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現代存在論講義 Ⅱ
物質的対象・種・虚構
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2017年10月
- 書店発売日
- 2017年10月19日
- 登録日
- 2017年9月28日
- 最終更新日
- 2017年10月30日
紹介
◆存在論の豊饒な沃野への招待
論理学を武器として“存在”の謎を解明する、現代存在論の本格入門書、待望の第2弾です。学生と教員との対話のかたちで存在論の基礎を明晰に論じて好評を博した1巻に続き、2巻は4つの主題を論じる各論編。目の前にある机のような「中間サイズの物質的対象」、生物・物質・人工物の「種」、現実世界と事物のあり方が異なる「可能世界」、そして小説のキャラクターといった「虚構的対象」について、現代哲学はどのように把握するのでしょうか。より身近な対象へと問いを広げた本書は、さらに読者の哲学的探究心を揺する1冊です。著者は九州大学文学部准教授。
目次
現代存在論講義 Ⅱ 目次
序 文
I巻のおさらい
II巻の内容について
第一講義 中間サイズの物質的対象
1 物質的構成の問題
1.1 二つの相反する直観
1.2 粘土の塊と像
1.3 ニヒリズムあるいは消去主義について
1.4 像と粘土の塊との非同一性を擁護する
1.5 構成関係の定義
2 通時的同一性の問題─変化と同一性
2.1 同一性とライプニッツの法則
2.2 四次元主義
Box 1 四次元主義と物質的構成の問題
2.3 三次元主義
2.4 通時的同一性の条件あるいは存続条件について
まとめ
第二講義 種に関する実在論
1 種に関する実在論
1.1 種についての直観
1.2 普遍者としての種
Box 2 種の個体説について
1.3 性質と種(その一)─偶然的述定と本質的述定
1.4 性質と種(その二)─述語の共有
1.5 性質と種(その三)─タイプ的対象としての種
Box 3 種の例化を表現する“is”は冗長ではない
2 種と同一性
2.1 数え上げ可能性
2.2 種と同一性基準
3 種と法則的一般化
3.1 法則的言明
3.2 種と規範性
Box 4 HPC説と「自然種の一般理論」
4 付録─種的論理について
まとめ
第三講義 可能世界と虚構主義
1 様相概念と可能世界
1.1 様相概念─可能性と必然性
1.2 可能世界─様相文が真であるとはいかなることか
1.3 付録─可能世界意味論の基本的アイディア
2 様相の形而上学
2.1 可能世界への量化と現実主義的実在論
2.2 ルイス型実在論
3 虚構主義
3.1 反実在論としての様相虚構主義
3.2 フィクションにおける「真理」とのアナロジー
3.3 背景とメタ理論的考察
3.4 虚構主義への反論1
3.5 虚構主義への反論2
まとめ
第四講義 虚構的対象
1 基本的構図
1.1 実在論か非実在論か
1.2 虚構と真理
1.3 記述の理論
2 現代の実在論的理論
2.1 マイノング主義(その1)─〈ある〉と〈存在する〉との区分
2.2 マイノング主義(その2)─述定の区分および不完全性
Box 5 非コミットメント型マイノング主義
2.3 理論的対象説
Box 6 虚構的対象についての虚構主義
2.4 人工物説
まとめ
結語にかえて──イージー・アプローチと実践的制約
読書案内
あとがき
索引
装幀─荒川伸生
前書きなど
現代存在論講義 Ⅱ 序文
本書は『現代存在論講義I』(2017年4月刊)の続編である。ただし先行するI巻を読まずにこのII巻から読み始めてもらっても一向に構わない。そもそもI巻とII巻とを問わず、各講義はかなりの程度独立しているので、基本的にはどこからでも読み始めることができる。むろん最初から順番に眺めてもらうのがベストではあるが、多様な関心をもつ読者に画一的な読み方を強いることはできない。このII巻から読み始める読者のために、この序文を使って、I巻の内容をごく簡単に振り返ることにしよう。
実を言えば、最初の構想ではすべてのトピックスを一冊にまとめ上げる予定だったが、やや分量が膨らんでしまったこともあり、当初の予定を変更して二分冊にすることにした。だがそうした事情にもかかわらず、結果的にI巻とII巻との分け方はそれほど不自然なものにはならなかった。というのも、I巻が論じたトピックスはすべて存在論の「ファンダメンタルズ」(基礎)に属するのに対し、II巻のトピックスは必ずしもそうではないからである。
以下がI巻の大雑把な要約である。
第一講義「イントロダクション─存在論とは何か」では、現代存在論で論じられる典型的な主題を概観した後に、存在論の諸区分、すなわち領域的存在論と形式的存在論、応用的存在論と哲学的存在論、形式的存在論と形式化された存在論、(狭義の)存在論とメタ存在論の区分を考察することを通じて、存在論という学問全体についてのイメージを喚起しようとした。
