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被差別部落アウティング NO!
「全国部落調査」復刻版裁判の東京地裁判決をめぐって
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2022年4月10日
- 書店発売日
- 2022年4月8日
- 登録日
- 2022年2月21日
- 最終更新日
- 2022年4月4日
紹介
2021年9月27日、東京地裁で「全国部落調査」復刻版事件に関する判決が出た。各地の被差別部落に関する情報を無断でインターネット上にさらすアウティングを続けている鳥取ループ・示現舎は2016年、戦前の調査報告書で、部落の一覧表として機能する「全国部落調査」の復刻版を出版しようとし、さらに復刻版のデータや「部落解放同盟関係人物一覧」をウェブサイトに掲載した。これに対して部落解放同盟中央本部と同盟員は、2016年4月、それらの差し止めと損害賠償を求める裁判を起こした。判決は、復刻版の出版差し止め、ウェブサイト掲載情報の削除、損害賠償の支払いを命じた。基本的には解放同盟側の勝訴といえるものの、判決は、部落出身を公表するなどしている原告についてはプライバシー権侵害と損害賠償を認めず、プライバシー権侵害が認められなかった原告の都府県と原告がいない県については出版禁止やウェブ掲載削除の対象から除外しているほか、「差別されない権利」も認めなかったなどの問題点をかかえている。控訴審での闘いにむけて、原告と弁護団、研究者による判決内容の分析と裁判にかける思いをまとめた。
目次
発刊にあたって/組坂繁之
●判決をどう評価するか
「全国部落調査」復刻版事件 裁判の経過
「全国部落調査」復刻版裁判東京地裁判決に関する原告団・弁護団声明
「全国部落調査」復刻版裁判東京地裁判決の評価と問題点/片岡明幸
「差別されない権利」を認めなかった帰結――東京地裁判決の論理構造/「全国部落調査」復刻版裁判弁護団
●弁護団から
裁判闘争のはじまり/中井雅人
原告本人尋問をどのように組み立てたか/河村健夫
「差別されない権利」の確立にむけた闘い/指宿昭一
控訴審にむけて――差別の根っこを断ち切るために/山本志都
●原告の思い
結婚差別を受け、部落差別に向き合った/安永勝利
陰湿な差別行為に正義の闘いを/下吉真二
裁判官は部落差別を理解しているのか/髙橋 定
差別を許さない法的な整備を/安田茂樹
「控訴審」の勝利にむけて/近藤登志一
●研究者の視点
「差別されない権利」の内実とは何か――「全国部落調査」復刻版裁判東京地裁判決を読んで/金子匡良
差別からの解放を求めた訴えを理解したか――プライバシー権と「差別されない権利」に関する判決の認定をめぐって/金尚均
実態と判決のずれを考える――社会調査と相談活動の経験から/齋藤直子
包括的な差別禁止法の必要性が明らかに――「全国部落調査」復刻版裁判判決について/内田博文
●支援団体から
鳥取ループ裁判判決に思う/足立宜了
「全国部落調査」復刻版裁判に関するコメント/柄川忠一
「全国部落調査」復刻版裁判判決へのコメント/安藤京一
●資料
「全国部落調査」復刻版裁判東京地裁判決(2021年9月27日)
不動産仮差押命令保全異議申立に対する横浜地裁相模原支部決定(2017年7月11日)(抜粋)
東京法務局長「識別情報の摘示による人権侵犯事件について(説示)」(2016年3月29日)
法務省「インターネット上の同和地区に関する識別情報の摘示事案の立件及び処理について(依命通知)」(2018年12月27日)
前書きなど
二〇一六年二月、鳥取ループ・示現舎が「復刻版 全国部落調査」と称した全国の被差別部落の所在地一覧の出版を予告するとともに、その電子データや「部落解放同盟関係人物一覧」と称した同盟員ら個人の住所や電話番号などのプライバシー情報を承諾なくインターネット上に掲載しました。この「全国部落調査」復刻版事件について、同年四月、全国の仲間二四九人で原告団が組織され、出版の差し止めとインターネット上のデータ削除、そして損害賠償を求め、東京地裁に提訴しました。それから五年半が経過し、二〇二一年九月二七日に判決が言い渡されました。
判決は、「復刻版」の公表が身元調査を容易にし、部落差別を助長することを認め、出版の差し止めに加えインターネット上でのデータ配布や二次利用の禁止も認めました。そして、「復刻版」や「関係人物一覧」のデータ配布について賠償を認めるなど、積極的に評価できる部分もあるものとなりました。これは、部落差別の現実とその解決を社会に訴えつづけてきた部落解放運動の成果であるとともに、裁判闘争により勝ち取ったものであるといえます。
しかし、「差別されない権利」が認められず、プライバシー権の侵害というきわめて狭い範囲での判断であり、一部の県について「復刻版」出版差し止めが認められませんでした。さらに、この間、原告・弁護団が重点的に訴えていた「カミングアウト」と「アウティング」の違いが考慮されず、被害が認められない原告がいるなど、きわめて多くの問題があることは明らかです。
現状、差別の取り締まりや人権侵害救済の法制度が機能しているとはいえません。被害の回復を図ろうとした場合、自己負担が非常に大きく、とくに、インターネット上の人権侵害では、削除要請や発信者情報開示請求、裁判など、自らが費用や労力を負担しなくてはなりません。また、今回のように、被差別部落の地名のような削除・非公表を求めている情報にもかかわらず、裁判という公開の場にその情報を提出しなければならず、二次被害につながるおそれから、個人では泣き寝入りすることも少なくありません。
この裁判は、単に「復刻版」の出版禁止を求めるだけでなく、憲法一四条で保障された「差別されない権利」を確立させる闘いであり、インターネット上の差別とこの社会がどう向き合っていくのかを問う裁判でもあります。今後、裁判は控訴審へと移りますが、「完全勝利」にむけ全力で取り組む所存です。
また、本年は、部落民自身の自主解放をめざした全国水平社の創立から一〇〇年の大きな節目の年です。部落解放-人間解放をめざした多くの先達たちに想いを重ね、「全国水平社創立宣言」の精神を原点にしながら、闘いの勝利にむけて奮闘する決意です。
末筆ではございますが、原稿を寄せていただいたみなさん、作成に携わったみなさんに心からお礼申し上げます。本書が一人でも多くの人びとに読まれ、今日の部落差別の実態と、この裁判闘争の意義が広く社会に周知されることを願ってやみません。
上記内容は本書刊行時のものです。