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宮澤賢治をめぐる冒険
新装版
水や光や風のエコロジー
- 初版年月日
- 2011年10月
- 書店発売日
- 2011年10月8日
- 登録日
- 2011年10月7日
- 最終更新日
- 2013年2月22日
紹介
「私の知る限り、今の科学者たちはまず人間として涙を流し、オロオロするところから出発しようとしない。その前にすべてをデータとしてクールに受けとめてしまう。そこに今日の科学の原点にある問題があるのではないか」宮澤賢治をこよなく愛した市民科学者・高木仁三郎の原点。
目次
第1話 賢治をめぐる水の世界
賢治と水
生命の水
「やまなし」の水イメージ
妹としの死と水の形
「雁の童子」と生命の連鎖
四次元の「流れ」としての「銀河鉄道の夜」
第2話 科学者としての賢治
賢治を読むということ
科学を人間的な場へ、私の歩み
生きる場で
共に生きるための科学
「グスコーブドリ」とエコロジー
大循環
実験科学者として
第3話 「雨ニモマケズ」と私
あとがき
前書きなど
あとがき
多少は違った切り口から、宮澤賢治を考えてみたいと思って、この何年かいくつかの場所で話してきたものに手を入れ、一冊の本にしたのが本書である。実際に語ったその場の雰囲気を大事にしたので、書き下しの文章と比べると読みにくい表現もあるかと思うが、あえて、この形で通させてもらった。
一冊にまとめてみると、数多くある賢治論の隅っこの方に、もう一冊加わったというだけに過ぎないようでもあって、賢治論ということになると、本文の中でも繰り返し言っているように、私には少しも自信がない。
むしろこれは、賢治にことよせて、私の科学論と自然論をエッセイ風に書いた形になっていて、賢治についての興味から本書を手にとられた方は、少しがっかりするかもしれないと思う。しかし、私にとっては、どうしてもこんな形で一冊の本を残しておきたいと思っていた、そんな念願のかなった一冊であった。
私と賢治の出会い、私の賢治観については、本文に詳しいので、今ここに繰り返す必要はないだろう。私の願望を強いていえば、賢治をかつて何十年前かに生き、立派な作品を書いた人物としてではなく、現在の現実の中で私たちが苦闘するとき、いつも私たちと共にあって苦闘してくれる存在として語りたいということである。
『宮澤賢治をめぐる冒険』という、ややきばったタイトルにしたのは、私の側が少々冒険心をもって賢治の世界に挑んでいるという意味と、賢治の作品の読み方としては、私の接し方はあまり正統的とは言えないだろうと思ったからだ。きばったというより、私の遊び心から出たものとして受けとめていただきたい。
ささやかな本であるが、本書が日の目をみるまでは、多くの人々のご援助協力があった。いちいち、名をあげることはできないが、すてきな挿絵を書いて下さった畏友高頭祥八、原稿の整理・編集等でお世話になった渡辺美紀子、山本美弥の各氏は、特に名をあげて感謝したいと思う。
一九九五年三月
上記内容は本書刊行時のものです。