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幸田文  「台所育ち」 というアイデンティティー 藤本 寿彦 - 田畑書店
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幸田文 「台所育ち」 というアイデンティティー

発行:田畑書店
四六判
縦197mm 横138mm
512ページ
上製
価格 3,800円+税
ISBN
978-4-8038-0345-7
Cコード
C0095
一般 単行本 日本文学、評論、随筆、その他

出版社在庫情報
在庫あり
初版年月
2017年9月
書店発売日
登録日
2017年7月24日
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書評掲載情報

2017-11-25 図書新聞  第3329号
評者: 杉浦晋
2017-09-26 サンデー毎日  10月8日増大号
評者: 村松友視

紹介

 父の死が国葬になってしまう……そんな特殊な立ち位置から「露伴の想ひ出屋」として作家生活をスタートした幸田文が、露伴の傘の下を脱し、真にオリジナルな自らの文学を確立していく過程を、各作品を丹念に読み込むことで、本書はつぶさに論じています。
「父から授かった厳しい躾が作家・幸田文を生んだ」という凡百の作家論を超えて、「台所育ち」という特異なキーワードを用い、幸田文が露伴の影響と闘いながらいかにして自らのオリジナルな〈セルフイメージ〉を摑んでいったのか、を明らかにします。
「台所育ち」の原像をつくった『あとみよそわか』。作家・幸田文を生き直す契機となった『終焉』から、『流れる』、『おとうと』へと続く作品群。そしてポスト結核小説の傑作『闘』から、「台所育ち」の豊かな感性が自然に触れる地点から生まれた『木』や『崩れる』などの名作を、あくまでもテクストに当たることで論じ尽くした本書は、初めての本格的な評論でもあり、これから幸田文を読もうとする読者にとっては、格好の「幸田文入門」でもあります。

目次

はしがき
序 章  「台所育ち」というセルフイメージと、その表象世界
      家事労働を体得した身体性を物語る――「松之山の地滑り」論
     「台所育ち」の原像――「あとみよそわか」論

第一章  「文子」が生き直す物語たち
      幸田文の誕生――「雑記」論
      疎外する文学、生き直す文学――「終焉」論
      変容する戦後空間「菅野」と「私」の造型――「菅野の記」論

第二章   開かれていく語りの世界
      新しい語りを求めて――「糞土の墻」論
     「帆前掛をかける」女の物語――「勲章」論
       セクシュアリティを表象する小説へ――「姦声」論

第三章   幸田文の再生 戦後世界を生きる女性性を表象する
      戦後世界を生きる〈寡婦〉の行く末――『流れる』論
     『番茶菓子』が表象するもの
     「台所育ち」というセルフイメージと創作戦略――連続随筆論

第四章   身近にある生と死を物語る
      読者の想念上に生き続ける「おとうと」を求めて――『おとうと』論
      ロマンとしての結核小説を脱構築する――『闘』論
      ポスト結核小説としての『闘』の問題性
      関東大震災を起点とする『きもの』の世界

第五章   大自然を歩く 「台所育ち」の豊かな感性世界
     「身近にあるすきま」の発見とその展開――「ひのき」(『木』)論
      どのようにして想定外の景観を書くか(I)――『崩れ』論
      どのようにして想定外の景観を書くか(Ⅱ)――『崩れ』論
あとがき

前書きなど

 平林(たい子)たち女性作家は、文壇で喧伝される文学のモードに敏感に反応しながら、主に文芸雑誌の内側に棲息した。こうした文壇内に棲息する表現者と異なり、幸田文はその域外に存在する素人(「台所育ち」の表現者)であり続けた。そして、国家や社会を組み替えるロジック(倫理観や政治思想)を深化させようとする彼らとは異なり、従来文学表象の対象とならなかった家事を眼差す。そして台所を中心とした家庭を活力のある生活の場とする知恵の世界へ、幸田文が創造した語り手は読者をいざなう。その表現者像は「台所育ち」という自己認識で象徴される。日々の生活を眼差しつつ、見逃しやすい身近な問題と向かい合う中で、多くの女性と連帯するテクストを生み出し、物語の語り手の死やは今日の問題と深く関わる地震災害へまで及んでいる。(中略)本書は従来の作家論とは異なり、幸田文と彼女のテクストとを切り分け、メディア表彰されたテクストたちを初期から晩年まで読み通すことで、近現代文学の領域において類例のない「台所育ち」という表現者像を提起した。(「はしがき」より) 

版元から一言

 本書が、昭和48年「暮しの手帖」に発表された「松之山の地滑り」論から始まっていることは、度重なる災害に見舞われ続けている私たちにとって、「いま、なぜ幸田文か?」という問いに、ある答えを与えてくれます。
 幸田露伴という超弩級の文豪を父にもってしまった運命から、最初は「露伴の想ひ出屋」として文筆家のキャリアをスタートした幸田文。しかし一旦筆を折る決意をし、自立した生活を営むため働きに出た花柳界での見聞から生まれた名作『流れる』で、彼女は初めて露伴の殻を破って自らの創造した〈セルフイメージ〉を確立することに成功します。
 その〈セルフイメージ〉とは何か? 何よりも家事から得た身体性が文学を豊かにすること、野上弥生子の大正教養主義でもない、宮本百合子の政治主義でもない、白洲正子の文化主義でもない、自らのアイデンティティーを「台所育ち」と決めたことから生ずる文学の普遍性を本書は明らかにしています。
「こういう時代だからこそ、幸田文!」……本書からダイレクトに伝わってくるメッセージです。

著者プロフィール

藤本 寿彦  (フジモト トシヒコ

1952年、愛媛県生まれ。奈良大学文学部国文学科教授。近代詩歌、高村光太郎ほかの大正詩、四季派と呼ばれる詩人から谷川俊太郎までの昭和詩の研究に携わる。また幸田文、森田たまなどの女性作家の研究。著書に、「周縁としてのモダニズム―日本現代詩の底流」(2009年) 「幸田文「わたし」であることへ―「想ひ出屋」から作家への軌跡をたどる」(2007年)他、編著書多数。

上記内容は本書刊行時のものです。