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ロシアの世紀末 海野 弘(著/文) - 新曜社
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ロシアの世紀末 (ロシアノセイキマツ) 銀の時代への旅 (ギンノジダイヘノタビ)

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発行:新曜社
A5判
560ページ
上製
価格 6,200円+税
ISBN
978-4-7885-1523-9   COPY
ISBN 13
9784788515239   COPY
ISBN 10h
4-7885-1523-7   COPY
ISBN 10
4788515237   COPY
出版者記号
7885   COPY
Cコード
C1070  
1:教養 0:単行本 70:芸術総記
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2017年5月
書店発売日
登録日
2017年5月17日
最終更新日
2017年6月1日
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書評掲載情報

2017-12-17 毎日新聞  朝刊
評者: 三浦雅士(評論家)
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紹介

◆いま蘇るロシアの19世紀末群像
 十九世紀中葉はロシアの〈金の時代〉といわれ、ゴーゴリ、トルストイ、ドストエフスキーなどが活躍する黄金時代でした。そして一九一七年のロシア革命のあとは、ロシア・アヴァンギャルドの全盛期でした(短期間ですが)。ではその間はというと、今までは谷間の時代のように思われてきましたが、最近、〈銀の時代〉という名前で呼ばれる、ロシア独自のアール・ヌーヴォーの時代であったとして、見直されています。文学者ではチェーホフ、ブローク、画家ではベールイ、ヴルーベリ、ベヌア、バレーではディアギレフ、ニジンスキーなどが活躍したのです。著者は、これらの芸術家たちを、ペテルブルクやモスクワという都市空間のなかに置いていきいきと歩き回らせ、この時代を浮かび上がらせます。ロシア文学を専攻し、都市論を得意とした著者ならではの「集大成」ともいえる力作です。図版百点を収録。

目次

ロシアの世紀末 目次
プロローグ
 〈銀の時代〉へのレクイエム―『ドクトル・ジバゴ』の世界
 〈銀の時代〉とはなにか
 ロシア・ルネサンス

第一部 世紀末都市の詩学―〈銀の時代〉の文学
第一章 ロシアの世紀末都市
 ペテルブルク1 ピョートルの都市から世紀末都市へ
 ペテルブルク2 モダン様式
 ペテルブルク3 ネフスキー大通り
 ペテルブルク4 ペテルブルクの夜
 ペテルベルク5 一九〇一年
 ペテルブルク6 ユスポフ宮殿
 ペテルブルク7 ロシア秘密警察
 ペテルブルク8 ラスト・ワルツ
 モスクワ1 三重のリング
 モスクワ2 キタイ・ゴロト
 モスクワ3 劇場広場とチャイコフスキー
 モスクワ4 トヴェルスカヤ大通り
 モスクワ5 アンダーワールド
 モスクワ6 コレクターたち

第二章 〈銀の時代〉の光と影―ロシア世紀末文学
 ロシア・シンボリズム誕生
 ヴァレリー・ブリューソフ
 ヴャチェスラフ・イワノフと塔の結社
 地下都市の風景1 アンドレーエフ
 地下都市の風景2 アルツィバーシェフ
 地下都市の風景3 クープリン
 アレクサンドル・ブローク
 アンドレイ・ベールイ

第二部 失われた時の幻影―〈銀の時代〉の美術
第三章 ロシアの世紀末美術―失われた世代
 〈銀の時代〉ふたたび
 マーモントフ・サークル
 皇女テニシェワのタラシキノ

第四章 ディアギレフと『芸術世界』
 青春のペテルブルク
 『芸術世界』誕生
 芸術と演劇と
 『芸術世界』の終末
 ロシアから西へ
 『ボリス・ゴドゥノフ』パリ公演
 〈バレエ・リュス〉の誕生
 〈バレエ・リュス〉―世紀末への別れ

第五章 〈銀の時代〉の画家たち
 ミハイル・ヴルーベリ
 アレクサンドル・ベヌア
 コンスタンチン・コローヴィン
 コンスタンチン・ソモフ
 アレクサンドル・ゴローヴィン
 ムスチスラフ・ドブジンスキー
 イワン・ビリービン
 ボリス・クストージエフ
 エフゲニー・ランセレ
 レオン・バクスト
 ニコライ・リョーリフ

