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詳伝 松田喜一
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2023年2月25日
- 書店発売日
- 2023年3月3日
- 登録日
- 2023年2月24日
- 最終更新日
- 2023年3月3日
紹介
水平社創立にかかわり、西成の部落解放運動の父と言われ、大阪の部落解放運動を牽引した松田喜一のひとと運動の記録。
目次
発刊にあたって/部落解放同盟西成支部 支部長 寺本良弘
発刊に寄せて/部落解放同盟大阪府連合会 執行委員長 赤井隆史
序章 にんげん・松田喜一
はじめに
1 出生そして幼少期
二階堂村嘉幡/家族/今井の貸家/「チマ」と呼ばれた少年
2 青年期と職歴
「ゴーリキの母」小ウノ/労働そして夜店/若い頃の自慢話
3 辻尾一枝と結婚
漬物屋の娘/辻尾のおばあさん/一枝の内職
4 実弟・雪重
昔気質の博徒/三阪の乾児/できたヨメ
5 娘・昌美の追憶
竹傘に手錠/大空襲の松田家/父の家出/昌美のアルバイト/話下手な父/松田の再婚話/物は潰せても、人は潰せない
6 「融通無碍」の人
軽い言葉の深い意味/無聊を託つ全国水平社の闘士/松田喜一の酒/無類の構想力/活動家のくらし
第一部 水平運動と戦争
はじめに― 西成部落の歴史と概観
西浜部落の拡張/皮革産業陣地戦/戦争被害の破滅的影響/都市社会の排除
第一章 共産主義派水平運動のリーダー
1 独学のマルクス主義
社会主義に目覚める/西光万吉と相談した/長髪にルパシカ/西浜の六つの水平社
2 社会運動、曙の時代
三悪法反対運動/普通選挙論争/続・普通選挙論争/関東大震災と社会運動
3 アナ・ボル論争
労働組合のアナとボル/社会主義者の部落問題論/高橋貞樹『特殊部落一千年史』
4 全国水平社青年同盟
颯爽と登場した全国水平社青年同盟/『選民』は原藤七宅から/『水平線』巻頭言/全国水平社本部に進出した全国水平社青年同盟/全国水平社第四回大会の松田提案
5 全日本無産青年同盟と全国水平社無産者同盟
日本共産党の青年運動対策/全国水平社青年同盟の突然の解体/全日本無産青年同盟の結成/アオネンと呼ばれた全日本無産青年同盟大阪府支部/全国水平社無産者同盟の結成
6 無産政党結成と労農党
乱暴だった左翼三団体/西浜水平社の市議選ボイコット/労働農民党の結成と分裂/全国水平社労働農民党支持連盟の活躍
7 日本共産党員の一斉検挙
綱領改正に挑んだ全国水平社第五回大会の松田喜一/日本共産党に入党/逮捕と拷問/岸野重春訊問調書から/福井由数訊問調書から/中川誠三訊問調書から
第二章 西浜の皮革労働運動
1 労働運動との遭遇
日本楽器争議での差別事件を糾弾/新田帯革製造所批判決議の顛末/大阪で日本労働組合評議会第三回全国大会
2 大阪一般労働者組合西浜支部
西浜支部と鶴橋支部/大阪一般労働組合西浜支部長・山本正美/『選民』の皮革争議観/爪屋争議は地域共闘で/西浜皮革産業の生産構造/衛生組合評議員選挙に/そして三・一五事件
3 西浜の五つの皮革労働組合
西浜界隈の皮革労働組合/日朝皮革労働組合の統一/関西労働組合総連盟の結成
4 あいつぐ皮革労働争議
北中皮革争議支援/松本製靴争議/大阪皮革労働組合の結成大会/中塩製革と澤井製靴の争議
5 大崎皮革の大争議
漉師・前田政吉の解雇/漉師の団体一糸乱れず/寄付と調停の西浜町内/皮革工場はゼネストへ/大崎重保の行動
6 北井正一のこと
労働組合の友、椿繁夫語る/新堂水平社時代の北井正一/西浜で水平社を守った人物/赤貧洗う生活は舟場に
7 西浜皮革争議の概括
皮革共同体の利害調整/松田喜一と北井正一/「独自に生きた」西浜/部落解放運動一徹の人/走馬灯のような皮革争議
