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アクションリサーチ・イン・アクション 矢守 克也(著) - 新曜社
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アクションリサーチ・イン・アクション (アクションリサーチ イン アクション) 共同当事者・時間・データ (キョウドウトウジシャ ジカン データ)

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発行:新曜社
A5判
248ページ
上製
価格 2,800円+税
ISBN
978-4-7885-1556-7   COPY
ISBN 13
9784788515567   COPY
ISBN 10h
4-7885-1556-3   COPY
ISBN 10
4788515563   COPY
出版者記号
7885   COPY
Cコード
C1011  
1:教養 0:単行本 11:心理(学)
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2018年3月
書店発売日
登録日
2018年2月5日
最終更新日
2018年3月5日
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紹介

◆好評既刊書の続編
 2010年の刊行以来、幅広く支持されている入門書『アクションリサーチ─実践する人間科学』の続刊です。アクションリサーチとは、何らかの社会的問題に直面する研究者と当事者が、その解決や改善を共に為す社会実践です。前作を踏まえつつ、より生産的で的を得た実践へとアクションリサーチ自体をベターメントするために、新たな論点─「共同当事者」「時間」「データ」─を取り上げて考察。ロジックをさらに洗練、発展、深化させました。人間科学や社会科学の研究者必携の一冊です。

目次

アクションリサーチ・イン・アクション 目次
まえがき

第Ⅰ部 共同当事者

第1章 アクションリサーチとリサーチ・イン・アクション
  1 社会実践とリサーチ・イン・アクション
  2 社会実践を「見る」こと
  3 「見る」ことを見ること
  4 共同当事者として「見る」こと
  5 永続する運動としてのアクションリサーチ

第2章 「個別避難訓練タイムトライアル」
  1 「タイムトライアル」が生まれるまで
  2 立ちはだかる「壁」
    ―巨大想定がもたらしたもの
  3 「タイムトライアル」以前の集落
  4 「個別避難訓練タイムトライアル」
  5 「主体性」の回復

第3章 アクションリサーチとしての「アイヒマン実験」
  1 実験室実験の古典?
  2 実験者と被験者―その生々しいプレゼンス
  3 実験者と被験者との間の深い関係
  4 実験室の前と後
  5 「時代の子」―「アイヒマン実験」の限界

第Ⅱ部 時間

第4章 アクションリサーチの〈時間〉
  1 〈時間〉から見たアクションリサーチ
  2 〈時間〉における未定性と既定性
  3 未定性と既定性の逆説的関係
  4 〈インストゥルメンタル〉と〈コンサマトリー〉
  5 総括
    ―〈時間〉を駆動する二つのダイナミズム

第5章 〈Days-Before〉―「もう」を「まだ」として
  1 失われた語り
  2 「Days-Before」のサンプル
  3 「Days-Before」がもたらすもの
  4 〈インストゥルメンタル〉と〈コンサマトリー〉の交絡
  5 アクションリサーチとしての〈Days-Before〉

第6章 〈Days-After〉―「まだ」を「もう」として
  1 「明日になればすでに起きたことになる」
  2 元凶としてのリスク論
  3 「賢明な破局論」への疑問と応答(1)
    ―「リスク論」でも「運命論」でもない
    「賢明な破局論」への疑問と応答(2)
    ―「予定説」との親和性
  5 〈コンサマトリー〉な価値
  6 アクションリサーチへ

第Ⅲ部 データ

第7章 データ・イン・アクション―実証を超えて
  1 データ・イン・アクション
  2 質的なデータと量的なデータ
  3 三つのタイプのデータ
  4 コ・プロデュースのデータ
  5 「オープンサイエンス」
  6 再び、データ・イン・アクション
    ―ビッグデータの役割

第8章 量的データの質的分析
  1 質的アプローチ/量的アプローチ
  2 回答に込められた実存的意味
  3 質問紙調査における潜在的コミュニケーション
  4 データ・イン・アクションとしての質・量融合

