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生き延びる都市
新宿歌舞伎町の社会学
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2017年2月
- 書店発売日
- 2017年2月28日
- 登録日
- 2017年2月9日
- 最終更新日
- 2017年2月27日
紹介
◆歓楽街が生き延びるメカニズムとは?
数千軒のスナック・風俗店が立ち並ぶ、世界でも有数の歓楽街・歌舞伎町。何度も「浄化」が試みられながらこの歓楽街は生き延びています。著者は、住民やコミュニティに集中してきた既存の研究手法を離れ、空間の作用、移動する主体、職業や労働などの一時的活動等に焦点を合わせることで、その再生産メカニズムに迫ります。客引き・風俗職従事者等のフィールド調査や、ビル経営・不動産業など空間を商品化する産業の調査により、経営者・従事者・客の多層的関係や、雑居ビルという特質、ストリートの動態を解明し、「歌舞伎町」の総体を、歴史と構造的空間生成の両面から活写する野心作です。
目次
生き延びる都市 目次
序章 繰り返される「浄化」
第1章 問題設定と研究の方法
1 「地域コミュニティ」の困難
2 「地域社会」の研究方法
第2章 歌舞伎町の形成と問題化
1 歌舞伎町の形成と成長
2 雑居ビル火災―出来事と構造
第3章 「地域イメージ」と雑居ビル
1 警察と自治体
2 商店街振興組合と雑居ビルオーナーたち
3 不動産業者の空間管理
4 雑居ビルの不透明性と地域イメージ
第4章 風俗産業の労働と経営
1 男性客向け接待系風俗営業(キャバクラ)
2 女性客向け接待系風俗営業(ホストクラブ)
3 店舗型性風俗(ヘルス、ソープ)
4 無店舗型性風俗(デリヘル)
5 風俗産業のサービス、ジェンダー、空間
第5章 ストリートにおける活動と意味づけ
1 ストリートにかかわる法令とパトロール
2 客引きによる客の供給と「ぼったくり」
3 スカウトが取り結ぶ契約と信頼
4 イメージのメディア、需要の仲介
第6章 結論 都市的地域社会歌舞伎町の維持、再生産メカニズム
1 歌舞伎町の三つの領域
2 活動はいかにして再生産されるか
3 活動と「場」の相互作用
4 都市地域社会の把握に関する方法的考察、ならびに本研究の意義と限界
付論 歌舞伎町と統計
1 統計資料に見る歓楽街
2 歌舞伎町の統計
謝辞
インフォーマントリスト
文献
事項索引
人名索引
装幀*加藤賢一
前書きなど
生き延びる都市 序章(一部抜粋)
繰り返される「浄化」
本書は、おおむね西暦二〇〇〇年から二〇一〇年前後までの新宿歌舞伎町について、その維持、再生産のメカニズムを経験的に解明することを目指す。以下ではまず、本書の題名について簡潔に説明することで、本研究全体の見取図を確認する。
歌舞伎町の「社会学」を副題としたのは、何もその抽象性でもって作業半径を大きく取っておくためではない。都市社会学的で地域社会学的であることはもちろん、局面によっては労働社会学的でもあるような、そうしたさまざまな―「社会学的」としか言い様がない―視点の組み合わせのうちに歌舞伎町という対象を浮かび上がらせようとすること、このことを積極的に示すためである。
主題の「都市」に込めた含意は、以下のような多様な論点の交差のうちに対象を見る見方のうちに表れている。つまり、住民だけでなく、移動する人びとを含めた各主体のネットワーク、彼女ら彼らの職業への入職、離職、さらには空間の供給、管理といった論点から歌舞伎町を捉えようとすること―対象の「都市」性は、こうした社会的諸力の交差する特異点に関連したものとしてある。付言すれば、どちらかと言えば全域的なholistic含意を持つ「都市社会」概念とは対照的に、本書はより局所的なlocal社会のうちにこだわることで、その内部の複線的な多面性に迫ろうとする戦略を採用しようと思う。
歌舞伎町を社会学的な研究の「対象」とするに当たっては、方法的な枠組みの整備が不可欠である。個別の論点をどれだけ寄せ集めても、寄せ集めた論点の集合それ自体では「対象」を構成しない。本研究では、対象を構成するために認識に先立って整備されるべき枠組みと、認識を経たのちの枠組みの再調整、再評価を、対象認識そのものやそのメカニズムの分析と同様に重視している。言い換えれば、単に歌舞伎町という対象に関する知識の増大のみならず、他の対象の認識にも役立つような枠組みとしての「方法」をも志向すること。これが第1章と第6章で「方法」にこだわった意図である。
本書で採用する「地域社会」として歌舞伎町を捉える視点は地域に関する社会学研究の学説史的な再検討に基づいており、「地域社会」概念に関して提出する新しい規定、概念化によって支えられている。第1章で述べるこの概念化が含意する探究の方向性をここで結論だけ提示すれば、〈面的に広がる空間を基盤にして成立し、そこに出入りする人びととそこで行われる社会的活動の総体の一定のまとまりを持ったパターン〉を探ることで地域社会にアプローチしようとする試み、と規定される。
地域社会学やコミュニティ研究になじみのある読者にとって、この規定はいささか抽象的に過ぎるように思われるかも知れないが、それこそが狙いのひとつである。これまでの地域社会研究においては対象設定の段階で強すぎる前提が置かれることによって、本来であれば独立して扱われることが望ましい複数の要素が重ね合わせられてしまっていた。本書での概念化はその重ね合わせを引き?がすことを目的としているので、従来の規定と比していっけん抽象的な内容に見えるのである。これまでの地域社会研究にあっては、探究課題として設定されるべき具体的内容が、論点先取的に地域社会の概念規定に混入してしまっていたことが問題だった。第1章ではこのことを詳しく明らかにしていく。
それに先立つこの序章では、本格的な論述の前に歌舞伎町に関して読者と共有を図るべき緩やかなイメージを、新聞記事の例から示そう。ここでは差し当たって「歓楽街」の語を、「風俗産業をその主要産業として擁するような区画」を指すものとしておこう。また「風俗産業」については、「キャバクラやホストクラブ、あるいはソープやヘルスといった業態を典型とする、性的好奇心あるいは性的欲望に何らかの仕方で応じるサービスを提供するような店舗(風俗店)を中心とした産業の一定のまとまり」という仮の定式化を与えておく。風俗産業が「主要」産業であることをもって歓楽街と見なすということは、ある区画が歓楽街であるかどうかは程度の問題である、ということを意味する。つまり経験的には、「これは間違いなく歓楽街である」というような区画から、「多少は歓楽街的な要素を見出すことができる」というような区画までがあり得るような、「歓楽街性」についてグラデーションを想定した規定である。
ところで本書では、歌舞伎町という対象を、ここで言う歓楽街性に還元して理解することはしない。言い換えれば、地区を機能に切り詰めて把握する、そうした観点は採用しない。そうではなく、歌舞伎町を「地域社会」として捉えたとき、そこにおける社会的活動の重要なパターンが、歓楽街性なのである。本書のひとつの焦点であるこの「地域社会」概念については第1章で本格的に論じる。
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上記内容は本書刊行時のものです。