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質的テキスト分析法
基本原理・分析技法・ソフトウェア
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2018年3月
- 書店発売日
- 2018年3月5日
- 登録日
- 2018年2月5日
- 最終更新日
- 2018年3月5日
紹介
質的研究を志す人のための手引き
インタビューや観察、質問表を主とする質的研究では、テキスト=文字のデータや記録が膨大になります。それらを適切に解釈・分析し、良い論文を書くためにはどうすればよいのか、多くの初心者が途方に暮れ、アドバイスを求めています。本書は、そんな不安と渇望に応える、質的データを体系的に分析するための実践的なガイドブックです。代表的な方法を取り上げ、実際の手順をステップ・バイ・ステップで示しながら懇切に解説しました。さらに日本語で使えるようになったコンピュータ・ソフトウェアの意義と可能性についても解説されています。著者・訳者とも質的研究の第一人者による本書は、質的研究の初心者だけでなく、研究者にとっても、方法について改めて見直す恰好の手引きです。
目次
質的テキスト分析法 目次
日本語版への序
序
謝辞
1章 質的データの分析─さて、いかにおこなうべきか?
1.1 質的・量的の区別に関する論点整理
1.2 質的研究法、量的研究法、混合研究法
1.3 実際の研究において質的データを分析していく際の課題
1.4 リサーチ・クェスチョンの重要性
1.5 方法面での厳密性の必要性
2章 体系的な質的テキスト分析の源流
2.1 古典的な解釈学
2.2 グラウンデッド・セオリー
2.3 古典的内容分析と質的内容分析
2.4 質的テキスト分析に関する他の種類の実践的アプローチ
3章 質的テキスト分析の基本概念と作業プロセス
3.1 質的テキスト分析に関する主要概念
3.2 質的テキスト分析と古典的な内容分析における分析プロセス
3.3 質的テキスト分析を開始する
─テキスト、メモ、事例要旨による初期段階の作業
3.4 カテゴリーを構築する
3.5 研究例
4章 質的テキスト分析における3つの主要な方法
4.1 プロフィール・マトリクス─質的テキスト分析の基本概念
4.2 3つの方法の類似点と相違点
4.3 テーマ中心の質的テキスト分析
4.4 評価を含む質的テキスト分析
4.5 類型構築式テキスト分析
5章 質的テキスト分析におけるコンピュータ・プログラムの利用
5.1 データの管理
─文字起こし、匿名化処理、チームワークの計画立案
5.2 QDAソフトによる質的テキスト分析
5.3 QDAソフトによる分析─上級編
6章 質の基準、研究報告書、研究プロセスの記録
6.1 質的テキスト分析に関する質の基準
6.2 研究報告・研究プロセスに関する記録の作成
7章 結 語
補論 質的データ分析の基本原理とQDAソフトウェアの可能性
─佐藤郁哉
Ⅰ 序 論
Ⅱ 質的調査の魅力と落とし穴─7つのタイプの薄い記述
Ⅲ 翻訳プロセスとしての質的調査
Ⅳ 質的データ分析における脱文脈化・再文脈化と定性的コーディング
Ⅴ 紙媒体でおこなわれる質的データ分析
Ⅵ QDAソフトの概要と特長
Ⅶ 質的調査の「質的転換」の可能性
Ⅷ QDAソフトだけではできないこと
─質的調査のアート&サイエンス
訳者あとがき
注
引用文献
人名索引
事項索引
装幀=新曜社デザイン室
前書きなど
質的テキスト分析法 日本語版への序
本書のドイツ語版の初版は、今から5年以上前の2012年夏に出版された。その2年後には、英語版が、研究方法と方法論に関する書籍の出版で世界的によく知られている出版社であるSAGE社から刊行されている。そして、初めての日本語版が本書である。本書の刊行は、著者にとって何物にも代え難い喜びとするところである。というのも、欧州の社会科学者の書いた本が日本語に翻訳されるのは近年ではかなり稀なことだからである。
拙著の邦訳がこうして出版されることになったのは非常に幸運なことである。より正確に言えば、同志社大学の佐藤郁哉教授との友情という幸運に恵まれたことによって、本書の刊行が可能になったのである。佐藤教授は、コンピュータを活用した質的データ分析についてかねてより関心を持たれており、教授自身がこの方法についてこれまで2冊の書籍(『質的データ分析法』『実践質的データ分析入門』)を出版されている。
