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空間紛争としての持続的スポーツツーリズム
持続的開発が語らない地域の生活誌
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2017年2月
- 書店発売日
- 2017年2月28日
- 登録日
- 2017年2月9日
- 最終更新日
- 2017年3月13日
紹介
◆持続的開発の陥穽を脱するために
近年、持続的スポーツツーリズムが地方再生の戦略として注目されています。自然に手を加えず生活を保全したまま行う開発ですが、現場では問題報告の声が絶えません。生業や生活の場をスポーツに転用すると、ここは何のための空間なのかという定義にまつわる問題を引き起こすのです。自然破壊とは異なる位相の問題に向き合うため、著者は紛争という視角から各地の実態を追います。お遍路、ウォーキング、トライアスロン、サーフィンなど、10年間にわたる調査により、ツーリズムを「在地化」させる営みが克明に描き出され、コモンズ論や地域振興論に大きなヒントを与える気鋭の問題提起です。
目次
空間紛争としての持続的スポーツツーリズム 目次
はじめに
序章 フィールドから問う社会学
1 問題としての持続的スポーツツーリズム
2 主要概念と見取り図
3 フィールドワークとモノグラフ
4 本書の構成
第1章 空間紛争を捉える研究視角
1 スポーツツーリズム研究の再構成
2 観光のまなざし論からみた持続的スポーツツーリズム
第2章 持続的スポーツツーリズムを支える人々とその論理
――四国の山村とウォーキングイベント
1 住民参加か動員か
2 現代の四国遍路
3 松尾の人々とウォーキングイベント
4 松尾のことは松尾で――遠くの家族より近い他人
5 「地域生活の時空間」に位置づけ直される「観光の時空間」
第3章 生活課題と縫合される持続的スポーツツーリズム
――手賀沼の暮らしとトライアスロン大会
1 所与された波及効果
2 よみがえれ手賀沼――大会までの経緯
3 手賀沼漁協からみた手賀沼トライアスロン大会
4 農家にとっての手賀沼と手賀沼漁協
5 イメージを刷新するためのトライアスロン大会
第4章 持続的スポーツツーリズムと地域生活の対立と共在
――漁民とサーファーの生活基準の関係
1 理念的には不完全であろうとも現実的な合意のありようへ
2 漁民にとっての海、サーファーにとっての海
3 おらがテイチ――口利きという生活技法
4 生活基準の関係――共に生活を成り立たせる
第5章 「開発」の正当化と持続的スポーツツーリズム
――スクーバダイビング構想に対する漁民の対応
1 エコツーリズムの理念と現実
2 奥泊の人々からみるスクーバダイビング
3 奥泊とダイビング構想
4 奥泊の人々にとっての地先の海
5 両義的存在としての持続的スポーツツーリズム
終章 持続的スポーツツーリズムと人々の創造的営為
1 内包される空間定義の二重化
2 持続的スポーツツーリズムと棲み分ける人々
3 持続的スポーツツーリズムを在地化する人々
注
あとがき
参考文献
索引
装幀*難波園子
前書きなど
空間紛争としての持続的スポーツツーリズム はじめに
かつて著者は、アジア式の水田技術を移転することによってアフリカの食糧問題や貧困問題を解決しようとする農村開発プロジェクトに参加していた。そのプロジェクト目標の根拠となったのが、アジア式水田の持続性と高い生産力である。これまでの熱帯雨林の焼畑に直播する陸稲栽培を、アジア式の水稲栽培(水田と育苗)へと移行させることは、連作障害を克服して熱帯雨林を保全し、世界規模のCO2排出量の減少に寄与する。さらに土地の生産力を格段に上昇させ、現地の食糧問題の解決にも寄与する。もっといえば、現地の消費量を超えた生産物を商品化することで現金収入を生み出して貧困問題にも寄与する。そんな「夢」のような農村開発であると計画実施された。少なくとも著者はそう信じて疑わなかった。ところが、実際に現地の有志らと励んだ開墾と収穫という「成果物」が集落にもたらしたのは、不均等になだれ込む資本とそれが生み出す貧富の格差と秩序の乱れであった。そこからわかったのは、先進国の食料を生産する広大なプランテーションが耕作条件の良い土地を覆い尽くし、そうして残った耕作条件の悪い土地の生産力をあげるために先進国からの「援助」をおこなっている自分たちの存在であった。
困惑のままに帰国した著者の目に飛び込んできたのは、食のグローバル化のなかで、日本の農山漁村の社会的役割が食の「生産空間」からスポーツや観光のための「消費空間」に移行していく現代的様相だった。こうした困惑と経験を源泉に、著者の調査研究があり、本書がある。だからこそ本書は、日本の農山漁村を舞台に自然を糧とする人々とのせめぎあいのなかで持続的スポーツツーリズムを論じることになる。そのため本書には、一般的に語られる地域活性化としてのスポーツツーリズムとは異なる論調や視点がはらまれることになるであろう。そしてなにより、そうして書かれた本書が、読者が持続的開発の現場で感じた「違和感」に言葉を与えたり、その「通念」を疑うひとつのきっかけになればと思う。
上記内容は本書刊行時のものです。