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拡張的学習の挑戦と可能性
いまだにここにないものを学ぶ
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2018年4月
- 書店発売日
- 2018年4月2日
- 登録日
- 2018年3月8日
- 最終更新日
- 2018年4月3日
紹介
教育、仕事の場の学習を先導する理論実践の全貌が一冊に!
著者エンゲストロームは、「拡張的学習」として知られる理論で国際的に知られる研究者です。日本でも小社刊行の『拡張による学習』は、20年近くにわたって読み継がれています。そして今も発展を続けています。本書は、こうした拡張的学習研究の展開と蓄積を背景に、その実証的研究の現状をあますところなく報告しています。「学習」とついていますが、活動は、教育に限られません。銀行、ハイテク製造会社、医療保健センター、学校、病院、図書館など、多岐にわたります。まさに、多様な領域にインパクトを与え続けている拡張的学習理論の具体的内容と到達点、未来への可能性を理解するための、絶好の案内です。理論の実践編として、既刊書と並べての販売をお願いいたします。
目次
拡張的学習の挑戦と可能性 目次
まえがき
第1部 舞台を準備する
第1章 はじめに─拡張の入り口にある学習科学
学習科学の歴史的展望
矛盾の地平
拡張の諸次元
最近接発達領域の輪郭
本書の構成
第2章 学習のプロセス理論において何が起こったのか
ポスト行動主義者による3つの学習のプロセス理論
学習への活動理論的アプローチ─プロセス理論の再活性化
結論─学習のプロセス理論の有用性と限界
第3章 拡張的学習の研究─基盤、知見、今後の挑戦
新しい種類の学習への社会的・歴史的な要求
拡張的学習概念の理論的ルーツ
拡張的学習理論の中心理念
対象の変革としての拡張的学習
最近接発達領域における運動としての拡張的学習
学習行為のサイクルとしての拡張的学習
境界横断とネットワーク構築としての拡張的学習
分散的で不連続な運動としての拡張的学習
形成的介入
拡張的学習への批判
今後の挑戦
第2部 精緻化と応用
第4章 拡張的学習理論を豊かにする─協働構成に向かう旅からの教訓
事例1:銀行
事例2:ヘルスセンター
事例3:ハイテク企業
作業仮説を豊かにする─学習と仕事の複合道具
作業仮説の修正─橋渡しとして経験する
結 論
第5章 学習環境と実行から活動システムと拡張的学習へ
願望的・イデオロギー的な抽象概念としての学習環境
静的で階層的な抽象概念としての学習環境
真正さにかかわるジレンマ
学習環境研究の循環的デザイン
それらに代わる活動システム
実行から拡張的学習へ
コンピュータの導入─ヤコマキ・ミドルスクールにおける拡張的な学習
結 論
第6章 プロセスの強化か、コミュニティの構築か─拡張的学習を通じて二分法を超える
プロセス効率、コミュニティ構築、それらの対立
資源としての活動理論
事例研究の文脈とデータ
プロセス効率介入
コミュニティ構築介入
新しいモデルの長期的な結果
プロセス-コミュニティの二分法を超える
第7章 図書館における拡張的学習─行為、サイクルと指示の意図からの逸脱
研究課題としての拡張的学習
場面と介入
データと方法
拡張的学習行為
学習プロセスの循環性
指示の意図との逸脱
結 論
第8章 不連続を超えて─拡張された組織学習再び
連続性と非連続性
組織変化と拡張的学習
フィールドワークとデータ
分析の段階
主な知見
2つの事例における組織学習プロセス
結 論
第3部 未来の展望
第9章 野火的活動─流動性と学習の新様式
流動性の再概念化
野火的活動の意味と重要性
菌根としてのコミュニティ
認知的形跡と遭遇
学習の新たな可能性
第10章 デザイン実験から形成的介入へ
デザイン実験-デザイン研究
社会学的介入研究からの教訓
ヴィゴツキーの二重刺激法
論証的文法に向けて
チェンジラボラトリー
病院の外科ユニットにおける対象の再捕捉
形成的介入の階層的な特徴
文法に立ち返る
訳者あとがき
注
文 献
索 引
装幀=新曜社デザイン室
前書きなど
拡張的学習の挑戦と可能性 まえがき
