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ギリシャ危機と揺らぐ欧州民主主義
緊縮政策がもたらすEUの亀裂
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2017年3月
- 書店発売日
- 2017年3月10日
- 登録日
- 2017年2月28日
- 最終更新日
- 2017年2月28日
書評掲載情報
2017-04-22 | 日本経済新聞 朝刊 |
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紹介
国家債務危機に陥り過酷な緊縮政策を強いられるギリシャは、左派ツィプラス政権のもと反緊縮を目指すも、EUとの軋轢は深まっている。本書は、ギリシャの経済・政治動向を精緻に分析し、英国のEU離脱など急展開を遂げる欧州民主主義の今後を問う。
目次
序章 ギリシャ危機で問われているもの
一 問題の所在と分析の視点
二 本書の目的と構成
第一部 緊縮政策が経済・社会・政治に与えた影響
第一章 ギリシャの経済システムの破綻
一 はじめに
二 景気後退の進行
(一)金融支援後のマクロ経済の後退
(二)緊縮政策とリセッション
三 財政危機の存続
(一)財政赤字の構造
(二)財政緊縮と債務の持続可能性
四 「対内切下げ」戦略の失敗
(一)「対内切下げ」戦略の基本的問題
(二)「対内切下げ」戦略の実施
(三)「対内切下げ」戦略の誤り
五 対外不均衡の拡大
(一)経常収支の不均衡の存続
(二)基礎的な対外不均衡の拡大
六 おわりに
第二章 ギリシャの社会的保護体制の崩壊
一 はじめに
二 労働市場改革と失業の増大
(一)「覚書」と労働市場改革
(二)失業者の増大
三 社会的排除と貧困化
(一)貧困問題の悪化
(二)緊縮政策と貧困化
四 医療システムの亙解
(一)新自由主義と医療
(二)緊縮政策と医療
五 社会福祉の悪化
(一)社会的支出の低下
(二)社会保障の改革
六 労働・社会運動の展開
(一)労働組合運動の弱体化
(二)社会運動の展開
七 おわりに
第三章 ギリシャの政治的混乱の進行
一 はじめに
二 緊縮プロジェクトと政変
三 極右派政党「黄金の夜明け」の登場
(一)緊縮政策と極右派政党
(二)黄金の夜明けの発展とギリシャ政府
四 急進左派政党シリザの躍進
(一)シリザの選挙での勝利
(二)左翼政治運動の歴史とシリザ
(三)ツィプラスのプロフィール
(四)シリザの基本方針
五 おわりに
第二部 新たな金融支援と超緊縮政策
第四章 ギリシャの債務危機とツィプラス政権の成立
一 はじめに
二 サマラス政権に対する不信感
三 シリザの基本戦略
四 シリザの変革のターゲット
(一)公的債務の削減
(二)寡頭支配体制の打破
五 ツィプラス政権成立の意義
(一)シリザの勝利の意味
(二)新政権の経済政策
(三)連立政権の課題
六 ツィプラス政権の成立に対するユーロ圏の反応
(一)ギリシャ離脱論の出現
(二)債務削減案の批判
(三)ユーロ圏諸国の反応
七 おわりに
第五章 ギリシャと債権団の金融支援交渉
一 はじめに
二 救済プログラムの延長
(一)ツィプラス政権の基本的姿勢
(二)トロイカの対応
(三)救済延長の合意
三 金融支援交渉をめぐる諸問題
(一)ツィプラス政権をめぐる諸問題
(二)債権団=トロイカをめぐる諸問題
(三)IMFとユーロ圏の対立
(四)ディフォールトとGrexitをめぐる諸問題
四 金融支援交渉の決裂
(一)ギリシャのディフォールト危機
(二)債権団=トロイカの脅迫
(三)IMFの対応
(四)ツィプラス政権の抵抗