第9章 河田惠昭教授の災害リスク・コミュニケーション
  1 言っていることと実際になしていること
  2 人間化された自然
  3 現在化された想定
  4 極限化された数値
  5 「特殊性・固有性」対「普遍性・一般性」

初出一覧
引用文献
人名索引
事項索引

前書きなど

アクションリサーチ・イン・アクション まえがき
「ポスト阪神・淡路」から「プレ南海トラフ」へ

 人間や社会について書かれた本について読むときは、それがいつ書かれたのかに注意を払うことが必要だと言われる。いつ書かれたかがその本の内容を規定する最も強力なコンテクストの一つだからだ。

 本書の姉妹編にあたる前著『アクションリサーチ:実践する人間科学』(新曜社)を刊行したのは2010年6月のことだった。東日本大震災が発生する前年である。あらためて繙くと、その内容は「ポスト阪神・淡路」の色彩を濃厚に帯びている。つまり、阪神・淡路大震災(1995年)の後の社会をどう生きるか、いかに構想するかをめぐるアクションリサーチが前著の主題となっている。

 それに対して、本書を構成する論考群はいずれも、東日本大震災が発生した2011年以降に書いたものである。よって、「ポスト東日本」であることはもちろん、「プレ南海トラフ」の性質をもっている。超高齢化に加えて過密と過疎の不均衡が限界点を超えた社会の下で、南海トラフ巨大地震・津波(詳しくは、第2章などを参照)、あるいは、首都直下型地震の発生を迎えてしまうことになりそうな日本社会におけるアクションリサーチが、本書の主たる内容となっている。これが、現実的、実践的なコンテクストにおける本書のポジションである。

 ただし、本書は、防災実践の書ではない。アクションリサーチの金看板でもある理論と実践の高次元での融合を志向し、また、第1章の掉尾で掲げる理念"Think practically,act theoretically"(実践的に思考し、理論的に行動せよ)の実現をめざした理論探究の書でもある。ここで、「ポスト東日本」というコンテクストは、たとえば、津波防災をテーマとする研究が増えたといった単純明快な変化だけでなく、大学における研究活動全般にも有形無形の影響を及ぼしていることが大切である。最も重要な変化が、基礎的で理論的な研究よりも、「(今すぐ)役立つ研究」へと研究者を追いたてる圧力の増大である。本書は、この圧力に対する筆者なりのささやかなレジスタンスでもある。

 たしかに、本書の主題は、アクションリサーチ(実践的な研究=研究的な実践)である。だから、むしろ本書は理論的な思索と遠く隔たっているように見えるかもしれない。しかし、本書でなそうとしたことは、単なるアクションリサーチ(その報告)ではない。アクションリサーチを現実に実践すると同時に、アクションリサーチを行うことの意義と限界を理論的に見極める仕事である。本書では、この課題について、前著よりも精緻な突き詰めの作業を展開することができた。評価はむろん読者に委ねるほかないが、筆者としてはそのように考えている。

三つのキーワード

 以上の意味での理論的探究のために据えたキーワードが、本書のサブタイトルとして掲げた三つの用語、すなわち、「共同当事者」「時間」「データ」である。本書は、これら三つのキーワードを各部の主題とした三部構成となっている。

 第Ⅰ部の主題は、「共同当事者」である。前著の序章で、筆者はアクションリサーチの二大基本特性を提示した。その一つが、目標状態を共有する研究対象者と研究者(双方含めて当事者)による共同実践な研究、という特性であった。本書では、ここで言われている当事者を「共同当事者」として、より明確に位置づけ直した上で、研究対象者と研究者から成る共同当事者が共になす共同実践のことをアクションリサーチと定義している。しかし、それにしても、研究対象者はあくまでも研究対象であって、彼らが研究者と共同するとはどういうことなのか、またそのようなことが可能なのか。そして、可能だとしても、そもそも共同する必要などあるのか。多くの重要な疑問が生じる。第Ⅰ部では、これら、アクションリサーチの屋台骨に関わる重要な論点について考察する。

