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西村和雄の有機農業原論
- 初版年月日
- 2015年4月
- 書店発売日
- 2015年4月11日
- 登録日
- 2015年3月3日
- 最終更新日
- 2017年1月16日
重版情報
2刷 | 出来予定日: 2017-01-17 |
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紹介
日本を代表する有機農業研究者の一人である農学博士・西村和雄の集大成!
言葉でなかなかうまく説明しにくい有機農業の技術や論理について、誰にでも分かるように解き明かされました。京都大学農学部での研究生活、自身の実践経験、有機農業の技術指導で日本国内はもちろん、海外を飛び回った経験を、一冊にまとめる。
目次
第1章 有機農業再考
1 健康管理という概念 その1
2 健康管理という概念 その2
(1)土壌の肥沃度
(2)土壌生物の種組成
(3) 作物の健康管理
(4)家畜(家禽)の健康管理
(5) 人の健康管理
(6) まとめ
第2章 有機農業の技術に関する問題
1 有機農業に技術はありえるのか
(1)還元主義について
(2)江戸時代にもどる気か
(3)多様性の意味と意義
2 育土論
(1)育土という意味──土つくり
(2)育土という意味──土の育て方 その1
(3)育土という意味──土の育て方 その2
⃝農地の土壌改良 その1
⃝農地の土壌改良 その2
(4)育土に使うマメ科植物
(5)クロタラリアとセスバニアのあとは
(6)育土という意味──土の育て方 その3
⃝造成農地の場合
(7)まとめ
⃝マメ科植物を利用して土壌を肥沃に
3 除草論 1
(1)野草というもの
(2)除草あるいは抑草の技術
(3)ヘアリーベッチを使う
(4)その他の除草方法
(5)野草の生態
4 除草論 2
(1)面積の大きい畑地の除草と耕作機械
(2)水田の除草について
⃝物理的方法
◦紙マルチ
◦チェーン除草
◦機械除草
⃝耕種方法
◦冬季湛水
◦代掻きの反復
⃝生物を用いる方法
◦アイガモ
◦ジャンボタニシ
◦コイ
⃝複合的耕種除草法
◦糠除草
⃝まとめ
5 病害虫
(1)生物の多様性
(2)虫の食害と食害の程度
(3)防除手段の開発
⃝菌、フェロモンなどによる防除
◦冬虫夏草菌
◦昆虫フェロモン
◦BT剤
⃝耕種的防除
◦トウモロコシの場合
◦バンカープランツの育成
⃝有機で使える人畜無害の天然有機物
◦ご禁制(?)の特効薬
◦もうひとつの素材
◦天然素材ではないが その1
◦天然素材ではないが その2
6 施肥
(1)メタボ野菜とは
(2)メタボを避ける低投与型とは
7 育種
(1)有機農業に適した品種
(2)品種の保存
◦自家不和合性
◦自殖性
◦栄養繁殖
◦他殖性
8 作づけ
(1)作づけの実際
⃝間作(インタークロッピング)
⃝混作(ミックスクロッピング)
⃝輪作(クロップローテーション)
⃝忌避植物(リペラント・プランツ)
⃝コンパニオンプランツ(共栄作物)
⃝カバープランツ(被覆植物)
⃝バンカープランツ
⃝トンデモ科学
⃝まとめ
第3章 これからの有機農業
1 有機農業を定義する
(1)「安全・安心」を超えるもの
(2)有機農業の定義
2 有機農業を分類する
(1)施肥による分類
(2)低投与型が理想
(3)天候を読むのもサイエンスのひとつ
3 自給率と食育の大切さ
(1)100%自給は可能だ
(2)大切な食育
4 今後の日本と有機農業
(1)世界を席巻できる力をもつ
(2)TPPという黒船の砲艦外交
(3)米価を下げさせたのは誰だ?
