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ニューカマーの世代交代
日本における移民2世の時代
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2023年2月28日
- 書店発売日
- 2023年2月28日
- 登録日
- 2022年11月18日
- 最終更新日
- 2023年4月3日
紹介
移民研究の分野を代表する編著者のもと、「日本在住の移民2世による移民研究」が多数収載された成果。移民コミュニティ、第2世代の学校後の軌跡、ジェンダー化された役割期待、出身国との往来、日本社会からの排除等のテーマを追った意欲的な論集である。
目次
序章 「外国人の子ども」から四半世紀を経て[樋口直人・稲葉奈々子]
1.「国際移民の時代」をめぐる時間の経過のなかで――問題の所在
2.進学格差と学校をめぐる問題
3.子どもから青年へ――「学校後」の軌跡
4.「排除との闘い」から何を学べるか
第1章 「だって、家族だから」――南米系2世の大人への移行過程と家族の意味づけ[山野上麻衣]
1.はじめに
2.不利のなかで育つ若者たちの大人への移行過程をどのように読み解くか
3.それぞれの歩んで来た道
4.「制約のなかの選択」はいかに形成されたのか
5.若者たちの価値と選択、帰結はいかに関連するのか
6.おわりに――若者たちのエイジェンシーをどう理解し、どう向き合うか
第2章 在日ブラジル人コミュニティにおける教育の発展――在日ブラジル学校、ブラジルの通信制大学の役割と関係性[ヨシイ オリバレス ラファエラ]
1.はじめに
2.先行研究の検討
3.分析の視点と調査概要
4.ブラジル学校の機能と発展
5.ブラジルの通信制大学の機能と発展
6.ブラジル学校とブラジルの通信制大学の関係性
7.おわりに
第3章 フィリピン系2世が語る「家族/pamilya」――進路選択と家族内役割に注目して[原めぐみ]
1.はじめに
2.分析の視点
3.方法論
4.フィリピン系2世の背景
5.進路選択に関する考察
6.越境家族の中で形成される家庭内役割と家族規範
7.おわりに
第4章 移民第2世代のキャリア形成支援における展望と課題――コミュニティにおける実践の記録[オチャンテ 村井 ロサ メルセデス]
1.はじめに
2.対象地域について
3.調査方法
4.高校進学をめぐる取り組み
5.大学進学への道
6.今後必要な支援は何か――結語に代えて
第5章 移民第2世代における教育から職業への移行過程――複数の社会的文脈への埋め込みをめぐって[樋口直人]
1.第2世代新卒者における「就活」の不在?――問題の所在
2.分析枠組み――移民第2世代の就職をめぐる日本的文脈
3.データと調査について
4.移民2世における教育――職業の移行過程
5.結論――「再チャレンジ」支援の有効性
第6章 ペルー人第2世代の帰国経験――「日本帰り」と呼ばれる若者の軌跡をたどって[小波津ホセ]
1.はじめに
2.帰国する出稼ぎ労働者の子ども――ペルーは「日本帰り」の母国?