本書の企画が著者と佐藤教授の会話を通して最初に持ち上がったのは、2014年に横浜で開催された世界社会学会議(「不平等な世界に直面するグローバル社会学への挑戦」)の席上である。世の常ではあるが、様々な事情によって企画が現実のものになるためには多少の時間がかかることになり、それから4年の歳月を経てようやく刊行の運びとなった。社会科学的な素養を持つ翻訳者を見つけることが非常に困難であることが判明したこともあって、結局、刊行企画の当初から深く関与されていた佐藤教授自身に翻訳を引き受けていただくことになった。この4年のあいだに様々な点において佐藤教授にいただいたご厚誼と教授がおこなわれた素晴らしい翻訳に対して、改めてここに感謝の念を捧げたいと思います。
著者としては、この本が日本における質的研究の進展に対して貢献していくことを期待したい。質的研究は、これまで長いあいだにわたって、方法論のスタンダードや研究の質に関する基準が存在しないという点について批判されてきた。その後の展開によって、近年では若干事情が変わってきてはいる。しかし、現在もなお 体系化された質的方法は発展途上の段階にある と言える。本書では、そのような点を念頭において、実践的なアドバイスとステップ・バイ・ステップ式の解説を盛り込むように心がけた。
質的データ分析法とMAXQDAのようなソフトウェアとのあいだには明白な関係がある。本書で解説しているように、QDAソフトウェア(QDAはQualitative Data Analysisの略語)は質的データを集中的かつ効果的に分析することを可能にしている。しかし、質的方法それ自体の発展という点では、コンピュータ・テクノロジーの目覚ましい発展と比較すれば遅々たるものがある。事実、質的方法に関する教科書を見てみると、鉛筆、ペン、あるいはタイプライターのような道具以外には特別な技術を用いなくても質的分析が可能であるかのような書き方がなされている例が少なくない。しかし、現実の世界におけるテクノロジーの急速な進展には目を見張るものがある。実際、たとえば、今日フィールドワーカーはスマートフォンを使って質の高い動画を記録し、インタビューの音声データをその文字起こし記録と同期させながら再生することができる。また、複雑なコーディングの枠組みでデータをコーディングした上で、様々な角度からデータ検索をおこなうこともできる。このような点も含めて、次代の社会科学者たちは、研究法とソフトウェアとの関係についてこれまで以上に認識を深めていくものと思われる。
さて、質的方法は、今後どのような方向に進展していくであろうか? このグローバル化した社会におけるコミュニケーション・メディアの急速な発展、特にソーシャル・メディアの発展は、質的テキスト分析法にとっての大きな挑戦課題になっている。ソーシャル・メディアについては、とりわけ2つの展開が注目に値する。1つは、比較的大きなサンプルサイズという点である。たとえば、ツイッターのデータを分析する場合がその典型である。この場合、サンプルが1万を越える例も少なくない。注目すべき2点目のポイントは、このような種類のデータの場合はネットワーク的な側面が非常に重要な意味を持っているという点である。本書で解説されている分析法についても、今後このような方向性に注意を向けていく必要があるだろう。これは、取りも直さず大量サンプルのデータとネットワーク分析とを組み合わせていくことを意味する。これら2つの展開は適切なソフトウェアの使用なくしては考えられないものである。これが、質的研究法が将来たどっていくであろう方向性に関する3つ目の重要なポイントである。つまり、分析法とソフトウェアとのあいだには、今後より強固で密接な関係が築かれていくと考えられるのである。社会科学的研究法のデジタル化はさらに進展していくであろう。また、ここで指摘した3つの傾向は、グローバルな規模でネットワークが形成されていくことにともなって世界中で急速に展開を遂げていくことは確実であると思われる。
Udo Kuckartz(ウド・クカーツ)
ベルリンにて 2018年1月
上記内容は本書刊行時のものです。