第三章 ファシズムと戦争
1 水平運動の再建
全国水平社第八回大会/全国水平社大阪府連合会の甦生大会/水平社解消論の跋扈/松田喜一の獄窓だより
2 松田喜一の出獄
五月一二日、刑期満ちて出獄/極中で転向したか否か/塀の外は一変していた/停滞期の西浜の水平社組織
3 松田喜一の糾弾闘争― 三・一五事件以前
変遷してきた差別糾弾闘争/香蓑小学校差別糾弾闘争/福岡連隊差別糾弾闘争/三重県津刑務所差別糾弾闘争
4 松田喜一の糾弾闘争― 三・一五事件以降
高松結婚差別裁判糾弾闘争/中津署差別暴行糾弾闘争/兵庫県・松茸山入会権闘争/長瀬村浦田組差別糾弾闘争/豊能郡東郷村長糾弾闘争/日活糾弾闘争/佐藤中将差別糾弾闘争/東京放送局(現NHK)差別放送糾弾闘争/岡山県農林技手差別糾弾闘争/今宮署巡査差別暴行糾弾闘争
5 部落委員会活動と反ファシズム
部落委員会活動とは/西郡、矢田の診療所要求闘争/全国水平社大阪府連大会と全国水平社第一三回大会/全国水平社西成支部の結成/松田喜一、浪速区から大阪府議選に立候補/反ファシズム統一戦線に奔走/東奔西走の多忙な日々/松田喜一、西成区から大阪市会選挙に立候補/地方改善費闘争
第四章 総力戦体制と経済更生会
1 日中戦争と全国水平社の戦術転換
治安維持法弾圧と日中戦争突入/「非常時の水平運動」方針/戦時協同化と総力戦体制/松田喜一の「大転換」
2 経済更生会運動
河南殖産更生組合/旭区生江町経済更生会/北区経済更生会と愛隣信用組合/皮革統制による危機/皮革の製造販売禁止/浪速区経済更生会の設立/西成区経済更生会の結成
3 大阪府協同経済更生連合会
部落経済更生会運動の進展/経済更生会の連合組織の結成/河上正雄の役割/経済更生会の運動はどうだったか/全国注視の標的となった大阪の経済更生会/大阪府下に広がる経済更生会/道祖本の小北由蔵/大阪市内の経済更生会の動き/大阪府協同経済更生連合会創立一周年/山本正男(政夫)の栄小学校講演会
4 靴修繕業者などの組織化活動
大阪靴更生組合の結成/全日本靴修理工業組合連合会の結成/靴修繕組合の労務動員/経済更生会の労務動員/津守屠場の大会
5 日中戦争と水平運動の分岐
大日本青年党に参加/山本正男(政夫)の大和会に参画/松田喜一、除名/部落厚生皇民運動の特徴/和島為太郎を訪ねる/同和奉公会、そして全国水平社の消滅/大阪大空襲と松田喜一/戦争協力の反省
第二部 戦後の部落解放運動と松田喜一
はじめに
第五章 露店商禁止反対同盟
1 敗戦と皮革市場攻防戦
「西成」に拡大する「西浜」/「統制の虫」と靴商工組合/丸公価格とヤミ価格/「西浜」を再現した「鶴見橋」/「靴屋」の復活と自由競争
2 皮革産業の崩壊と復旧
破壊と混乱/復興への歩み/ドッジ・ラインと皮革産業
3 露店商禁止反対運動
集中生産に対する部落産業の対応/闇市の閉鎖と差別意識/露店営業許可条例制定される/舟場の靴修繕組合/全国五万部落民の生活をかけて/「公共の福祉」と排除/高畑久五郎の境川自由労働組合
第六章 住宅要求期成同盟
1 経済更生会の再結成
戦災復興と差別行政/復興都市計画と同和事業/まぼろしの経済更生会/「返す練習して借りよ」/矢田の高利貸宅デモの反省/文化会館の建設
2 文化温泉建設運動
会員積立方式の利用者組合/文化温泉に尽力した人びと/困難を極めた浴場運営/部落解放委員会西成支部の結成/西成誠友青年会と文開青年団
3 西成の住宅闘争
出城五丁目の共同水道設置/宿泊所建設反対運動/立ち退き強制に立ち上がる住民/歴史に残る「陳情書」/住宅闘争で支部員は九六人に/むすび会、靴工組合など/西成と大阪、全国の部落解放運動との連動/「バラック族」と「アパッチ族」
4 松田喜一の選挙闘争
