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表象の政治学
テレビドキュメンタリーにおける「アイヌ」へのまなざし
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2017年4月
- 書店発売日
- 2017年4月30日
- 登録日
- 2014年11月18日
- 最終更新日
- 2017年4月21日
紹介
戦後60年間、数多く作られたアイヌ関連のドキュメンタリーは「アイヌ」の何を明らかにし、どのようなイメージを視聴者に与え、また変容してきたのか。「アイヌ」を創ってきた戦後の公共の放送空間を膨大なドキュメンタリーの分析とあわせ言説と表象から読み解く。
目次
序章 日本のテレビ放送におけるアイヌの表象
1 「アイヌ」の表象という問い──問題設定
2 テレビドキュメンタリーにおける「アイヌ」へのまなざし──研究対象
3 人類学(批判)とドキュメンタリー研究の架橋に向けて──先行研究
4 テレビドキュメンタリーのテクスト分析へ──分析方法
5 テクストをめぐる「他者性」のタイポロジーと本書の構成──作業仮説
第Ⅰ部 連続する「救済」のまなざし
第一章 「観光アイヌ」とは何か──まなざしの歴史的な変容をめぐって
1 制作の背景と問題意識
2 番組分析──一九五〇年代のドキュメンタリー『コタンの人たち』と「観光アイヌ」
3 「観光アイヌ」の身体と社会的な経験の変容
4 一九五〇年代のテレビドキュメンタリーにおける「他者性」の様相
5 小結
第二章 帰属意識とは何か──一九六〇年代と二〇〇〇年代の番組比較
1 制作の背景と問題意識
2 番組分析──創造された「日本人」への帰属──『ペウレ・ウタリ~若き同胞』(一九六五年放送)を中心に
3 番組分析──“宣言”する帰属の「矛盾」──『僕たちのアイヌ宣言~“民族”と“自分”のはざまで』(二〇〇八年放送)
4 「帰属」とまなざし
5 帰属意識の概念と「エコロジカルな自己」
6 小結
第Ⅱ部 主体化する「他者」
第三章 儀礼と記憶──『幻のイオマンテ~七五年目の森と湖のまつり』(一九八四年放送)を中心に
1 制作の背景と問題意識
2 番組分析──身体の記憶と儀礼の再現
3 無抵抗的絶望の「矛盾」──フヨ氏の“足りない”が訴えたこと
4 小結
第四章 アイヌ文化の復元における「幻想」と「差延」──『イタオマチプよ海をめざせ』(一九八九年放送)を中心に
1 制作の背景と問題意識
2 番組分析──『イタオマチプよ海をめざせ』
3 二重の再創造──船の復元と再現の表象
4 「差延」と問われる「日常性」──「矛盾」と権力の介入
5 小結
第Ⅲ部 グローバル化の中の「アイヌ」
第五章 樺太とディアスポラ・アイヌ──『失われた子守歌(イフンケ)』(一九九一年放送)を中心に
1 制作の背景と問題意識
2 番組分析──『失われた子守歌(イフンケ)』
3 関連番組
4 樺太アイヌと「国民」「民族」「ディアスポラ」
5 「アイデンティティ」という支配的イデオロギー
6 小結──少数民族へのまなざし
第六章 一世紀を隔てた「アイヌ」の表象──『アイヌ太平洋を渡る~アメリカ』(一九九六年放送)を中心に
1 制作の背景と問題意識
2 ETV特集 第三夜『アイヌ太平洋を渡る~アメリカ』の構成
3 隠された「矛盾」と知の暴力性
4 構築される人種・創造される表象──「見えない人種」と社会的リアリティ
5 小結
終章 テレビドキュメンタリーと他者性──アイヌ表象をめぐって
1 テレビ番組の中のアイヌ表象の変容──各章の総括
2 他者性に関する三つの位相の構造的な移行──結論
3 本研究の意義と今後の課題──展望
あとがき
第一章~第六章に取り上げられた番組の構成表及び番組おこし
アイヌ関連テレビドキュメンタリー(NHKアーカイブスより)
参考文献
前書きなど
序章 日本のテレビ放送におけるアイヌの表象
1 「アイヌ」の表象という問い――問題設定
過去約六〇年間のアイヌに関連するテレビの放送の中で、ドキュメンタリーの送り手たちはアイヌを取材することを通じて何を考え、何を明らかにしてきたのだろうか。「日本国民」としてのアイヌという表象は、どのようにテレビという媒体の中に構築されてきたのだろうか。そして、これらの表象の構築戦略に、もしも戦前からの連続性があるとするならば、その連続性は何に由来するのか。つまり、明治日本以来の近代化政策の産物であるアイヌについての「国民」としての統合政策は、第二次世界大戦後の日本社会とメディア、とりわけテレビ放送の中にいかに繋がっており、またそれはどのように変容・転換してきたのだろうか。本書では、そういった問題意識を背景に、戦後のテレビ放送、とりわけドキュメンタリー番組の中でのアイヌ表象に関わる表象の政治の問題を、戦前からの連続性、そしてまた連続性の切断という視点を軸にしながらいくつかの段階を追って問いたいと考える。
(…中略…)
本書では、送り手である番組制作者たちが描こうとしたアイヌの表象を中心に据え、以下の論点について検討を進める。すなわち、個々のアイヌを素材としたドキュメンタリー番組において、①番組で物語られる「他者としてのアイヌ」のイメージはどのようなもので、それらはそれまでの定型的な「アイヌ」イメージに対し、どう変化したのか、しなかったのか、②そうした「アイヌ」イメージの背後にはどのようなミクロ、マクロの政治が働いていたと想定されるのか、③そうした「アイヌ」のイメージの変化を数十年間に及ぶ時間的経過の中で眺め直した場合、本土の一般的日本人と「他者としてのアイヌ」の間の社会的距離についての描かれ方はどのように変わってきたのか、④このように「他者としてのアイヌ」の放送空間における表象の変化を長い時間軸の中で解釈することの戦略的意味とは何か、の四点である。本書では、このような諸点について議論を進めながら、日本のテレビ放送におけるアイヌ表象の変容を総合的かつ俯瞰的に明らかにする糸口を掴みたい。そのためにこの序章では、放送番組研究といくつかの関連領域をクロスさせる新たなアプローチについて提案したいと考える。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。