拡張的学習の理論(Engeström, 1987)は、その提唱以来、ますます研究者と実践者の関心を呼び起こしている(Roth & Lee, 2007)。この理論を最初に提示した本はながらく絶版状態であったが、ケンブリッジ大学出版会は、新しく包括的な序章を加えた新版『拡張による学習( Learning by Expanding )』の刊行を決定した。
複雑な理論は、実証的に適用し、さらに概念的・方法論的に発展させてこそ、生きたものになる。本書は、同僚や大学院生たちとそうした作業に取り組んだ成果をまとめたものである。したがって本書は、新版『拡張による学習』の内容を実質的に押し広げる姉妹編として読み、使っていただけるだろう。
本書は10章からなっているが、大きく3つの部分に分けることができる。最初の3つの章は、拡張的学習の理論を学習科学と関連づけ(第1章)、このアプローチの学習プロセスに関する理論としての特徴を詳しく述べ(第2章)、世界中の様々な場所で行われた拡張的学習の研究をレビューする(第3章)。2番目の部分である第2章から第8章は、多様な種類の組織現場での実証的な研究を扱っている。そこで取り上げられている組織現場は、銀行、ハイテク製造会社、一次医療保健センター(第4章)、ミドルスクール(第5章)、病院の外科手術室(第6章)、大学図書館(第7章)、そして再度、2つの一次医療保健センター(第8章)である。本書の第三の部分は最後の2章で、新しい挑戦と可能性に向けて書かれている。つまり、緩やかにしか結びついていないにもかかわらず急速な広がりを見せる「野火的活動(wildfire activity)」(第9章)と、拡張的学習を引き起こし、支援することを目指す形成的介入(formative intervention)の方法論(第10章)から生じる挑戦と可能性である。
各章では、拡張的学習の理論を豊かにし前進させている、概念的ないし方法論的な発展が述べられている。そうしたアイデアが相まって、拡張的学習アプローチの最近接発達領域(zone of proximal development)〔訳注:ロシアの心理学者・教育学者・文学者・記号学者レフ・ヴィゴツキーの学習・発達理論の中で最も有名で影響力のある概念。その定義については、本書の第3章を参照されたい〕を旅していくために必要なロードマップをなしている。
第1章は書き下ろしである。他の章は、2007年以降に公刊された論文をもとにしている。私は、各論文の単著者か第一著者である。それらを本書に収録するにあたっては、繰り返しを避け、参考文献を更新し、必要であれば章と章の間を橋渡しするために加筆・修正を行った。
各章の初出は、第2章がエンゲストロームとサニーノ(Engeström & Sannino, 2012)、第3章がエンゲストロームとサニーノ(2010)、第4章がエンゲストローム(2007a)、第5章がエンゲストローム(2009a)、第6章がエンゲストローム、カヤマ、ケロスオ、ラウリラ(Engeström, Kajamaa, Kerosuo & Laurila, 2010)、第7章がエンゲストローム、ランタヴオリ、ケロスオ(Engeström, Rantavuori & Kerosuo, 2013)、第8章がエンゲストローム、ケロスオ、カヤマ(Engeström, Kerosuo & Kajamaa, 2007)、第9章がエンゲストローム(2009b)、第10章がエンゲストローム(2011)である。
共著者である次の方々が重要な貢献を果たしてくれたことに、心から感謝の意を表したい。アナリサ・サニーノ(第2・3章)、アヌ・カヤマ(第6・8章)、ハンネレ・ケロスオ(第6・7・8章)、パイヴィ・ラウリラ(第6章)、ユハナ・ランタヴオリ(第7章)。アナリサ、アヌ、ハンネレ、ユハナは、ヘルシンキ大学活動・発達・学習研究センター(Center for Research on Activity, Development & Learning: CRADLE)のメンバーである。また、パイヴィは、CRADLEが長年にわたって協働関係を続けているオウル大学病院の医師である。
CRADLEというコミュニティ、そして文化・歴史的活動理論(cultural-historical activity theory)に取り組む仲間たちの国際的なネットワークの存在は、本書で報告する拡張的学習理論が強力に発展し、実践の中で具現化し続けていく上で決定的であった。
アナリサとユリ・エンツォに本書を捧げる。
上記内容は本書刊行時のものです。