」ない人もいるのだが、そう述懐した後で、私の原点はここにあるとして、太田は『男のうた』に引いた高校教師時代の私の教え子の一文を目の前で読み上げた。これに私は「テレ」に「テレ」たのである。
 「俺はよかったよ。先生みたいなかわった先生にあえて。俺の兄貴がくると、いつも俺は自慢するんだ。『俺達の先生はすごいんだぞ。教科書をつかわないんだ。文部省の手先でないんだ』って言ってるんだ。
 山の子の山を思うがごとくにも、悲しい時、苦しい時、淋しい時、ひまな時には先生のススンデル授業を思い出すでしょう。蟻の話(小林多喜二『一九二八年三月十五日』参照)はとても感動しました。先生は俺達を向こう岸へ一人でも渡そうとする勇敢なアリです。でも死にたえてはいけません。後から後から不安定な心をもったアリが続々やってくるのですから。  
                            三年の啄木好きの文学少年より」
 酒田工業高校を卒業したこの「文学少年」も、すでに還暦を過ぎているはずである。私は決して「勇敢なアリ」ではないが、いつまでも「怒りを忘れないアリ」ではあろうと思っている。
 大阪商工会議会頭の杉道助や東急の五島昇などの「男の人のいい背中」を見てきた太田は「俺はいい男だよっていう顔してる」人には惹かれない。
 「太田さんは変わってるから、ゲテものが好きとか、そういうことないですか」
 と私が茶化すと、彼女は、たとえば前川春雄について「話をしなくても、聞いてくれる人」だったとその魅力を語った。「いい背中」を見せる男は聞き上手らしい。

   2015年9月1日   佐高 信

著者プロフィール

佐高 信  (サタカ マコト)  (

1945年山形県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、高校教師、経済誌編集長を経て、評論家となる。「週刊金曜日」編集委員。憲法行脚の会呼びかけ人。主な著書に『安倍晋三と翼賛文化人20人斬り』(河出書房新社)、『佐高信の昭和史』(角川学芸出版)、『不敵のジャーナリスト筑紫哲也の流儀と思想』(集英社新書)、『丸山眞男と田中角栄 「戦後民主主義」の逆襲』(集英社新書、早野透との共著)、『未完の敗者 田中角栄』(光文社)、『佐高信の百人百話』(平凡社)、『世界と闘う「読書術」』(佐藤優と共著、集英社新書)、『飲水思源』(金曜日)、『西郷隆盛伝説』(光文社知恵の森文庫)、『福沢諭吉と日本人』(角川文庫)、『昭和 こころうた』(角川ソフィア文庫)、『安倍政権を笑い倒す』(角川新書、松元ヒロとの共著)、『自民党首相の大罪』『佐高信の緊急対論50選 誰が平和を殺すのか』『西部邁と佐高信の思想的映画論』『佐高信の一人一句』(いずれも七つ森書館)ほか多数。

上記内容は本書刊行時のものです。