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アジアにおける高齢者の生活保障
持続可能な福祉社会を求めて
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2017年5月
- 書店発売日
- 2017年5月10日
- 登録日
- 2017年4月25日
- 最終更新日
- 2017年4月25日
紹介
日本を上回る勢いで急速に高齢化を経験しているアジア諸国。本書は主に、高齢者の生活を支える各国のフォーマル・インフォーマル両面の制度体系に焦点をあて、韓国の経験を中心として、「持続性」を重視したアジア諸国の取り組みを比較し紹介・分析する。
目次
はじめに
序章 アジアにおける高齢化と高齢社会対策をどうみるか(金成垣・松江暁子)
1 注目されるアジアの高齢化
2 高齢化のスピード
3 高齢化のタイミング
4 本書の目的と全体の構成
第Ⅰ部 韓国における高齢化と高齢者の生活保障
1章 老いていくアジアのなかの韓国(大泉啓一郎)
1 なぜ韓国に注目するのか
2 アジアの少子化・高齢化と韓国
3 アジアの社会保障制度と韓国
4 持続的成長と韓国の高齢者雇用策
5 アジアへの視点
2章 高齢者の生活保障にみる韓国的特質(金成垣)
1 韓国における高齢化と高齢者の生活保障の特徴
2 公的年金制度による所得保障
3 高齢者雇用政策による就労保障
4 地域福祉によるサービス保障
5 韓国的特質とその意味
第Ⅱ部 韓国的特質の諸相
3章 高齢者雇用と社会活動支援事業の展開――市場型事業を中心に(金炫成)
1 圧縮した高齢化
2 高齢者の雇用状況
3 高齢者向け社会活動支援事業の背景と流れ
4 市場型事業の内容と課題
5 市場型事業と格差拡大
4章 ソウル市蘆原区における高齢者の生活と生活保障(崔鮮熙)
1 地域および住民の現況
2 高齢者の生活状況
3 高齢者の生活保障
4 生活保障の特徴
5章 蘆原老人福祉館・月溪福祉館の低所得高齢者向け福祉サービス(金禧秀)
1 老人福祉館と福祉館
2 蘆原老人福祉館の低所得高齢者向け福祉サービス
3 月渓福祉館の低所得高齢者向けの福祉サービス
4 老人福祉館と福祉館における福祉サービスの比較
6章 月渓福祉館の「美しい隣人」事業(呉東俊・金成垣)
1 「美しい隣人」事業の概要
2 「美しい隣人」事業の展開
3 「美しい隣人」事業の成果と意義
4 「美しい隣人」事業の限界と課題
第Ⅲ部 アジア諸国の事例
7章 シンガポール――変化する介護サービスの担い手(崔仙姫)
1 高齢者をめぐる環境変化をどうみるか
2 歴史的および社会経済的背景
3 高齢化の動向および高齢者の生活
4 高齢者福祉政策の展開と現状
5 介護サービスの担い手
6 コミュニティ・ケアへの期待
8章 タイ――高齢化とコミュニティ・ベース高齢者ケア(ウォーラウェーット・スワンラダー)
1 少子高齢化のなかのタイ
2 人口構成の変化と今後の推移
3 少子高齢化と高齢者ケア
4 コミュニティ・ベース高齢者ケアの構想
5 コミュニティ・ベース高齢者ケアの課題
9章 ベトナム──家族が支える高齢者扶養のゆくえ(坂田正三)
1 注目されつつある高齢化問題
2 人口動態と高齢化
3 高齢者に対する公的支援
4 高齢者の家族構成の実態
5 親の属性、環境と子どもとの同居
6 非同居の子どもからの経済的支援
7 家族扶養の今後
10章 台湾──介護サービスにおける外国人介護労働者 (小島克久)
1 超高速高齢化する台湾
2 台湾の介護システムと「外籍看護工」の位置
3 「外籍看護工」の受け入れの仕組み
4 台湾の「外籍看護工」の現状
5 「外籍看護工」の分布の地域差とその要因
6 「外籍看護工」の技能と評価
7 「外籍看護工」をめぐる政策の動きと東アジアへの示唆
11章 日本──深刻化する高齢者の貧困と生活保障の課題(松江暁子)
1 日本の高齢化の状況
2 高齢者の生活の状況
3 問題化した高齢者の貧困
4 所得保障制度としての公的年金制度の課題
5 高齢者の雇用政策
6 日本における高齢者の生活保障のゆくえ
終章 アジアから考える高齢社会の展望(大泉啓一郎・金成垣)
1 共通課題としての高齢化
2 高齢者の生活保障のための三つの視点
3 高齢社会の新たな課題
あとがき
索引
前書きなど
はじめに
21世紀に入り、アジアの多くの国々では高齢化が深刻な社会問題として登場し、それへの対応が各国政府の重大な政策課題となっている。なかでも、韓国では、これまで世界でもっとも速かった日本の高齢化のスピードをはるかに超えて超高速の高齢化が進行している。その超高速高齢化する韓国を追いあげるかたちで、今後、アジア諸国・地域の高齢化が急速に進んでいく見通しである。
ところで、韓国を含むアジア諸国における高齢化への対応をみると、日本や他の先進諸国に比べて遅れて高齢化を経験しているがゆえに、それら先進諸国の経験を学習しつつもそれを取捨選択しながら政策を展開している状況がみられる。その具体的な状況は、国ごとに多種多様であるが、ごく単純化していうと、財政難に苦しんでいる先進諸国の経験を反面教師とし、財政安定化を最優先するような政策選択をしていることが共通してみられる。年金と雇用また介護や福祉サービスなど、高齢者の生活を支える制度体系についていえば、「保障性」(security)の強化より「持続性」(sustainability)の維持を重視した政策が展開されているのが現状といえる。それは今日、超高速高齢化の先頭を走っている韓国においてとくに明確にあらわれている。
このような状況を考えると、韓国をはじめ、21世紀に入って超高速高齢化を経験しているアジア諸国がその高齢化にいかに対応しているのか/していくのか、そしてその帰結はどうなるのかについての探求は、アジア地域のみならず西欧先進諸国を含む世界の多くの国々にとって非常に興味深い研究テーマといえる。そこで本書では、主に高齢者の生活を支える制度体系──フォーマルであれインフォーマルであれ──に焦点をあて、韓国の経験を中心としたアジア諸国の超高速高齢化への取り組みを紹介・分析したい。これを通じて、高齢社会対策の展開における実践的かつ理論的示唆点を探ることが本書の最終的な目的である。
なお、最後に本書ではアジア諸国を分析対象としながらも、中国をとりあげることができなかった理由を述べておきたい。本書では、以上のような背景から超高速高齢化を経験している韓国を中心にして、他のアジアの国々に関してはそれぞれを一つの事例としてとりあげることとした。これに対して、中国は、他のアジア諸国に比べて、人口や面積などにおいて規模が非常に大きく、その分、人々の生活や各々の地域においてかなりの多様性をもっており、それを一つの事例として扱うには無理があると判断した。中国に関しては、今後、国内の多様性を踏まえた上で本格的な研究をすすめていきたい。
上記内容は本書刊行時のものです。