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ゲイカップルのワークライフバランス
男性同性愛者のパートナー関係・親密性・生活
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2017年11月
- 書店発売日
- 2017年11月25日
- 登録日
- 2017年10月16日
- 最終更新日
- 2017年12月13日
書評掲載情報
2018-03-24 |
日本経済新聞
朝刊 評者: 山田昌弘(中央大学教授) |
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紹介
◆ゲイカップルの生活実態と素顔
映画『怒り』ではゲイ男性(妻夫木聡)がリッチな外食を楽しむ一方、相手(綾野剛)は家でコンビニ弁当を食べています。ゲイ男性が相手に「働かなくてもお金大丈夫なの?」と問いかけるなど、家計は別でお互いにプライバシーをもつゲイカップルの複雑な関係性がリアルに描かれています。本書はこうした知られざるゲイカップルの生活実態と素顔を、インタビューの語りから浮き彫りにします。社会学者ギデンスの親密性の理論を読み換えて、同性愛者の仕事と家庭、パートナー関係、ワークライフバランスへの理解を深め、従来の家族観やヘテロノーマティビティ(異性愛規範)を考えさせる好著です。
目次
ゲイカップルのワークライフバランス 目次
まえがき
序 章 ゲイカップルの親密性と生活へのアプローチ
1 ゲイカップルへのアプローチ
2 日本のLGBTの社会動向と調査研究
3 本書の構成
第1部 親密性と生活をとらえる理論と方法
第1章 ワークライフバランスとダイバーシティ
1 ワークライフバランスとは何か
2 ワークライフバランス論の四つの立場
3 ダイバーシティを取り入れたワークライフバランス論
第2章 親密性生活の相互関係モデル親密性理論とクィア家族研究の接続
1 親密性と生活をとらえる理論枠組み
2 ギデンズの〈親密性モデル〉の意義と限界
3 ヘテロノーマティビティとクィア家族研究
4 〈親密性生活の相互関係モデル〉の問題設定
第3章 インタビュー調査の概要
1 インタビュー調査の目的
2 インタビュー調査の概要
第2部 ゲイカップルのパートナー関係・親密性・生活
第4章 家計の独立とパートナー関係個別化する家計と生活
1 レズビアン/ゲイカップルの家計組織
2 ゲイカップルの家計は独立か、共同か共通の財布の有無
3 パートナー間の生活格差と生活の個別性
第5章 消費者行動としての家事の外部化家事サービスの利用
1 消費者行動とは何か
2 ゲイカップルは家事を外部化しているか外食・料理・掃除サービス
3 家事の外部化条件異性愛家族との共通性と影響
第6章 家事分担と仕事役割資源・時間・イデオロギー・家族責任
1 同性カップル/異性愛家族の家事分担
2 ゲイカップルはどのように家事を分担しているか
3 ゲイカップルの家族責任と愛情表現家事・仕事・生活費負担の関連
4 家事分担の平等と重層的な役割構成
第7章 生活領域と〈分かち合う親密性〉家事/余暇活動のシェア
1 親密性と生活領域の相互関係
2 ゲイカップルの親密性が生じる生活領域
3 ヘテロノーマティビティ 対〈分かち合う親密性〉
第8章 職業生活への精神的サポート仕事の不満や悩みを聞く
1 ワーク・ファミリー・コンフリクト・アプローチ
2 セクシュアル・マイノリティの職業生活と差別
3 ゲイカップルの職場経験に見るヘテロノーマティビティ
4 ゲイカップルのパートナー間のサポート
5 パートナーを守る精神的サポート
第9章 民主制としての意思決定プロセス平等なパートナーシップの形成
1 同性愛者のパートナーシップ
2 同性カップルの意思決定プロセスとヘテロノーマティビティ
3 ゲイカップルはどのように意思決定しているか
終 章 親密性とワークライフバランス論の課題
近代家族と「純粋な関係性」のオルタナティブ
1 ジェンダーを実践する/しない役割構成
2 日本のゲイカップルのワークライフバランス
3 ゲイカップルのパートナー関係・親密性・生活と民主主義のゆくえ
4 まとめと今後の課題
あとがき
参考文献
事項索引・人名索引
装幀 鈴木敬子(pagnigh-magnigh)
前書きなど
ゲイカップルのワークライフバランス まえがき
ゲイカップルへの関心
筆者がゲイカップルの研究を始めたのは、大学院に入学した二〇〇七年である。当時は、日本のセクシュアル・マイノリティは社会問題として大きな注目を集めていなかった。しかし、ここ数年、LGBTがメディアを賑わせ、出版ラッシュが続いている。ドラマや映画ではセクシュアル・マイノリティが当たり前の存在として描かれるようになり、十年前には考えられなかった状況である。
