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ロンドン・ナショナル・ギャラリー
名画がささやく激動の歴史
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2020年11月15日
- 書店発売日
- 2020年11月15日
- 登録日
- 2020年10月23日
- 最終更新日
- 2021年4月13日
紹介
民間主導で約200年前に設立されたロンドン・ナショナル・ギャラリーは、初期ルネサンスから20世紀初頭までの西洋絵画を幅広く所蔵する。有名な絵画作品を出発点に、作品の背景、それをめぐる人々の多彩なエピソードを紹介し、豊潤な歴史の世界へと読者を誘う。
目次
序章 ロンドン・ナショナル・ギャラリーの始まりと『抗議の叫び』の周辺
1章 リチャード二世の祈り――《ウィルトンの二連祭壇画》
2章 「奇妙な静けさ」の理由――ウッチェロの《聖ジョージとドラゴン》
3章 女公爵を想う――マセイスの《醜い老婆》
4章 権力の人――ラッファエッロの《教皇ユリウス二世》
5章 名誉の人――ベッリーニの《ロレダン総督》
6章 国際政治最前線――ホルバインの《大使たち》
7章 宮廷政治最前線――ホルバインのテューダー・ポートレート
8章 北イタリアの勃興する芸術――モローニの伊達男たち
9章 実在の、だが触れられぬ存在――カラヴァッジョの《エマオの晩餐》
10章 弾圧と繁栄の冬景色――ブリューゲルからアーフェルカンプへ
11章 イギリス人ご用達だけでなく――カナレットのヴェネツィア
12章 イギリス絵画の毒と華――ホガースの《当世風結婚》
13章 革命の時代の女と男――ヴィジェとダヴィッドの自画像
最終章 続く発見、深化する解釈――ドラロッシュ、クリヴェッリ、ファン・エイク
あとがき
主な引用・参考資料
主要掲載作品
前書きなど
序章 ロンドン・ナショナル・ギャラリーの始まりと『抗議の叫び』の周辺
(…前略…)
多彩な時代とジャンル――本書概略
本書の趣旨は、こうして民間主導で始まり、人々の思いを受けて発展してきたユニークな美術館の人気作品を、制作の時代の社会状況や歴史の流れ、また画家やモデルや発注者ら、作品に関係した人々の人生にもたっぷり寄り道しつつ鑑賞することである。ロンドン・ナショナル・ギャラリーのコレクションの多彩さを少しでも反映させるため、時代は中世から一九世紀、絵画のジャンルも宗教画、風刺肖像画、肖像画、風景画、風刺物語画、歴史画と幅を持たせた。
今では顔料分析やエックス線撮影の精度、絵の洗浄技術も高くなり、隠れていた作品の顔が数世紀の時を超えて現れることがある。まずは、洗浄とマイクロスコープ調査であらためて衆目をひいた中世の名品、《ウィルトンの二連祭壇画》から見てゆく。(……)
2章は、ルネサンス初期に遠近法を追究した画家として知られるパオロ・ウッチェロの《聖ジョージとドラゴン》である。(……)
3章は、観察と再現という北方的特質をいち早く押し出したクエンティン・マセイスの《醜い老婆》を取り上げる。(……)
4章はラッファエッロ・サンティの手になる《教皇ユリウス二世》である。最盛期ルネサンスのローマで、富と領地の拡大と自らの栄誉を後世に伝えることに全霊を注いだ教皇の内面を、若き天才画家は臆することなく表した。続く5章はヴェネツィアの巨匠ベッリーニが描く《ロレダン総督》である。ローマとヴェネツィアそれぞれの国内事情と、モデル二人が当事者だったルールなき国際紛争を踏まえて二作を味わいたい。
6章と7章はギャラリーの顔といえる一枚、《大使たち》と、その作者ハンス・ホルバイン(子)が残したイングランド宮廷ゆかりの人々の肖像画である。(……)
8章では「北のリアリズムとヴェネツィアの叙情を融合した」と評される画家ジョヴァンニ・バッティスタ・モローニ描く男たちを鑑賞する。(……)
9章では、自身が数多くのフィクションやノンフィクションの主役となってきた破滅型の画家、カラヴァッジョの人生と代表的な祭壇画いくつかを追って、画家の描く「触れられぬイエス」を鑑賞する。復活後のイエスが弟子に姿を見せる場面《エマオの晩餐》を、画家は数年の時をおいて二度描いた。そこにはどんな想いがあったのか。
こうしたイタリア的なドラマを拒否したのがピーター・ブリューゲル(父)である。(……)10章では二人の「冬景色」を、社会と自然の変動を視野に入れて味わいたい。
11章も風景画であるが、今にいたるヴェネツィアのイメージを作り上げたカナレットの景観画である。イギリス人から圧倒的な支持を得ていた背景と、さらに大改造さなかのロンドン滞在中に彼の画風に現れた変化にも触れ、「景観」を超えるカナレット作品の魅力を探ろう。
12章は、カナレットがロンドンに滞在したころ、そこで一時代を築いたイギリス人画家ウィリアム・ホガースの《当世風結婚》を取り上げる。(……)
13章では、革命の時代のフランスを代表する女性画家と男性画家の自画像を比べてみた。革命の嵐のなか王党派を貫いたヴィジェ・ルブランと、自らの作品をその嵐のエネルギーとしたジャック・ダヴィッドである。(……)
そして最終章では、ギャラリーによる作品の「発見」や、所蔵作品の解釈の進展に触れ、この美術館の尽きぬ魅力を書き添えておきたい。
世界は常にどこかで大きく動いているし、歴史すなわち激動であるともいえるだろうが、本書をまとめるにあたり、数世紀の時のなかから印象深い作品をすくい上げてそれぞれの時代背景を垣間見ると、それらすべてが激動の世であることに気づいた。そして、領土拡大戦争、宗教戦争、貿易戦争、疫病の蔓延、国内の権力闘争、階級闘争といった時代の動きが作品一つ一つの魅力に昇華されていることに少なからず感銘を受けた。読者の皆さまには、歴史の因果がゆるやかにつながる各章に遊んでいただき、それが至宝のコレクションを誇るロンドン・ナショナル・ギャラリー訪問のきっかけとなれば幸いである。
上記内容は本書刊行時のものです。