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外国人研修生殺人事件 安田 浩一(著) - 七つ森書館
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外国人研修生殺人事件 (ガイコクジンケンシュウセイサツジンジケン)

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発行:七つ森書館
四六判
208ページ
上製
定価 1,600円+税
ISBN
978-4-8228-0738-2   COPY
ISBN 13
9784822807382   COPY
ISBN 10h
4-8228-0738-X   COPY
ISBN 10
482280738X   COPY
出版者記号
8228   COPY
Cコード
C0036  
0:一般 0:単行本 36:社会
出版社在庫情報
長期品切れ
初版年月日
2007年2月
書店発売日
登録日
2010年2月18日
最終更新日
2017年3月7日
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紹介

千葉県木更津市の養豚場で発生した殺人事件に、この国の荒廃と病理が凝縮されていた。とめどなくグローバル化していく日本経済は、“国際貢献”の美名を掲げて新しい奴隷制度の構築さえ求めるに至って、そのニーズに応じるビジネスが続々と誕生し始めた。見えない鎖に繋がれた「外国人研修生」という名の奴隷たち。深層海流を追って、安田浩一は中国・黒龍江省はチチハルの町に飛んだ──。
素晴らしい取材をしている。同業者として嫉妬を感じる。(斎藤貴男)

目次

プロローグ

第1章 外国人研修生殺人事件
     「だから……死にたいです」
     日本への期待
     「パート感覚で雇うだけでいい」
     発端
     事件
     千葉県農業協会
     背景
     中国、チチハルへ
     極寒の地
     家族
     八万元の重み
     訓練センター
     孤立した存在
     候思源の話
     糧油公司
     送り出し機関
     手紙

第2章 外国人研修制度の闇
     労働界の大物
     日中友好
     国際研修協力機構(JITCO)
     性暴力
     岐阜の縫製業界
     奴隷労働の温床
     時給三〇〇円以下
     岐阜の最底辺
     青森の縫製工場
     労働者性がない
     強制帰国
     武生コンフィクソン事件
     管理費
     煙台公司
     銚子事件

エピローグ

 資料・外国人研修生問題に取り組む団体

前書きなど

プロローグ

 二〇〇六年八月一八日、千葉県木更津市の養豚場で殺人事件が発生した。
 被害者は六二歳の団体職員。加害者は二六歳の中国人青年だった。
 何の解説もない第一報のストレートニュースに触れたとき、私は中国人青年の肩書きに一瞬、背中の筋肉が強張ったことを覚えている。
 外国人研修生──。
 その存在が以前から気になり、わずかではあるけれど、取材を進めていたテーマでもあった。
 少しの根拠もなく、普段はまったく頼りにならない私の直感が、事件の背景に控える暗闇の存在を告げていた。さらに時間の経過とともに、暗闇が黒い染みとなってどんどん私のなかで広がっていく。研修生という響きを耳にしただけで、何か借財を抱えたような息苦しさまで覚えるようになった。
 それはとりもなおさず、これまで接してきた研修生の多くが、悲しみと怒りに満ちた目を私に向け、沈んだ声で呪詛の言葉を投げつけたからである。
 現在、日本で働く外国人研修生・技能実習生は約一六万人。その大半が中国人だ。
 彼ら彼女らの受け入れを支える「外国人研修・技能実習制度」は、日本の最新技術を開発途上国へ移転することを目的として一九九〇年代初めに創設された。技術取得のために一年間の研修(研修生)と二年間の技能実習(実習生)が認められている。
 国際交流、国際貢献、技術移転、友好親善など、研修制度は美しい言葉をもって説明されることが多い。しかし私が見てきた研修生の労働現場は、そうした美名とは裏腹に、劣悪な労働条件と人権無視がまかり通っていた。
 タバコ一箱分にも満たない時給、常軌を逸した長時間労働、監視と管理、さらには暴力支配やセクハラを訴える声も少なくなかった。しかも逃亡の自由もない。研修生・実習生は給与を強制的に貯金させられ、通帳も印鑑も経営者に取り上げられていた。もしも逆らえば「強制帰国」という厳罰まで待っていたのだ。
 まるで奴隷制度や人身売買の世界が、いつのまにか甦ったのではと思わせるような世界が展開していたのである。
 日本はいま、“格差社会”や“ワーキングプア”といった言葉に代表されるように、競争と分断の時代に突入した。公共性という概念は薄れ、弱肉強食の論理が幅を利かせるようにもなった。シワ寄せは富と体力に乏しい中小企業へと向かわざるを得ない。そんな経済政策の無策を補う形で、見えない鎖に縛られた研修生という名の奴隷が、次々と投入されていくのである。
 「コスト削減の切り札」などと研修生の斡旋をPRする業者も少なくない。もはや国際貢献といった建て前すら放棄されているのが現状だ。人間がモノのように“売られて”いるのである。なんと荒涼とした社会になったものか。
 だからこそ、漠然とではあるけれど、この制度の歪みが、なにかとんでもない破綻を見せるのではないかという不安があった。
 まずは事件を起こした研修生に会ってみようと決意した。
 彼が目にした風景を辿ることで、あるいは研修制度のさらに奥底も見えてくるに違いないと思ったのである。

著者プロフィール

安田 浩一  (ヤスダ コウイチ)  (

ジャーナリスト。1964年、静岡県生まれ。月刊誌、週刊誌記者を経て、2001年よりフリーランスとして活動。主に事件、労働問題の分野を取材。「労働情報」編集委員も務める。著書に「告発! 逮捕劇の深層」(アットワークス)、「JRのレールが危ない」「JALの翼が危ない」(金曜日)など。

上記内容は本書刊行時のものです。