3.なぜ帰国するのか――先行研究の検討
4.帰国した第2世代の経験――分類の試み
5.帰国の要因――親、排除と再統合
6.居場所を求めて――達成型、挽回型、漂流型への分岐
7.まとめ――日本帰りの移動
第7章 在留資格がない移民2世たち[稲葉奈々子]
1.現代日本の身分制度
2.存在しないことにされている人々
3.正規/非正規の境界領域におかれる子どもたち
4.出口なし
5.成長とともに奪われていく自由
6.精神的な影響
7.成長を許されない「大きな赤ん坊」
8.「剥き出しの生」からの発信
あとがき
前書きなど
序章 「外国人の子ども」から四半世紀を経て
(…前略…)
本書の最大の特徴の1つは、第2世代の学校後の軌跡にも相当の紙幅を割いていることにある。冒頭で述べたように、「外国人の子ども」が研究のテーマとなってから四半世紀を経ている以上、学業終了する2世が増えるのは当然であるが、研究がそうした現実に追いついていない。本書では、主に職業・就労の状況を取り上げるが、成人後の家族関係についても一定の考察が加えられている(第1、3章)。第2世代にとって、教育は進学先によって格差が目に見える形で示されるが、その後の足取りは学業達成のみによっては左右されない。不利な状況にあって、成人した第2世代はいかにして主体性を発揮するのだろうか。
原めぐみ論文(第3章)は、そうした軌跡にみられるジェンダー間の相違、並びに不安定な家族の中での2世の主体性に着目した。フィリピン系第2世代の女性は、親から厳しく監視されるがゆえに、学業では男性より優位に立つ。これはアメリカのフィリピン移民と同じ結果ではあるが、新中間層が多いアメリカとは異なり、日本のフィリピン移民1世の階層は高くない。その分だけ母親は、娘に自らの見果てぬ夢を託す傾向がある。しかし、就労に関して女性は学歴の高さを生かすことが困難で、働き手として期待される男性の方が職探しでは優遇される逆転現象が生じる。
このようにジェンダー化された役割期待を伴いつつも、第2世代はジェンダーを超えて家族親族への援助を期待されることとなる。不安定な家庭環境のなかで、長子は弟妹のヤングケアラーとなることが珍しくない。学業を終えてからは、フィリピンの親族に対して仕送りする者もいる。だが、彼ら彼女らは単なる状況の犠牲者ではない。2世たちは、自らの経験をもとに理想の家族像を紡ぎ出してその実現に向けて実践していくのであり、その主体性には胸を打つものがある。
小波津論文(第6章)は、ペルーに帰国した経験を持つ第2世代の軌跡を追う。2世は、デカセギという明確な目的をもった1世とは異なり、日本滞在を自ら決断したわけではない。日本で生まれ日本語環境で育って社会化され、日本に住むのが自明である3世でもない。日本では外国人として排除され、ペルーでも日系社会に受け入れてもらえない。小波津自身が、そのように両方の社会のはざまに置かれた2世である。登場する20名にとって、ペルーへの帰国は、その後の人生の岐路となった。しかし、それぞれのあゆみには、トランスナショナリズムと単純に括ることができない複雑な分岐がみられる。日本で排除を経験してペルーに帰国しても、ペルーでも居場所がなく再来日する者もいれば、ペルーに適応して定着する者、さらに他の国に拠点を移す者など、一様ではない経験が綴られる。
ひとつだけ共通していえるのは、小波津のような「トランスナショナル」な存在の若者が、その強みを生かして活躍できる場が日本では見つからなかった、ということだろう。筆者らは、小波津が設立した「おしゃべり会」に何度も参加したことがある。リマの日秘文化会館で開催される集まりは、「しゃべらん会」という愛称で親しまれており、日本と縁のある若者にとって真の居場所となっていた。そこから数多くの恋愛模様が繰り広げられたことが示すように、ペルーでも日本でもないしゃべらん会の空間は、トランスナショナルな生を送る若者が自分をさらけ出せる貴重な場であった。小波津の分析が示すように、そんな彼ら彼女らにはあらかじめ用意された道がない。みずから切り拓いていくしか方法はなく、ペルー人2世のトランスナショナルな道のりは平坦ではない。
樋口論文(第5章)は、移民2世たちの容易ではない道のりに、留保付きながら積極的な可能性をも見出している。まず、「就活」する第2世代が少ないという肌感覚から、樋口は日本型新卒採用システムとの距離に応じて、学業終了時の求職を5つの類型に分けた。新卒採用を経た者の比率は低く、もっとも待遇のよい職につく機会を十分生かせていないという点で、同級生とは垂直的な格差が生まれていた。が、それは必ずしも就職活動がうまくいかなかったからではなく、自らの特色を生かすべく水平的な相違を追求した結果でもある。デカセギ労働市場で派遣労働についた者も、長くつく仕事ではないことを理解しつつ、短期的な手取り収入を最大化する手段として選び取っていた。そうして得た「元手」を、ペルー行きや短期的な講習の受講、求職者支援制度の利用、OJTといった形で少しずつ増やすことで、2世たちは思い描いた職業キャリアを達成していく。その意味で、中期的にみれば学卒時の想定よりも上昇移動している者が多かった。移民の楽観主義がプラスに働くという見方が、日本でも該当する明るい材料ではある。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。