焼土から大阪府議会選挙に立候補/住宅闘争から再び大阪府議会選挙に/松田喜一最後の大阪市会選挙
5 六〇年代の部落解放同盟西成支部
その後の住宅要求闘争/第二阪神国道建設、今宮駅廃止に反対/三対策一時金について
第七章 部落解放運動の再建と発展
1 再建と混沌
志摩会談、京都会談/部落解放全国委員会の結成/部落解放全国委員会第二回大会/新憲法と部落問題/部落出身国会議員が次々と/部落解放全国委員会第三回大会/松本治一郎公職追放反対闘争/なぜ退場したのか
2 大阪における部落解放運動の再建
人民解放豊中青年同盟/部落解放大阪青年同盟の結成/大阪青年同盟の活動
3 部落解放大阪府連合会の結成と活動
大阪社会党の創立に参画/部落解放大阪委員会はどんな組織だったか/部落解放大阪府連合会の結成/戦後最初の部落解放委員会大阪府連合会大会/硫酸事件許すまじ
4 部落解放同盟の大衆的発展
松之宮小学校で部落解放同盟大阪府連合会大会が開催/金属屑営業条例に体を張って闘う/歴史的な大阪市内ブロック教育闘争/部落解放同盟中央副委員長に就任/国策樹立運動へ邁進/奈良本「構造改革」論の登場と論争
第八章 大阪市同和事業促進協議会という新方式
1 「日常活動を新しいスタイルで」
水平運動と今日の違い/背負わされた三大義務/圧迫される部落産業/救済でなく権利要求/共同化の方向
2 大阪市同和事業促進協議会結成の頃
先に大阪府同和事業促進協議会が設立/大阪の部落実態調査を手がける/行政関係者との「腹蔵なき」同和事業懇談会/大阪市立南中学校差別事件の衝撃/大阪市同和事業懇談会の「寝た子を起こすな」論争/山田義美と松田喜一の同促論/中田善政と松田喜一の接点/舟場部落の変遷について
3 全町的協議会をつくれ
「三団体共闘」/共同浴場の連合組織と民主的管理/大阪市同和事業促進協議会五周年に衝撃的な「松田提案」/生活立て直し運動の提唱/失敗を生かした松田喜一の大転換
4 部落解放同盟大阪府連合会との論争
部落解放同盟全国大会の松田批判はなぜ/若い力の台頭と同促協・松田喜一批判/「これが民主主義だ」住田利雄の反論/大賀正行・松田喜一論争は終わらない/頑固に譲らず
5 松田喜一の遺志を引き継いで
松田喜一死す/つい一週間前の逸話/運命の部落解放同盟西成支部大会と日本共産党との対決/福井由数、中西義雄のこと/住田利雄の回想/大賀正行による和解への論点整理/松田喜一の見果てぬ夢
おわりに
1 歴史を継承して
2 社会運動が果たす役割
3 部落解放同盟西成支部のかぎりなき前進
参考文献
松田喜一関係年表
水平社一〇〇年の時空を超えて 『なび』コラム「いい湯かげん」より
インタビュー 大賀正行・喜子夫妻が語る松田喜一 大賀正行・大賀喜子
聞き手=谷元昭信・寺本良弘・冨田一幸・前田朋章
資料 大阪市同和事業促進協議会五〇年の歴史と大阪市人権協会への移行 大賀正行
あとがき
版元から一言
松田喜一(1887~1968)は、水平社創立にかかわり、西成の部落解放運動の父と言われ、大阪の部落解放運動を牽引しました。戦前は西浜を舞台に多くの労働組合運動とかかわり、戦後は焼け野原の西浜に戻ってきた人たちの生活の立て直しや住宅闘争に奔走し、地域に暮らす人びとの要求を運動としてまとめました。松田喜一は「同対審」答申が出る1年前に亡くなりましたが、同和対策事業が始まる前に、それを見越したかのように同和促進事業地区協議会をつくり、運動と事業を分離させたことは、のちの運動に大きな役割を果たしました。
部落解放同盟西成支部は、2023年2月に支部結成から70年を迎えます。今もさまざまな形で現れる部落差別に対し、怒りを運動に昇華させ、たくさんの人びとの賛同を得る運動を展開するためにも、松田喜一の足跡から学ぶことは多くあります。
上記内容は本書刊行時のものです。