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原子力・核問題ハンドブック
- 初版年月日
- 2011年8月
- 書店発売日
- 2011年8月9日
- 登録日
- 2011年8月12日
- 最終更新日
- 2013年2月22日
紹介
『核問題ハンドブック』を大幅に改訂。基本から「原子力の商業利用」「原子力開発の犠牲」「世界の核開発と核戦略」「核軍縮に向けて」などを網羅。徹底的にこだわった1000 を超える索引項目。より深く、より広く知るための確かな情報源。
目次
<第Ⅰ部 原子力問題編>
1 原子と原子力──基礎編
原子とはなにか
ウランとプルトニウム
核分裂
放射線・放射能
放射性崩壊、半減期
放射性物質とその成り立ち
核燃料サイクル
2 原子力の商業利用──原子力発電
世界の原発、日本の原発の現状
米の「平和のための原子力」提案と見直し
日本の原子力開発
軽水炉
六ヶ所・核燃料サイクル施設
高レベル放射性廃棄物の危険性
3 原子力開発の犠牲
放射線ヒバクとその影響
放射線障害
核兵器爆発の被害、影響
広島、長崎、原爆投下の犠牲、ヒバクシャの運動
原爆放射線量評価の変遷
核実験による被害
スリーマイル島(TMI)原発事故
チェルノブイリ原発事故
福島第一原発大震災
高速増殖炉「もんじゅ」再度の大事故
<第Ⅱ部 核問題編>
4 核兵器
マンハッタン計画と核兵器開発
原子爆弾──ウラン爆弾・プルトニウム爆弾
中性子爆弾
劣化ウラン(DU)弾
核兵器体系
ミサイル防衛
巡航ミサイル
5 世界の核開発と核戦略
米国の核開発・核戦略
ソ連(ロシア)の核開発・核戦略
中国の核開発と核戦力
核の「闇市場」
ブッシュ政権とオバマ政権の「核態勢見直し」(NPR)
6 核軍縮へむけて
日本の原水爆運動
脱原発1000万人書名始まる
上関原発反対運動
世界の反核運動
核不拡散条約(NPT)
原子力供給国グループと拡散防止構想(PSI)
IAEA(国際原子力機関)と核管理
前書きなど
はじめに
「核問題ハンドブック」の初版が出版されてから六年近くが過ぎたが、本書はそれを大幅に増補改訂して編集しなおしたものである。
三月一一日の福島第一原発事故は、人々の原子力に対する認識を大きく変えてしまった。事故直後は、原発推進派の科学者がテレビなどに出てきては、事故の早期収束を語り、漏れ出る放射性物質についても、心配いらないと語っていたが、こうした、原発について国民はほとんど知識を持たないという、見下した姿勢は、強い批判を浴び、事故収束の見通しもつかない現実、放射性物質は低レベルでも影響があるなどの事実の前に、いつの間にか姿を消してしまった。
原子炉内部の状態が一切明らかでないなかで、不都合な情報はできるだけ出さないという東京電力の体質は現在も変わらず、原子炉事故がどう進んでいるかも明らかでない。1号機~3号機の核燃料は溶融し、原子炉圧力容器、さらには原子炉格納容器まで損壊し、溶けた核燃料に注入され続ける水は、地震による地下のひび割れなどでかなり地下に漏れ出ていると推測され、もしそうだとすれば、大量の放射能を含んだ水は海に出てくる危険が高まっているといえる。この推測が間違っていて、そのような心配は不必要だったという結果を私は望むが、しかし事故収束には長い時間が必要なのは誤魔化しようがない。
そして原子炉から漏れ出る放射性物質は、時間と共に広がりを見せている。現在はセシウムだけが問題になっているが、他の放射性物質(例えばストロンチウムなど)がどれくらい漏れているのかは明らかでない。しかし私たちのヒバクは少しずつ少しずつ広がっていく。
今回の事故で、原発推進学者によってつくられた「原子力村」が問題になっているが、この村社会は、電力会社、政治家、官僚、その周辺のマスコミによって、巨大な力を誇っていた。それは反対意見を排除し、効率だけを求める、現代社会を象徴する存在ではなかったのか。すべての人が参加し、自由な議論による市民社会の発展とは、まさに対極のいびつな存在だったのではないか。この存在の大きさに、日本に暮らす多くの人々が、原発の安全神話を信じ、また核兵器の被害を理解し、核兵器に反対する人たち(一部であるが)まで沈黙し、結果として「村社会」を容認し、そして福島第一原発事故は起こったというべきであろう。
一方、核兵器については、初版の頃と比較すると、核兵器の拡散が顕著であることに改めて驚かされる。米ロ間についていえば、戦略核兵器の削減は進んでいるが、世界は戦術核兵器を通常兵器と同じように使う戦略に移行しつつある。つまり核兵器使用の敷居が低くなっているのだ。
広島、長崎に原子爆弾が投下されてから六五年以上が経過するなかで、広島、長崎の悲劇は世界中で風化が進んでいるといえる。
チェルノブイリ原発事故に直面した、ソ連のゴルバチョフ書記長は「あの事故によって核戦争の悲惨さを知った、原子力のエネルギーが制御できなくなったときの恐ろしさを初めて実感した」と語ったが、チェルノブイリ原発事故と状況が異なる福島第一原発事故では、核戦争と結びつける発言は少ない。
原子力発電と核兵器は、目的は違うけれども同じ原理であり、とくに原発と核兵器の放射能の恐ろしさを結びつける目的で、本書は編集された。本当は役に立たないのが望ましいが、現実は私たちが原子力発電と核兵器の実態を知って、行動しなければ、どうにもならない時代になっている。
このハンドブックが、脱原発、核兵器廃絶を求める人々に役立つことを願うものである。
二〇一一年七月二五日
上記内容は本書刊行時のものです。