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世界を新たに フランクリンとジェファソン
アメリカ建国者の才覚と曖昧さ
原書: To Begin the World Anew, The Genius and Ambiguities of the American Founders
- 出版社在庫情報
- 在庫僅少
- 初版年月日
- 2010年12月
- 書店発売日
- 2010年12月27日
- 登録日
- 2010年11月18日
- 最終更新日
- 2020年5月26日
紹介
建国期と現在が密接に関連するアメリカの歴史に流れる〝原点〟の諸相――政府の構成と権力、保証された人民の権利、国家の価値である理念と原理――をめぐる議論への新視点からのアプローチ。18世紀の “田舎者”たちの想像力と勇気のあり方に光を当てる。
訳者あとがき
(前略)
著者の提唱する、大西洋を中心において、ヨーロッパとの関わりにおいてアメリカ史を理解しようとする見方は、二〇〇三年に出版された本著にも顕著に表れている。原題は、トーマス・ペインの有名な言葉からとられた、To Begin the World Anewであり、副題を The Genius and Ambiguities of the American Foundersとしている。かつて五〇年代を中心に、アメリカ合衆国のユニークなあり方を一国史として研究する態度が当然のことのように存在していたが、その中心的人物は彼の師であったペリー・ミラーである。ベイリンは、その呪縛から自らを解き放ち、ヨーロッパ、ことに、イギリスおよびフランスとの関係のなかで、アメリカ論を展開する必要性を強く打ち出した。実際、アメリカ合衆国が本当にユニークであることを実証するにはヨーロッパとの比較において、どうユニークであるかが提示されなければ、その意義がみえてこない。言い換えれば、アメリカだけ見ていても、その意味がわからない、ということになる。ベイリンは本書の出版の二年後に Atlantic History: Concept and Contours を出版しているが、この刺激的な著書は二〇〇七年に和田光弘、森丈夫共訳で『アトランティック・ヒストリー』と題され、名古屋大学出版会から出版されている。ここでも、ヨーロッパとの比較と関係のなかでアメリカの独自性が浮き彫りにされており、従来の歴史観を根底から覆す論旨が展開されている。
ところで、最近の初期アメリカ史研究の目立った傾向として目を見張らせる事実がある。何故これほどまでに、初期の建国の父たちについての研究がたてつづけに出版されるのか、という現象であり、重要な大部の研究書が年を経ず出版されているのである。例えば、フランクリン研究だけをとってみても、ここ数年フランクリンに関する長老級の研究者による書物が立て続けに出版されている。エドマンド・モーガン、エドウィン・ガウスタッド、ゴードン・ウッドなどなど、あたかも、フランクリンについて何かを語らなければ、学問の集大成ができないかのように、これまで大きな業績を上げて来た研究者が晩年にフランクリン論に手をつけているのである。その原因のひとつにはこれまでそう容易に扱えなかった貴重な資料がデジタル化されて、きわめて簡単に調査研究ができるようになった点が挙げられよう。Early American Imprintsなどのように、なにもウースター市のアメリカ古文書館の図書館で一次資料の原本を閲覧するまでもなく、自宅のパソコンで簡便に貴重な資料を扱い検索も自由にでき、しかも今や活字になっている資料は大抵が入手出来る研究環境になっているのである。
本書もフランクリン論がかなりの比重を占めているが、ここでは、七〇歳になってパリに派遣され六年間、アメリカ合衆国の成立のため奮闘したフランクリンが、フランスばかりでなく、ヨーロッパでいかに注目を浴び広範な人気を博したか、そして、彼が彼独特の仕方で、自分への人気を背景にアメリカ外交を成功に導いたかが、興味深い資料分析によって展開されている。これらの根底にあるのは、アメリカとは何かと言う問いに、根源的に迫ろうとする姿勢であり、その点をアメリカの発生と創成を見つめ、ヨーロッパとの比較において明らかにしているところにある。都市文化と辺境性、貴族制と共和制、カトリックとプロテスタントなど、比較対照を対峙させることによって見事にそれぞれの特質が浮き上がってくるのが、本書の特徴であろう。本著の結語として著者が述べているように、「何故そうなのか」と常に問う態度こそ、ベイリン教授の特徴であるとともに、本書の醍醐味を作り出している原動力となっている。
