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包摂・共生の政治か、排除の政治か
移民・難民と向き合うヨーロッパ
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2019年8月31日
- 書店発売日
- 2019年8月31日
- 登録日
- 2019年9月4日
- 最終更新日
- 2019年9月4日
書評掲載情報
2019-09-15 | 読売新聞 朝刊 |
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紹介
西欧諸国において従来人道的見地から論じられてきた「移民・難民問題」が、近年最大の政治争点とされ、右翼ポピュリスト政党が各国で存在感を増している。ヨーロッパ各国の移民・難民の状況を実証的に分析し、政治的議論・帰結・その意味を検討する。
目次
はしがき
序章 「移民・難民問題」とヨーロッパの現在[宮島喬/佐藤成基]
1 「排除の政治」と「包摂・共生の政治」――そのせめぎ合い
2 各章のテーマと論点
第1章 リベラルな価値に基づく難民保護のパラドックス――ドイツの「歓迎文化」が内包する排除の論理[昔農英明]
1 難民を「歓迎する文化」の両義性
2 移民・難民に対する「歓迎文化」と「承認の文化」
3 ケルン事件と排外主義
4 「良い難民」「悪い難民」とドイツ社会の自己像
第2章 イタリアにおける「移民・難民問題」と政治対立――レーガ(同盟)による政治争点化をめぐって[池田和希]
1 イタリアにおける「移民・難民問題」
2 第一共和制における移民政策の展開
3 第二共和制における移民政策の展開
4 レーガによる「移民問題」の政治争点化
5 レーガの再登場と「反移民」への反対運動――二〇一八年総選挙を受けて
第3章 スウェーデンにおける移民・難民の包摂と排除――スウェーデン民主党の中道政党化をめぐって[清水謙]
1 二〇一八年議会選挙とスウェーデン民主党の躍進
2 「均質国家」スウェーデン
3 労働移民から難民の受け入れへ
4 多文化社会のなかの移民の包摂
5 「スウェーデン民主党」の登場と躍進
6 二〇一八年議会選挙と移民・難民
7 二〇一八年議会選挙と北部地域におけるスウェーデン民主党の支持拡大
8 スウェーデン民主党との連携か、あるいはさらなるウルトラ極右の台頭か
第4章 〈難民問題〉を争点化する東中欧諸国の政治――チェコの政党政治を中心に[中田瑞穂]
1 EUの難民政策への抵抗
2 難民、移民問題に対するヴィシェグラード諸国の世論と政治
3 チェコ共和国における移民・難民問題の政治化と論点
4 背景としてのチェコ政党政治の変容
5 難民問題の争点化
6 今後の展望
第5章 AfD(ドイツのための選択肢)の台頭と新たな政治空間の形成――国民国家の境界をめぐる政治的対立軸[佐藤成基]
1 ヨーロッパの「右翼ポピュリズム」
2 「コスモポリタン」か、「ナショナル」か――右翼ポピュリズムと政治的対立軸
3 AfDとその支持者たち――ドイツでの調査・研究を題材にして
4 AfDと政治空間の変容
第6章 「自分さがし」を進める英国――ウインドラッシュ(Windrush)事件とブレクジット(Brexit)からその行方を問う[柄谷利恵子]
1 EUから離脱する「英国人」とは
2 英国における「自分さがし」の展開
3 ウインドラッシュ事件とブレクジットからみえる「私たち」
4 「自分さがし」の行方
第7章 統合か、排除か――フランスにおける移民および「移民問題」とそれをめぐる政治的言説[宮島喬]
1 「移民問題」と問題の政治化
2 移民問題の変遷と論点――フランスの二〇一〇年代
3 「移民問題」とナショナル・ポピュリズムの論理
4 マクロン政権の一つの試練
5 移民の統合と排除――TeO調査から
6 差別、抗議、対抗
第8章 バルセロナ市における移民包摂の動き――「民主的反復」の可能性を秘めた闘い[久野聖子]
1 スペインにおける移民をめぐる近年の動き
2 スペインの三層のガヴァナンスにおける共同体とその成員資格の理解
3 三層のガヴァナンスにおけるバルセロナ市と市の移民に関する権限
4 バルセロナ市の住民の実態とそのアイデンティティの揺らぎ
5 バルセロナ市の移民政策における成員資格の理解と「民主的反復」の可能性
6 むすびにかえて
第9章 移民統合政策の厳格化と地方自治体における多文化主義――オランダ・ハーグ市の事例から[寺本めぐ美]
1 中央政府と地方自治体の政策のギャップ
2 多文化主義から統合へ――右翼ポピュリズムの台頭
3 ハーグ市の政策にみられる多文化主義――「参加」を条件とした文化的権利の保障
4 ハーグ市における多文化主義がもたらしたもの――KOMKARを事例に
5 移民・難民と向き合う地方自治体
第10章 問われる欧州共通庇護政策における「連帯」――二〇一五年九月のリロケーション決定をめぐって[中坂恵美子]
1 欧州共通庇護政策と「連帯」
2 九月一四日理事会決定――コンセンサスによる合意と自発的参加
3 九月二二日理事会決定――多数決による決定と義務的割当て
4 「連帯」の議論と裁判所への提訴
5 トルコとの「声明」とリロケーション人数の見直し
6 誰のための「連帯」か
あとがき
関連年表
前書きなど
はしがき
西ヨーロッパの国々で、戦後の経済復興とその後数十年におよぶ経済成長を、外国人労働者ないし移民労働者の貢献に負っていなかった国は少ない。高度経済成長ストップ後今日までの数十年にあっても、ドイツを代表とするように、出生率低迷、労働人口減を懸念し、外国人労働者受け入れを継続している国もある。長らく移民送り出し国だったイタリア、スペインが、二〇一〇年をとると、それぞれ外国人在留者四五七万人、五七三万人を擁し、驚くべき変貌を見せている。他にも理由は種々あるが、前世紀末にイタリア、スペインの合計特殊出生率がそれぞれ一・二〇、一・一七と世界最低レベルにあったことを知れば、この変貌も不思議ではなくなる。
一方、難民受け入れ、これは久しく北米と並んでヨーロッパが人道的、かつ人権擁護の観点から国際的な責をはたすべく重視してきたもので、ドイツは連邦基本法で、フランスは憲法で難民受け入れの義務・権能を明記している。豊かで、人権尊重のヨーロッパを目指し、政治的迫害、紛争、戦火から逃れる各地からの難民がやってきた。過去数十年、西ヨーロッパの庇護申請者受け入れ数は、北米(アメリカ、カナダ)のそれをはるかに上回る。
そして西ヨーロッパ諸国は、事実として移民受け入れ大国となるだけではなく、多民族共生、異文化共存、反人種主義(反人種差別)を、価値として人々に共有されるべきものとしてきた。内なる国境をミニマイズしようとする欧州連合(EU)が、やはりこの志向を明確にしてきた。
だが、今世紀に入り、二〇一〇年代に生じた変化は、急激な“舞台反転”の印象を与える。その前兆は前世紀末からないことはなかったが、「移民・難民問題」が声高に言われ、急激・大量の移民、難民の流入がヨーロッパに危機を招いている、という言説が強まる。たしかに背景にはシリア内戦、「アラブの春」、アフガニスタン危機、そしてEU内の「人の自由移動」の全面開始、等々の動きがあった。しかし、それらの帰結の一つ、大量の人の移動がなぜ、危機だとされ、政治問題化されたのか。それに答えることは、本書の課題の一つである。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。