五 おわりに
第六章 ギリシャにおけるレファレンダムと第三次金融支援
一 はじめに
二 レファレンダムの決定
(一)レファレンダムの告知
(二)レファレンダム告知をめぐる諸問題
三 レファレンダムのキャンペーン
(一)「ノー」のキャンペーンの展開
(二)社会問題の悪化
(三)ツィプラスの言動をめぐる諸問題
四 レファレンダムでの「ノー(反緊縮)」の勝利
(一)レファレンダムの結果
(二)「ノー」の勝利の意味
五 金融支援再交渉とギリシャの屈服
(一)レファレンダム後の行方
(二)ツィプラスの交渉準備
(三)ツィプラスの降伏
(四)シリザ内の反乱
(五)ギリシャ屈服の意味
六 第三次金融支援と総選挙
(一)第三次金融支援の決定
(二)総選挙の決定とシリザの分裂
(三)シリザの再勝利
七 第三次金融支援の課題と行方
(一)債務削減問題
(二)緊縮政策問題
(三)難民・移民問題
八 おわりに
終章 欧州建設の課題と展望
一 はじめに
二 ギリシャ危機と欧州建設の課題
(一)緊縮と社会問題
(二)支配体制問題
(三)制度設計問題
三 ギリシャ危機と欧州建設の展望
(一)「マクロン・ガブリエル共同声明」の意義
(二)「もう一つの通貨」論と財政統合論
(三)欧州の再連帯に向けて
四 おわりに
あとがき
参考文献
索引
前書きなど
序章 ギリシャ危機で問われているもの
(…前略…)
二 本書の目的と構成
本書は以上のような問題意識と分析視角の下で、ギリシャが、欧州の金融支援の条件として課された緊縮政策により、その危機を一層深めて人々の生活をいかに悲惨な状態に追い込んだかを明らかにする。したがって、ギリシャ危機が生じた元の要因は本書で論じられない。それよりは、二〇一〇年以降にギリシャが遂行した緊縮政策によるネガティヴ・インパクトを追究することが、本書の第一の目的である。
同時に本書は、そうした危機的状況を打開すべく、ギリシャの人々が反緊縮の願いを抱いて選択したツィプラス政権の下で、逆により厳しい緊縮策を強いられたプロセスを詳細に検討する。これらをつうじて、欧州のこれまで標傍してきたはずの民主主義的な欧州建設が、ここにきて脆くも崩れつつあることを確認すると共に、それを再び取り戻すための道を探ること、これが本書の根底に潜むねらいである。ランシエールは、社会科学の根本的な使命は不平等の探求とその告発にあることを唱える)。筆者も、この点に全く首肯する。現代のギリシャ危機はその点で、社会科学の一つの格好の研究対象となるのではないか。そこでは数多くの人々が不平等による苦しみに喘いでいるからである。筆者は、ギリシャ危機の分析により、そうした使命を果せることを切に願っている。
本書は、このような目的に沿う形で大きく二つの部分から成る。第一部は、ツィプラス政権の成立する以前に行われた緊縮政策がギリシャの経済、社会、並びに政治の側面でいかにネガティヴ効果を及ぼしたかを各側面について検討する。このことはまた、ツィプラス政権が誕生する背景を探ることになる。そして第二部は、ツィプラス政権成立後の動きを、金融支援と緊縮政策との関連にスポットを当てながら、クロニクルに詳しく辿る。それによって、二〇一五年一月から一年あまりのごく短期の間にギリシャで起こった諸々の重大な出来事を歴史的ドキュメントとして正しく伝えると共に、それらがギリシャと欧州に与えたインパクトの大きさを認識する必要がある、と考えられるからである。さらに最後に、やや長い終章を置いた。そこで筆者は、ギリシャ危機を通して浮かび上がった欧州の様々な課題を摘出すると同時に、それらの課題を克服することで描かれる欧州の未来図を示すことに努めた。
上記内容は本書刊行時のものです。