 第Ⅱ部の主題は、「時間」である。こちらは、アクションリサーチについて前著で提示したもう一つの基本特性に関わる。それは、目標とする社会的状態の実現へ向けた変化を志向した広義の工学的・価値懐胎的な研究、という特性であった。アクションリサーチは、目標状態の実現へ向けたベターメントを図るための変化を実際に社会にもたらしつつ、それと同時に社会に関する知を獲得する活動である。ここには、よき未来という展望的準拠点と、それに対置される形で置かれた問題含みの現在、さらにはそのような現在へと至らしめた過去からの経緯―このような一連の時間的な推移が仮定されている。ここで特に重要なことは、アクションリサーチが変化を企てるという性質をもっている点である。ここには、客観的な時間の軸線上で事態の推移を静観する態度(たとえば、時系列で対象を観察すること)とは異なる、時間に対する主体的な関与が認められる。両者を区別して扱うために、第Ⅱ部では、客観的な「時間」に対して、人間の主体的な構えとともにある〈時間〉という概念を導入して、アクションリサーチにおける〈時間〉について考える。

 第Ⅲ部の主題は、「データ」である。ここには、二つのモチーフがある。一つは、アクションリサーチ(人間科学)におけるデータの機能を何に求めるのかというモチーフである。人間科学と対置される自然科学におけるデータの機能ははっきりしている。それは、一にかかって「実証」である。つまり、仮説的命題と客観的事実との一致を確認するための資料となること、これがデータに求められる機能である。それに対して、本書では、「データ・イン・アクション」という概念を提示した上で、アクションリサーチでは、データの働きが別のところにあることを主張する。もう一つのモチーフは、量的な研究アプローチ(データ)と質的なアプローチ(データ)との関係である。「アクションリサーチ=質的データ、オーソドックスな実証的心理学=量的データ」といったトンデモない誤解は論外としても、これら二つのタイプのデータがそれぞれ、アクションリサーチにおいてどのような特徴的な役割を果たすのか、両者の生産的な相補関係があるとすればそれはいかなる意味においてか。第Ⅲ部ではこういったことについて論じる。

前著からの継承・発展

 上述したように、本書は、姉妹編となる前著の成果と課題を踏まえた続編である。前著を手にとってくださった読者のために、また、本書のハイライトを知っていただくためにも、今回どこをどのように継承・発展させようとしたのかについて、三つのキーワードごとに簡単に触れておきたい。

 まず、第Ⅰ部の「共同当事者」については、重要なポイントが二つある。第一に、筆者は、前著で、アクションリサーチの理論的基盤として社会構成主義を提示した。社会的構成とは、私たちに対して意味ある世界を現出させる作用のことである。重要なことは、「研究者自身(研究者の認識や行為)も、この世界の社会的構成への内在という原理原則から免れえない」(前著序章)ことである。前著では、この点について主に理論的な検討を実施したが、本書では一歩進めて、この原理原則が共同当事者としての研究者に実際にどのように影響するのかについて論じた。本書で、アクションリサーチでは、「観察対象となっている社会実践を単に『見る』だけでなく、『見る』ための研究活動という実践がすでにその内部に入り込んでいる社会実践を、それでもなお研究という実践を通して自分たちは見ている―そのような構造をよく見なければならない」(「見る」ことを見る)というフレーズを繰り返し使って関連事例の検証作業を行なっているのは、このためである。

 「共同当事者」については、第二に、「永続する運動としてのアクションリサーチ」(第1章)という観点も重要である。本書では、阪神・淡路大震災の経験を語り継ごうとする語り部グループ(主に、第5章)、および、防災ゲーム「クロスロード」(主に、第1章、第7章)をめぐる筆者自身のアクションリサーチを通して、この点について論じている。この両者は、前著でも多くのスペースを割いて取り上げた(前者は前著第4~5章、後者は前著第2章)。語り部グループは1999年、クロスロードは2003年(そのベースとなったインタビュー調査を含めて)から、筆者は関与している。よって、前著の刊行時点(2010年)ですでに、それぞれ10年、7年、本書を執筆している2017年時点では、それぞれ20年近く、15年近くにわたって、関連する研究・実践活動を共同当事者として続けていることになる。本書では、この積み重ねを活かして、「永続する運動としてのアクションリサーチ」の重要性とその課題について前著よりも踏み込んだ考察を進めている。

