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水と風と生きものと 中村桂子・生命誌を紡ぐ ドキュメンタリー映画の記録

JT生命誌研究館・表現を通して生きものを考えるセクター(編集)
発行:新曜社

A5判   192頁  並製
価格 3,600円+税

ISBN 978-4-7885-1534-5   C1045
在庫あり(出版社情報)

奥付の初版発行年月 2017年8月
書店発売日 2017年8月20日
登録日 2017年7月13日

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紹介

◆好評の映画がDVDブックに!
 各地で上映を重ねている映画「水と風と生きものと」がDVDになり、本書に付属されました。映画では、「人間は自然の一部」と考え生命誌を提唱してきた中村桂子氏が、震災後の科学と文明を見つめ、人々と対話し、東北を訪れます。そして宮沢賢治の世界に目を向け、「生きているを大切にする社会」のための新たな知を、絵本編集者の末盛千枝子氏、風の彫刻家の新宮晋氏、民俗学者の赤坂憲雄氏らと探究していきます。本書にはシナリオや上映時のトークなども収録。文章と映像でお届けする「本当に命を大切にする」生き方へのメッセージです。

目次

水と風と生きものと 中村桂子・生命誌を紡ぐ もくじ

前口上
  この作品について     藤原道夫
  生命誌のお仲間と     中村桂子

シナリオ採録
  ドキュメンタリー映画「水と風と生きものと 中村桂子・生命誌を紡ぐ」

映画館で
  科学を物語する     池谷薫×藤原道夫
  三八億年って思ったら気楽になれます     伊東豊雄×中村桂子
  自分が変われば社会が変わっていく     関野吉晴×中村桂子
  生きものはつらいよ     中村桂子
  いのちを見つめる眼差し     藤原道夫×村田英克
  「生きる」を感じ、考える場     黒岩美智子×村田英克

結びに
  三八億年の物語を語り継ぐという課題     村田英克

特別付録
  対談 生命誌という作品づくり ~知と美の融合を求めて~     岡田節人×中村桂子

プロフィール
上映の記録
自主上映会のご案内
JT生命誌研究館とは

前書きなど

水と風と生きものと 中村桂子・生命誌を紡ぐ 前口上
この作品について             藤原道夫[本作監督]

 今日は、ようこそこの映画に足を運んで下さいましてありがとうございます。監督の藤原道夫です。この作品はおよそ三年をかけてつくりまして、今日、初めて皆さんに公開することになるわけです。中村桂子先生という希有な科学者、この先生の日頃の活動から広くは哲学までを描くなかなか難しい作品づくりでした。いろんなことを考えまして、いろんな風に迷いまして、今日の結果になりました。三八億年前に、いのちがぽつんと生まれたところから我々までつながっているという壮大な物語であるだけに、映像化するのも苦労しました。

 この映画は、こういう風に観なくてはいけないということや、こういうことを覚えて帰って欲しいという映画ではありません。ただ、いのちというものの在りよう、そして、私たちがこれからをどう生きていったら良いのかということに、ひとつ大きなヒントを投げかけてくれる映画にしたつもりです。考えることよりは、ぜひ感じて帰って頂きたい。どうぞよろしくお願いします。

[ポレポレ東中野 二〇一五年九月一二日初日上映前]


生命誌のお仲間と             中村桂子[本作主演・JT生命誌研究館館長]

 こんなに大勢の方に来て頂いてほんとうにありがとうございます。三年間、藤原監督がとにかく生命誌の仕事を追いかけるから、いつも通りにやってて下さいとおっしゃって、撮って頂いたものなのですけれども、映画館だと、こんなに大きく映ってしまうとは気づきませんでした。もっとしっかりお化粧しておけばよかった。(会場笑い)

 「人間は生きものであり、自然の一部である」ということをずっと考え続けています。とくに東日本大震災の後、強くそう思うのですが、社会はなかなかそうなって行きません。あれからもう四年半です。「いのちが大事」ということは皆さんわかっていて、例えば、「生命尊重」と口ではおっしゃるのに、現実には違うことをなさる。とくに政治や経済にそれを感じます。

 映画の題は「水と風と生きものと」にしました。「生命」とはしなかったのです。「生きもの」の具体を考えて頂くことに意味があると思うからです。研究館では、チョウやクモ、カエルやコバチなど小さな生きものを、毎日毎日、見つめています。そうしますと、ほんとうに「生きている」ということがすごいことだと思えてくるのです。

 私たちは科学を基本に置いて考えますので、生きものを見ていく中で、細胞やDNA等を扱いますが、そうしなければ本質が見えないわけではありません。日常的には、小さなお子さまがダンゴムシを見るのでも充分です。時に、虫眼鏡等を取り出して頂けたら充分過ぎるくらいになります。皆さんが、普段から小さないのちを、生きものを見つめて頂くと嬉しいな。東京の真ん中にも小さな生きものがいろいろいます。抽象的に「生命」と云わず、具体的に行動して頂きたい。そう思って「水と風と生きものと」としました。

 私は研究館の仲間に、いつも「動詞で考えよう」と云っています。「食べる」とか「眠る」とか。動詞で考えると、そこから具体的に考えが広がっていきます。例えば、「食べる」ということで最近のニュースでとても悲しかったのは、日本の子どもたちの六人に一人が、ちゃんとご飯を食べられていないとう報道です。給食だけが栄養バランスの取れた食事であって、夏休みの間はまともに食べていないというのです。アフリカ等では子どもの飢餓が問題になっていますけれど、これはこの国での話ですよ。そのように、例えば、「食べる」ということをきちんと考えることから、いのちという基本に思いを致すようにしたいと思っています。

 「水と風と生きものと」には、生命誌を応援して下さっているさまざまな分野の方に出て頂きました。映画の中でも素晴らしい作品を見せて下さった、風の彫刻家の新宮晋さんは、今、水と風の力だけで自活する村を実現しようと一生懸命考えていらっしゃいます。<ブリージング・アース>というプロジェクトです。日本では、そんな夢みたいなことはなかなか認めてもらえない。それをイタリアのある村の村長さんがやろうと云って下さったと、新宮さんはとても喜んでいらっしゃいました。生命誌とつながる具体的な活動が世界中でいろいろな形で動いて行くとよいなと思います。

 映画に「セロ弾きのゴーシュ」が出てきます。東日本大震災の後、どうしても宮沢賢治が読みたくなり、改めて全集を読み直し、生命誌と重なるところがあると感じ二〇周年を記念してつくったものです。主人公のゴーシュが叱られているのは渇いた現代社会です。森にある水車小屋に帰ると必ず水をゴクゴク飲みますね。あれは自然の世界へ入る儀式なのだ・・・そう思いました。自然の世界の中へ入り、セロの練習に励みます。自然は潤いの世界です。毎晩、訪ねてくる生きものたちと一緒に、時に怒ったり、バカにされたり、優しい気持ちになったりと、ゴーシュは葛藤する中で、森の動物たちから徐々に「いのちの音」をもらうのです。そして最後には、町の音楽会で彼の演奏が聴衆の心を動かし、アンコールとなるわけです。私も、生命誌研究館という小さなところでいのちの物語を聴き、ゴーシュのように「いのちの音」で、少しでも社会を動かせたらと思っているのです。難しいことですけれど。

 今日、映画をご覧頂いた皆さまは、生きもののことを考えて下さる生命誌のお仲間だと思っております。とても小さな活動ですけれども、どうぞこれからもよろしくお願いいたします。

[ポレポレ東中野 二〇一五年九月一二日初日上映後]

上記内容は本書刊行時のものです。