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インターネットとヘイトスピーチ
法と言語の視点から
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2021年3月31日
- 書店発売日
- 2021年4月7日
- 登録日
- 2021年3月19日
- 最終更新日
- 2021年4月27日
紹介
SNSでのヘイトスピーチについて、国際人権法からの考察と法的規制が進んでいるヨーロッパとの国際比較、そして人種差別とヘイトスピーチの事件への対応事例を示し、さらに「話し手」ではなく「聞き手」に焦点を当てた「聞こえる声」や差別言論のもつ「多声性」への気づきを促すコミュニケーション論と互恵性原則に基づく倫理学の視点から論じる。
目次
はじめに
巻頭エッセイ SNSと人権[中村一成]
鼎談 インターネットとヘイトスピーチ――コロナ禍後の世界[辛淑玉、木戸衛一、中川慎二]
私たちはコロナウィルス感染拡大の時期をどう過ごしたのか
コロナウィルス感染拡大と外国人差別
コロナ禍後の世界――ヨーロッパ暮らしの経験から
メルケルの演説、成熟した政治家の言葉
文化って不要なものなの?――フライデーズ・フォー・フューチャーの問うているもの
日本の選民思想、天皇制をどう議論するか
第1部 法の視点から
第1章 インターネットとヘイトスピーチ――国際人権法の観点から[申惠丰]
はじめに
Ⅰ.人種差別撤廃条約とその国内実施
Ⅱ.ヨーロッパにおけるヘイトスピーチ禁止規範とそれに基づく対応
おわりに
第2章 ヘイトスピーチの社会問題化とヘイトスピーチ解消法[金尚均]
序 問題
Ⅰ.インターネット上のヘイトスピーチ
Ⅱ.ヨーロッパにおける対応
Ⅲ.ドイツにおける新立法(SNSにおける法執行を改善するための法律)
Ⅳ.若干のまとめ
第2部 現場の視点から
第3章 ドイツ国家社会主義地下組織(NSU)とドイツにおけるヘイトクライムに対する取り組み[オヌール・エツァータ(金尚均訳)]
はじめに
Ⅰ.NSU事件の被害者たち
Ⅱ.制度内で慣例化した人種差別
Ⅲ.国家社会主義地下組織
Ⅳ.訴追と訴訟の経過
Ⅴ.未解明の問題
Ⅵ.NSU事件からの教訓
COLUMN 差別を「犯罪」とした川崎市反差別条例の意義[師岡康子]
第4章 ヘイトスピーチ根絶のための取り組み――鶴橋、ネット、二つの事例から見えるもの[郭辰雄]
はじめに
Ⅰ.鶴橋とヘイトスピーチ
Ⅱ.ヘイトスピーチの被害実態
Ⅲ.ヘイトスピーチとカウンター
Ⅳ.確信犯的ヘイトにどう対抗するか
Ⅴ.ヘイトスピーチ禁止の仮処分
Ⅵ.反ヘイトスピーチ裁判
Ⅶ.ネット上のヘイト・差別の法的責任
Ⅷ.深刻な複合差別の被害を認定
Ⅸ.より実効性あるヘイトスピーチ規制のために
第3部 言語と倫理の視点から
第5章 常態化したヘイトスピーチの恐怖――コミュニケーション・ジャンルからの考察[中川慎二]
はじめに
Ⅰ.恐怖の政治――オーストリア自由党議員キックルの扇動する演説
Ⅱ.ヘイトスピーチはコミュニケーションなのか
Ⅲ.シュルツ・フォン・トゥーンのコミュニケーション理論
Ⅳ.ワツラヴィックらのコミュニケーション・モデル
Ⅴ.インターネットのヘイトスピーチとメディア性
Ⅵ.差別の意匠――制度内で慣例化した人種差別とスーパーダイバーシティ
第6章 ヘイトスピーチと互恵性原則――インターネット上のヘイトスピーチについてドイツでの事例をもとに考える[河村克俊]
はじめに
Ⅰ.ヘイトスピーチの定義の確認
Ⅱ.ドイツでのヘイトスピーチの事例
Ⅲ.言論の自由とその制限
Ⅳ.ヘイトスピーチと互恵性原則
年表
索引
あとがき
編者・執筆者紹介.
前書きなど
はじめに
(…前略…)
この論集の全体を概観しておこう。第1部に入る前に、編集委員による「はじめに」がある。この論集が成立した背景と論集に含まれる学術的な観点が述べられている。その後、中村一成の巻頭エッセイでは自身のヘイトスピーチや排外主義との熾烈な闘いがエッセイとして描かれている。鼎談では、コロナ禍で顕在化した日本社会の中の排外主義が主に話題となっている。ドイツでの経験をもとにして、辛淑玉、木戸衛一、中川慎二は日常的な自分たちの感性で語ろうとした。これがこの論集への導入である。
第1部は「法の視点から」。法学者による学術論文が2篇である。国際人権法を専門とする申惠丰は、主に第二次世界大戦後の民主的で平和な秩序を再構築するために制度化された国際連合や欧州評議会、欧州連合における国際人権法としての法制化を詳細に論じた後、日本の国内法の問題へと光をあてる。金尚均は京都朝鮮第一初級学校襲撃事件からヘイトスピーチ解消法の成立とその問題点を指摘し、インターネットにおける問題を、SNS提供者の責任に関してプロバイダ責任制限法をめぐって議論した。また、同様の問題をドイツの法制化に考察し、日本の問題点を顕在化させた。
第2部は「現場の視点から」。法律の実務家として現場で活動する弁護士と活動家の論考である。オヌール・エツァータはドイツの弁護士で、マイノリティを支援する。自ら弁護士として関わった地下ナチ組織の殺人事件裁判を詳細に論じた。コラムを寄せてくれた師岡康子は川崎市反差別条例についてその社会的意義を論じた。郭辰雄は大阪市生野区鶴橋周辺でのヘイトスピーチと反差別の闘いを活動家の視点から論じた。特に、カウンターの存在とその役割を評価し、在日コリアンの女性に対する複合差別の裁判にふれ、選挙活動における差別表現への対策と人種差別禁止法の実現を訴えた。
第3部は、「言語と倫理の視点から」。人文科学からの論考である。中川慎二はオーストリアのポピュリスト政治家の言説を分析し、コミュニケーション論とジャンル論からヘイトスピーチの本質を探ろうとした。「話し手」からではなく「聞き手」の視点から議論し、制度内で慣例化した人種差別とスーパーダイバーシティの状況で常態化したヘイトスピーチについて論じた。河村克俊はウェブサイトに見られるヘイトスピーチの定義、マイバウアー、シャロートらの定義を引用し、ドイツでのヘイトスピーチの実例を排外主義団体ペギーダにとり、ドイツ基本法から言論の自由を論じた後、カントの「定言命法 目的の方式」に見られる互恵性原則からヘイトスピーチを考察した。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。