第二講義「方法論あるいはメタ存在論について」は、現代存在論の広い意味での「方法」に関するトピックスを論じた。そうしたトピックスを扱う分野は、今日「メタ存在論」と呼ばれる。まずわれわれはクワイン(W. V. O. Quine)の「存在論的コミットメントの基準」を取り上げ、次いでクワイン的方法が前提する「理論選択」という考え方を、単純性や説明力といった評価基準(理論的美徳)を例にして解説した。クワインの方法は現代の「標準的見解」とされ、多くの存在論的探求に指針を与えてきた。しかしながら、近年ではその見解に異議を唱える哲学者たちも少なくない。われわれは虚構主義・マイノング主義・新カルナップ主義という三つの立場を「非クワイン的メタ存在論」として検討し、クワインの方法を相対化することを試みた。言うまでもなく、こうしたメタ存在論的考察は現代存在論におけるファンダメンタルズの一つである。
存在論者は「何が存在するのか」という問いに対して、存在するもののカテゴリーを特定することで答えようとする。この意味において存在論とは「カテゴリー論」でもある。しかしながら、諸カテゴリーは場当たり的に枚挙されるわけではなく、またそれらは互いに孤立したものとしてリストアップされるわけでもない。第三講義「カテゴリーの体系─形式的因子と形式的関係」では、「いかにしてカテゴリーは体系的に個別化されるのか」という問い、および「どのように諸カテゴリーは関係しあうのか」という問いが考察された。第一の問いに答える際に重要となるのは「形式的因子」と呼ばれる高次の存在論的属性である。現代の存在論者はいくつかの形式的因子を組み合わせることによってカテゴリーの体系的な個別化を行う。これはアリストテレスの『カテゴリー論』の中ですでに用いられていた方法である。第二の問いに答えるためには、現代の論者たちが「形式的関係」と呼ぶ一群の基礎的関係についての検討が不可欠となる。われわれはロウ(E. J. Lowe)の「4カテゴリー存在論」とスミス(B. Smith)の「6カテゴリー存在論」に即して、カテゴリー間を横断する基礎的関係がいかにしてレイアウトされるのかを検討した。こうした形式的因子と形式的関係についての考察もまた現代存在論のファンダメンタルズに属する
第四講義「性質に関する実在論」と第五講義「唯名論への応答」は、先行する三つの講義と比べるとやや特殊な内容をもつように見えるが、それらは、あらゆる存在論的議論の「原型」としての普遍論争を扱うという意味において、存在論のファンダメンタルズに属する。第四講義では、「普遍的性質は存在する」と主張する実在論を、まずは伝統的かつ素朴な観点から擁護することを試み、次いでアームストロング(D. M. Armstrong)の「ミニマルな実在論」の観点からそれを精査した。第五講義では、「普遍的性質は存在しない」と説く唯名論を四つのタイプ(クラス唯名論・類似性唯名論・述語唯名論・トロープ唯名論)に分類し、各々の唯名論が提案する「実在論への代替案」を批判的に吟味した。
II巻の内容について
I巻が存在論のファンダメンタルズを論じる「総論」だとすれば、II巻は「各論」から成ると言ってもよかろう。内容的に少しだけ難易度が上がるかもしれないが、II巻で扱うトピックス自体は、I巻のそれらと比較すると、初学者にとってむしろ親しみやすいものである。
第一講義「中間サイズの物質的対象」では、われわれの周囲に見出されるような物質的対象(この机やこの花)の存在と本性に関する考察を行う。それらのありふれた個別的対象は、当然のことながら、何らかの物質からできており、かつ時間のうちで変化を被るような対象でもある。ところがこうした自明の事柄からいくつかの哲学的難題が生じることが知られている。たとえば「粘土の塊から成る像と当の粘土の塊は同一の対象であるのか」、「部分を少しずつ交換して、最終的にすべての部分が交換されてしまった船は、オリジナルの船と同一であるのか」といった難題である。この講義では「物質的構成」と「通時的同一性」というお馴染みの形而上学的主題を初学者にも理解できる仕方で論じる。
第二講義「種に関する実在論」は、大雑把に言えば、物質種(水素や金)や生物種(ニホンザルやクロアゲハ)といった種(kinds)の実在を擁護しようとする試みである。とくにこの講義では、そうした種が普遍者の一つであると主張する形而上学的実在論が擁護される。こうした実在論を説得力あるものにするためには、種と性質とを区別することの根拠や、種を独立したカテゴリーとして認めることのメリットを示す必要があろう。第二講義の中で、われわれはそうした課題に取り組むつもりである。
第三講義「可能世界と虚構主義」では、可能世界についての存在論とメタ存在論を論じる。存在論に関しては、オーソドクスな仕方で、様相概念の話題から可能世界の実在論へと至る流れを解説する。この講義に何らかの特色があるとすれば、それは、I巻の第二講義で取り上げた虚構主義を、可能世界に関する反実在論としてやや詳しく論じる点にある。この「非クワイン的メタ存在論」が、可能世界を用いた分析を考察する際に、どのような利点をもち、またどのような難点を含むのかを吟味することがこの講義の眼目である。
最後の第四講義「虚構的対象」では、いわゆる虚構(フィクション)の対象─とりわけ小説などの中に登場する虚構のキャラクターたち─の存在と本性についての考察を行う。最初に、われわれの日常的直観が虚構的対象に関する実在論と強く結びついていることを指摘し、次にそれに対する非実在論サイドからの古典的反論を取り上げる。そのうえで、現代の実在論者たちによる諸説(マイノング主義・理論的対象説・人工物説)の検討を通じて、虚構的対象を擁護する可能性を模索する。それでは地の文を担当する僕(=先生)とユイ・ミノルという二人の受講者からなる講義を再開することにしよう。
上記内容は本書刊行時のものです。