 第Ⅱ部の「時間」については、前著には登場しない鍵概念群がポイントである。それは、「時間」ならざる〈時間〉であり、〈過去の未定性〉(「もう」を「まだ」として)であり、〈未来の既定性〉(「まだ」を「もう」として)であり、そして、〈インストゥルメンタル〉と〈コンサマトリー〉の対比である。本書(特に、第Ⅱ部の各章)では、これら〈括弧〉で表記した〈時間〉(人間の主体的な構えと共にある時間)に関わる鍵概念をベースに、アクションリサーチという社会実践そのものを支え、またそれを新たな形で動かしていくための時間について考えている。これに対して前著で展開した議論の多くは、「括弧」で表記した「時間」の中でアクションリサーチがどのような経緯をたどっているかを記述するタイプの議論にとどまっていた。この前著からのステップアップは、破局的な出来事(過去に起こったものであれ、未来に想定されるものであれ)についての語りやふるまいについて扱った本書の第Ⅱ部と前著の第Ⅱ部を対比して読んでいただくと、よく理解いただけるものと思う。

 第Ⅲ部の「データ」については、前著ではほとんど触れることができず、本書で新しく取り上げた論点が多い。あえて前著との接点を求めれば、「アクションリサーチで活用される研究方法・ツール・プロダクツ」(前著第1章5節)として論じた点であろう。該当箇所で、筆者は、アクションリサーチを特定の研究方法等と結びつけて考えるのは不適当であり、「永続する運動としてのアクションリサーチ」が展開される長期的な時間プロセスの中で、「複数の方法、ツール、プロダクツをその中に配置することが重要」と指摘している。この指摘は今でも適切だと考えているし本書でもその立場を踏襲している。しかし、このように主張すれば、「では、どのような考え方に依拠して複数の方法等を配置すればよいのか」が当然問われることになる。この問いを一刀両断できる回答を与えることは困難だが、本書では一つの試みとして、データの代表性をめぐる二つの対照的なロジック―「平均化」と「極限化」―を援用することで、この難題に対する筆者なりの展望を提示したつもりである。

道案内

 三つのキーワード―共同当事者・時間・データ―は、実際には相互に密接に関連し合って、アクションリサーチを特徴づけている。実際、本文中の随所に、他部(他章)の参照を読者に促す記述がある。面倒に思われることもあるかもしれないが、両方の箇所を併読いただくと、より理解が深まるものと思う。とは言え、各章はそれぞれ独立に読んでいただくことができる。よって、興味をもってくださった部分から読み進めていただければ幸いである。ただし、第1章は本書全体のイントロダクションも兼ねており、後続の各章の内容が「予告編」のようにしばしば顔を出す。第1章だけは、この「まえがき」に続けて先にお読みいただくとよいかもしれない。

 本書を構成する論考の一部には、ベースとした既刊の原稿があるので、初出一覧として215ページに提示しておく。ただし、各章ともかなり大幅に加筆し再編している。今般一冊の書物としてまとめるにあたって、書物全体を通貫する論理を明確に呈示するための整理作業を念入りに行った関係もあり、ほとんど原形をとどめないほどに大規模に加除した原稿がほとんどである。よって、既刊の拙稿に目を通してくださった読者におかれても、新しい原稿と思って読んでいただきたいと願っている。

 最後になったが、本書の企画・編集・刊行にあたっては、新曜社の森光佑有さんに大変お世話になった。森光さんとは、筆者の研究室で実施してきたアクションリサーチの成果をまとめた著書『現場フィールドでつくる減災学:共同実践の五つのフロンティア』でもご厄介になった。今回こうして再び、書物づくりという共同実践のパートナーとなっていただいたことに、心から謝意を表する。

上記内容は本書刊行時のものです。