エピローグ 〈銀の時代〉ふたたび
 ポスト『芸術世界』
 〈銀の時代〉復活
 〈銀の時代〉のエロス
 〈銀の時代〉から〈鉄の時代〉へ

あとがき
事項索引
人名・作品・雑誌索引

装幀―難波園子

前書きなど

ロシアの世紀末 あとがき
  また〈ロシアの世紀末〉にもどってきた。それは私の出発点であった。早稲田大学露文科に学び、卒業論文は「アンドレイ・ベールイの『ペテルブルク』」だった。
 はじめは〈ロシア象徴主義論〉を目指したが、力及ばず、そのごく一部にしか触れられなかった。なぜ〈ロシア象徴主義論〉だったのか。私は「ソヴィエト研究会」に入った。そこでは〈社会主義リアリズム〉によって排除された〈ロシア・アヴァンギャルド〉の復権が求められ、マヤコフスキーの詩の再評価がはじまっていた。私は文学だけでなく美術に興味を持ち、〈ロシア構成主義〉をとりあげた。
 しかしそのうちに、〈ロシア・アヴァンギャルド〉を準備したロシア世紀末の象徴主義から調べてみたいと思うようになった。さらにロシア象徴主義のために、その起源となるフランス象徴主義をやらないと、などととめどなくなって、卒論は間に合わなくなり、不充分なものとなった。
 卒業してから、私はあらためて〈世紀末〉に興味を持ち、そのなかの〈アール・ヌーヴォー〉にのめりこんでいった。そして〈モダン都市〉に関心を広げていった。〈ロシア文化〉とはかなり離れていったが、いつかまたそこにもどりたいと思っていた。
 『現代詩手帖』に「ロシアの都市と文学」を連載したことが、一つのきっかけで、それをもとに『ペテルブルク浮上――ロシアの都市と文学』(新曜社 一九八八)を出すことができた。ここではプーシキンからドストエフスキーにいたる、ロシア文学の黄金時代をたどった。
この本を出した頃、〈ロシア・アヴァンギャルド〉も爆発的に復活しつつあった。西武美術館でロシア・アヴァンギャルド展が開かれた。私もそこに参加するはずであったが、未熟であったため、手伝うことはできなかった。その残念さが、いつか〈ロシア・アヴァンギャルド〉について書きたいという気持ちをかきたてた。それがやっと実現したのは、二〇〇〇年、『ロシア・アヴァンギャルドのデザイン』(新曜社)においてであった。そして二〇一五年、図版をふんだんに入れた『ロシア・アヴァンギャルドのデザイン』(パイ・インターナショナル)を出すことができた。
 それから私が気になったのは、『ペテルブルク浮上』と『ロシア・アヴァンギャルドのデザイン』の間の時代、ロシアの十九世紀末から二十世紀初頭、すなわち〈世紀末〉である。そこには、私の〈ロシア〉の出発点である象徴主義、そしてアール・ヌーヴォーが含まれている。
 ロシア文学史ではこの時代は〈銀の時代〉と呼ばれている。プーシキンからドストエフスキーまでの〈金の時代〉に対比したいい方である。世紀末デカダンスの時代であり、ロシア文学と美術の歴史で忘れられた、失われた時なのである。しかし、ずっとヨーロッパの世紀末を追ってきた私にとっては最も魅力的な時代だ。ロシアにも〈世紀末〉が、アール・ヌーヴォーがあったことを明らかにしたい。
 プーシキンやドストエフスキーの時代については多くの研究がなされている。かつて禁じられていた〈ロシア・アヴァンギャルド〉も、目ざましい復活をしている。しかし〈銀の時代〉はまだ空白のまま残されている。日本ではほとんど知られていない。二十一世紀に入って、私は〈銀の時代〉について書こうと思った。
 ちょうど、世界的にも〈銀の時代〉の研究がはじまりつつあった。はじめは欧米で、文学中心ではじまり、やがて美術へ広がってゆき、ついにロシアでも〈世紀末〉や〈アール・ヌーヴォー〉の本が出るようになった。
 日本では知られていない、といったが、実は第二次世界大戦以前のロシア文学研究者たちはかなり〈銀の時代〉を紹介していた。
 そのような状況のなかで、私は〈銀の時代〉について書きはじめた。私は、文学と美術の両方にまたがる文化現象としてとらえたいと思い、〈都市論〉の視点からたどっていくことにした。あまりに広い領域なので、まだまだ不充分であるが、全体的な見取図を示そうとした。
 ようやく私はここにもどってきた。〈銀の時代〉を書くことで、十九世紀から二十世紀にいたるロシア文化の三つの時代をつなぐことができた。そのような仕事をさせてくれた新曜社の渦岡謙一さんに深い感謝を捧げる。
 ロシアの世紀末、ロシアの失われた時が甦ってくることを希求しつつ、私は長い旅を閉じることにしよう。

 二〇一七年二月
海野 弘

上記内容は本書刊行時のものです。