目次
目 次
日本の読者にむけて
はじめに
第一章 政治と創造的想像力
第二章 ジェファソンと自由の曖昧性
第三章 アメリカ外交の現実主義と理想主義――パリのフランクリン、「自由の女神から王冠を授かる」
第四章 『ザ・フェデラリスト』論文集
第五章 大西洋での局面
訳者あとがき
原註
索引
前書きなど
日本の読者にむけて
どの国についても言える事だが、その国家の公的な成り立ちは、歴史、原則、価値観の変動する状況、有力な人物、などが織りなす複雑な様相を呈している。アメリカ合衆国について言えば、初期の歴史と現在の生活、ことに、十八世紀の革命の起源と現在のあり方とが関連している点にユニークなところがある。そうだとすると、新しい国家が出現し、国家の公的な成り立ちを形作った一七六〇年から一七八九年に至る革命期に、政府の構成と権力、保証された人民の権利、ことに国家の価値である理念と原理をめぐって一体どのようなことが起きたのだろうか。本書に含まれたエッセーは合衆国の革命の起源における重要な問題点を、いくつかのトピックを選択して迫り、解決しようと試みたものである。
最初のエッセーは十八世紀アメリカを地方主義という観点から定義し、偉大なるイギリス世界の植民地として、それを当時の時間と空間に置かれた人々の絵画とともに例証し、その地方主義が、自らが抜け出た古代国家の諸悪から自由で改革された世界、より良き世界をもとめるための創造力であったことを示そうとしている。
第二のエッセーは、この時代最大の業績を残したもっとも創造力ゆたかな人々のひとり、トーマス・ジェファソンに関する評価である。それはまた彼の性格および政治に見られる、あからさまな矛盾の解明を試みるものでもある。そして、ベンジャミン・フランクリンの、革命の最中とその後にフランスに送られた大使としての成功、より良き世界を建設しようとするアメリカの努力のめざましい具体的な姿を取り上げる。これらをフランスで描かれた彼の絵画、肖像、出回った印刷物など、多くのイメージを通して観察する。そのいくつかは図版として本書に取り込まれている。
次に論議するのはアメリカ憲法の偉大なる注釈である『フェデラリスト・ペーパーズ』である。これが書かれたのは憲法が論じられている当時だったが、二〇〇年経過した今でも、現行のアメリカ立憲主義の最良の解釈とされている。
アメリカ史を学ぶ日本人学生のためにはアメリカ史全体をカヴァーする一般的な教科書が数多くあることだろう。本書は、この国が受け継いだ世界を革新し、改革しようとした初期の歴史において、ことさら重要なある局面を深く探求しようとしたものである。この本が日本の読者にとってオリジナルな資料とアメリカの公共のあり方や、建国者たちの性格についての何かしらかを、より明瞭に見る助けとなるよう強く希望するものである。
版元から一言
●建国期と現在が密接に関連するアメリカの歴史に流れる〝原点〟とも言える諸相――政府の構成と権力、保証された人民の権利、国家の価値である理念と原理――をめぐる問題点への新視点からのアプローチ。
●イギリス植民地アメリカの人々の意識を絵画とともに検証し、自らが抜け出た旧世界からより良き世界をもとめるための創造力に溢れた時代であったことを指摘する。
●革命期に最大の業績を残した創造力ゆたかな人々のひとり、トーマス・ジェファソンの性格や政治に見られる矛盾の解明。ベンジャミン・フランクリンの革命中とその後の駐フランス大使としての成功、より良き世界を建設しようとするアメリカの努力の具体的な姿をフランスでの絵画、肖像、出回った印刷物などの多くのイメージを通して検証。
●現行のアメリカ立憲主義の最良の解釈とさるフェデラリスト諸論文の執筆者間のすさまじい確執の姿、革命が求めた個人の自由を守るための権力にみちた威圧的な公的権威の必要性と、一方で、もっと広く、曖昧であるという創設者たちのバランスのとれた思想のあり方を示すとともに、理想化されたイメージを描く。
(社)日本図書館協会 選定図書
上記内容は本書刊行時のものです。