これに伴って、ゲイカップルの描き方もリアリティが強く感じられるようになった。映画『怒り』(二〇一六年、李相日監督)では俳優の妻夫木聡と綾野剛がゲイカップルを演じている。妻夫木聡が演じる優馬は大手企業に勤めるエリートビジネスマン、綾野剛が演じる直人は経済的に不安定な若者である。直人は優馬と出会った日に、彼の家に泊まる。それ以降、二人は同居生活を始めるが、両者の生活は対照的である。優馬はゲイの友人たちとリッチな外食を楽しむ一方、直人は家でコンビニ弁当を食べている。
仕事役割の描写もある。優馬は、なかなか仕事に就かない直人に「まだ働かなくても、お金大丈夫なの?」と問いかけている。これらの描写は、家計を別にするパートナー間に生活水準の格差が生じ、さらにカップル双方に働くことが期待されるという本書の知見と一致する。ゲイカップルの複雑な関係性をリアルに映し出しており、興味深い。
ゲイカップルのワークライフバランス
なぜゲイカップルのワークライフバランスを探求するのか。一つには、日本では生活者としてのゲイカップルは、十分知られているとはいえない。同性カップルの法的保障を議論し、生活状況を改善する上で、ゲイカップルの生活のあり方を明らかにすることは重要である。
これまで、同性愛者の性がクローズアップされることが多かった。それは同性愛者が抱えるセクシュアリティの問題を明らかにする意義がある一方で、その意図せざる帰結として、同性愛者を性的存在として強調する効果を生み出したのではないか。
同性愛者は異性愛者と同様、職場では仕事に従事し、家では家事を行い、休日は買い物をしたり、恋人や友人と過ごすこともある。本書は、同居するゲイカップルのパートナー関係、親密性、仕事と生活(職業生活と家庭生活)に注目し、インタビュー調査からゲイカップルの語りをていねいに記述する質的研究の試みである。男性同性愛者の生活者としての素顔、ワークライフバランスのあり方を浮き彫りにして、異性愛を中心とする親密性概念や家族研究の限界を超えて、セクシュアル・マイノリティの婚姻に基づかない多様な関係性を探求したい。
もう一つは、いまだにワークライフバランス研究がダイバーシティ(多様性)の理念を表現していないことを挙げておきたい。ワークライフバランスと重なる用語として、かつてファミリーフレンドリーが掲げられた。ファミリーフレンドリーとは、従業員の家族責任に配慮した施策を整備することを指す。ファミリーフレンドリー施策が進むことによって、異性愛家族の人々は施策の対象となる一方で、未婚者や同性愛者から「なぜ既婚者だけが優遇されるのか」という不満が噴出し、従業員間の分断が起こりかねない状況が生じた。そこで登場したのが、すべての従業員を対象とし、仕事(ワーク)と生活(ライフ)の調和をめざすワークライフバランス施策である。しかし、アカデミズムにおいてワークライフバランスの名を冠した研究の多くが、異性愛家族を対象としている。ワークライフバランスが登場した経緯を踏まえるならば、異性愛家族ではない人々を積極的に取り上げる必要がある。
生活者としてのゲイカップル LGBTと現代社会
本書におけるゲイカップルとは、異性愛者という自認がなく、精神的に親密で、継続的な性関係がある男性カップルを指す。調査対象は、二〇〇七年六月二〇一〇年一〇月、都市部で同居していた2040代の正規/非正規の雇用者、自営業者のゲイカップル10組である。その中にレズビアン(女性同性愛者)、トランスジェンダー(性別越境者)は存在しなかった。
冒頭で述べたように、現在ではLGBTが社会的な注目を集め、さまざまな運動や発言がマスメディアやインターネットの報道で積極的に取り上げられている。教育現場においてもセクシュアル・マイノリティの受容に向けた取り組みが進みつつある。たとえば、二〇一七年度から高校の家庭の教科書においてLGBTという用語が初めて登場する。
「LGBT」はレズビアン(L)、ゲイ(G)、バイセクシュアル(B)、トランスジェンダー(T)の総称である。本書で論じるゲイカップルにはレズビアンやトランスジェンダーは含まれないため、LGBTという表記は避けた。LGBT全部が含まれる場合を除き、それよりも範囲が広いセクシュアル・マイノリティという用語を用いる。
本書の調査から十年近くを経ており、ゲイカップルの最新動向を知ることはできないが、生活者としてのリアリティに注目し、職業生活(ワーク)と家庭生活(ファミリーライフ)に分け入り、パートナー関係と親密性の内実を見ていく。
性愛家族を超えて 親密性と生活を理論化
職業生活と家庭生活は、仕事、家事、消費などの諸領域によって成り立つが、その多くが異性愛家族を前提としてきた。本書はこうした現状を超えて、セクシュアル・マイノリティを視野に収め、従来の家族社会学の手法をクィア家族研究に取り入れて、親密性と生活の理論化をめざしたい。
本書の書名である「ゲイカップルのワークライフバランス」には、研究者だけでなく広い読者層に本書を手に取ってもらいたいという意図を込めている。現代日本のゲイカップルの生活を知りたい読者は、第2部から読み始めることをおすすめしたい。また、本書では紙数の制約から、学術的な表現を一部省いた。専門家の読者には参考文献に掲載した筆者の論文も合わせてお読みいただきたい。
上記内容は本書刊行時のものです。