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日本のインテリジェンス工作 陸軍中野学校、731部隊、小野寺信

山本 武利(著/文)
発行:新曜社

四六判   288頁  上製
価格 2,800円+税

ISBN 978-4-7885-1499-7   C1031
在庫あり(出版社情報)

奥付の初版発行年月 2016年11月
書店発売日 2016年11月1日
登録日 2016年10月12日

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書評掲載情報

2017-02-12 毎日新聞  朝刊

紹介

◆インテリジェンス・リテラシーを高めるために!
 平和憲法下、日本は軍備を放棄し、戦争をしない国になったはずでしたが、最近、集団的自衛権を容認する「安保法案」なるものが成立し、中国・北朝鮮の強硬姿勢などと相まって、戦争が現実味を帯びてきています。多くの犠牲をはらって得られた「平和」を死守するためにも、戦争とは何か、どのようにして起こり、いかに行なわれるのか、その現実を知らざるを得ません。
 本書は、なかでも日本人が見落としてきた、戦争における「情報」の役割に焦点を当てて、宣伝・諜報・謀略などのインテリジェンス活動の歴史を振り返ったものです。
 陸軍中野学校、特務機関、731部隊、満洲国の宣撫活動、ラジオやチラシによるプロパガンダなどが、著者の見つけた一次資料をもとに分析されます。最悪の事態を避けるためにも、我々はインテリジェンス・リテラシーを高めるべきでしょう。

目次

日本のインテリジェンス工作 目次
本書を読まれる前に

Ⅰ 総論

第一章 陸軍中野学校創立期の工作目標

第二章 アメリカによる日本インテリジェンス機関の分析
 1 アメリカの日本関係資料の収集と公開
 2 文書の作成機関
 3 インテリジェンス機関の分析と評価のポイント
 4 日本のインテリジェンス機関の研究

第三章 オーストラリアによる日本陸軍インテリジェンス機関の分析

Ⅱ 対中

第四章 「帝国」を担いだメディア
 1 メディアと「帝国」
 2 新聞に見るメディア統制と「帝国」への同調
 3 満鉄、「満洲国」に見るメディア利用の宣伝・宣撫工作
 4 満洲、本土での欧米「学知」のしたたかな吸収
 5 「帝国」を担いだメディア人と学知

第五章 日本軍のメディア戦術・戦略―中国戦線を中心に
 1 満洲事変までの「新聞操縦」
 2 日中戦争勃発とメディアの積極活用
 3 汪政権の正当性獲得のための宣伝工作
 4 中国共産党撲滅のための宣撫活動
 5 メディア戦術・戦略の成果と失敗

第六章 『宣撫月報』とは何か

第七章 満洲における日本のラジオ戦略
 1 戦争プロパガンダとしてのラジオ
 2 新京中央放送局を軸とした放送活動

Ⅲ 対ソ

第八章 対ソ・インテリジェンス機関としての731部隊の謎

第九章 北欧の日本陸軍武官室の対ソ・インテリジェンス工作
    ―小野寺信のアメリカ側への供述書
 1 小野寺供述書の要約
 2 SSUによる小野寺供述の評価とまとめ

あとがき

初出一覧
事項索引
人名索引
装幀―難波園子

前書きなど

日本のインテリジェンス工作 本書を読まれる前に(一部抜粋)
 ホワイトハウスの近くに国際スパイ博物館なるものがある。そこには世界のスパイ事件やそれにかかわる事物が多数展示されている。そのなかで日本のものとして派手に出ているのは黒装束の忍者だけである。ゾルゲ事件はない。忍者は英語にもなって世界で通用している。本能寺の変の直後、明智光秀の追っ手から徳川家康の危機を救ったのは伊賀に棲む忍者と言われる。それ以降徳川幕府は忍者を重用した。徳川初期から忍者や御庭番を秘かに各藩に浸透させて、反幕府の動きを探っていたといわれる。忍者はインテリジェンス活動に必要とされる特技を身につけていた。しかし忍者の活動範囲は日本のわずかの地域であった。徳川体制が安定化するに比例して、彼らの仕事はなくなっていった。

 日本は鎌倉時代の元(蒙古)の九州侵略(元寇)に見られたように、荒海や台風という自然が敵国の侵入を阻止する障壁となってきた。したがって陸続きの外国からの侵入の危険度は低く、敵の来襲に備える準備は手びかえられた。したがってインテリジェンスへの関心も低く、その経験も浅い。国際的にみても鎖国体制は安定していたので、対外インテリジェンスへの関心は幕府の為政者でも薄かった。

 ようやく幕末になって海外からの開国の要求とそれによる鎖国崩壊が、いやが上にも日本人の意識を変革させた。日本人の国防意識を強め、対外インテリジェンスへの関心を高める契機となった。実際、開国後は海外列強とくに近隣の中国、ロシアの動向に神経をとがらせた。陸軍将校だった荒尾精が参謀本部や岸田吟香(目薬楽善堂)の支援で中国の軍事施設や地形などの兵要地誌を探る拠点を上海や漢口で築き、多数の工作員を中国全土に放った。福島安正が単騎横断を行ないながらシベリアを探査した。日露戦争ではロシア公使館武官だった明石元二郎がレーニンら反政府分子への工作に辣腕を発揮し、ロシア軍のモラールを低下させる功績を遺したといわれる。将校を退役した石光真清がハルビンで写真館を開き、諜報活動を参謀本部の支援で細々と行なった。しかし荒尾でも石光でも生存時には軍中枢の評価は低く、失意のうちにこの世を去った。維新後四〇年間に起きた日清・日露戦争での僥倖が大正、昭和戦前期の安逸な大国意識を浸透させた。対外インテリジェンスが組織的に展開されることはなかった。

 それでも受け身のインテリジェンス工作から積極的なものへの転換がようやく現われた。第一次大戦直後のシベリア出兵で、個人的なインテリジェンスから組織的な工作へと軍が取り組むようになった。一九一九年にハルビン、チタ、ウラジオストックで特務機関が誕生した。しかしそれらに配られる予算や人員は微々たるものであった。まもなくシベリア撤退がなされた後は、それらの機関はハルビン機関を除いて消滅した。

 満洲事変やシナ事変が起こった昭和初期になると、軍のインテリジェンス工作が満洲、中国で活性化し始めた。ソ連や中国のインテリジェンス活動重視に対抗すべく、特務機関の設置が必要と認識された。拡大する前線での下級将校の死亡や、インテリジェンス専門将校の不足が目立った。そこで特別なインテリジェンス教育を施した情報将校を専門学校で養成するアイディアが参謀本部のソ連班を中心に生まれ、実施に移された。

こうして一九三八年に陸軍中野学校の前身が誕生した。当初は防諜研究所として陸軍省内部で秘かに制定されたこの学校は、後方勤務要員養成所として教育活動を開始し、後に所在地の地名をとって陸軍中野学校となった。

・・・・・・

上記内容は本書刊行時のものです。