(4)エネルギー
(5)中山間地に住んで気づいたこと
(6)原発の行く末
(7)これから
前書きなど
第3章 これからの有機農業
1 有機農業を定義する
(1)「安全・安心」を超えるもの
いっては悪いが有機農業は現在まで十年一日のごとく、地産地消、産直提携運動が幅をきかせながら、虫食いだらけの野菜のうえに「安全・安心」の連呼を続けてきた。包括的な定義をつくらなかったため、いたずらに混乱を生み出して、有機農業に包括するべきさまざまな呼称を主張する有機もどきといってよい農法を生み出させ、消費者が判断に迷ってしまうような分岐を生み出させてしまった。
日本有機農業研究会がわが国の有機農業のパイオニアであり、唯一のリーダーを自負しながら、結局のところ消費者運動の一端を担うことでしか有機農業の基礎を築けなかった原因は、定義すら満足につくろうとしなかったことがひとつの理由なのではないだろうか。どうも提携という単語だけが肥大していたように思えるのだ。
なにはさておき、有機農業の定義の試論をおこなってみよう。その根幹は圃場生態系の構築と完成、そして圃場に土壌生物の多様な世界をつくりあげることである。
(2) 有機農業の定義
有機農業(自然農法を含む)は、農地および農地をとり囲む周辺の自然生態系に賦存する自然資源(土壌中の生物・土壌および有機物と地上の生物など)を有効かつ効率よく利用することによって作物生産を可能にする農業形態である。その目的は薬物を使わずに病害虫から作物を防御するか、作物自身の抵抗力を高め、耕地生態系が自律的に機能するような栽培・圃場管理などの方策を構築して、持続可能な農業生産をしようとすることにある。したがって、耕地生態系の自律的機能を阻害あるいは攪乱するような、合成化学物質である農薬類や化学肥料は、一切使用しない。
これが有機農業を定義する試論である。
このなかで、「農地および農地をとり囲む周辺の自然生態系」とあるのは自然生態系といっても、農地が耕耘や作物の播種・移植・収穫など、常に人工的な攪乱を受けていることが前提となっている。どのような農業形態であっても、地上や土壌に棲息する生物に対して常に攪乱を与えることになることを承知していただきたい。
また、自然資源とあるのは、土壌中に賦存している作物の養分や有機物あるいは土壌中に棲息する生物(土壌動物や土壌微生物)および鉱物としての粘土・シルト(粘土の粒子よりすこし大きい土壌鉱物)などの無機物も包括する。
そして、それら自然資源が自律的に機能するような生態系をなしていることがもっとも重要である。それゆえ、地上・土壌の生物を含めて生物の種とその棲息数はいずれもおおければおおいほどよいと考えている。ただし、常に攪乱を受けるため、土壌生物の棲息数には限界があることは承知するべきである。ここで重要なことは自律的機能が阻害を受けるような、という意味での農薬類と化学肥料の類である人工合成化学物質は使用してはならないというのが当然のこととなる。
これまで有機農業の世界では、農薬や化学肥料をなぜ使用してはならないのか? という問いに正面からまともに答えてはこなかったといってよい。農薬類や化学肥料の使用は、結果的に生態系の自律的機能を阻害するために、害虫・病原菌といったネガティブな因子がはびこる原因をなしているというわけである。
なお、堆肥・ボカシ肥・畜糞肥料など、収量確保を目的として耕地に有機物を施用する場合、作物の増収を期待するような投与方法や投与量は、それ自体が圃場生態系の攪乱を招来するおそれ(あるいは生態系の構成が単純化する)が多分にある。また、かかる投与は作物自体の代謝を乱し、結果として食味や調理時に不要な副次効果を生み出すことになりかねない。それゆえに量的に過剰と思われるような肥料の施用は望ましいものではなく、圃場生態系の維持や自律的な機能の円滑な遂行に必要な分量で妥当なものとするべきである。なお、くどいが、収量と食味とは反比例することをもう一度付記しておく。
上記内容は本書刊行時のものです。