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初めて聞く 北海道における糖尿病の歴史 佐々木 嵩(著/文) - 柏艪舎
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初めて聞く 北海道における糖尿病の歴史 (ハジメテキク ホッカイドウニオケルトウニョウビョウノレキシ)

医学
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発行:柏艪舎
発売:星雲社
四六判
168ページ
価格 1,500円+税
ISBN
978-4-434-30184-1   COPY
ISBN 13
9784434301841   COPY
ISBN 10h
4-434-30184-5   COPY
ISBN 10
4434301845   COPY
出版者記号
434   COPY
Cコード
C0095  
0:一般 0:単行本 95:日本文学、評論、随筆、その他
出版社在庫情報
在庫あり
書店発売日
登録日
2022年2月21日
最終更新日
2022年4月20日
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紹介

これほど身近な病気となった
『糖尿病』を
あなたはどこまで知っていますか?

札幌で糖尿病専門病院を経営する著者が綴る、北海道における糖尿病の歴史。
北海道開拓時代から続く糖尿病治療の苦難の道のりを分かりやすく解説するだけでなく、
世界の糖尿病研究から予防法までを詰め込んだ、医療従事者必携の書。

目次

 本書 目次

日本における糖尿病の幕開け
アイヌと糖尿病
近代医療の準備期
北海道の医療のはじまり(函館時代)
札幌の医療の始まり(明治・大正期)
血糖値とヘモグロビンA1c
糖尿病の食事療法
北海道大学第二内科と糖尿病
北海道糖尿病協会(患者会)
小児糖尿病サマーキャンプ
インスリン治療
糖尿病内服剤のはじまり
日本糖尿病療養指導士(CDE)の誕生
糖尿病患者教育
糖尿病専門病院
現代の糖尿病診療
糖尿病対策推進会議と包括的療養介護
糖尿病診療の今の話題

前書きなど

はじめに


本書を執筆するに当たってその発端についてお話しします。五十数年も糖尿病臨床に携わってきますと日常の糖尿病患者の診療ではない対象に興味が湧いてきます。例えば糖尿病をもった動物とか外国人の糖尿病などに興味を覚えます。
北海道と命名されて二〇一八年で一五〇年となり、近年は特に先住民族アイヌへの関心が高まっています。アイヌは北海道民の先祖ではありませんが昔のアイヌに糖尿病があったのか、あったとしたらどのような手当てをしていたのか興味があります。しかしそういった疑問を解明するには二つの障害があります。
根本的な問題としてアイヌは文字をもたない民族であるということです。当時の知識は記憶による口伝承で受け継がれているのです。
二代、三代までは何とか口伝承で用を成したでしょうが、四代目では記憶が薄らぎ確実性がありません。もう一つの問題は、アイヌは具合の悪い症状を総称して「病」と言い、「のどが渇く」、「手足の神経障害」をどのような表現で訴えていたのか分りません。従って症候から糖尿病を探っていく手立てがありません。昔の日本人が糖尿病と思われる病状および症状にたいして投薬していた生薬、漢方薬をアイヌも利用していたという話も聞きません。そもそも2型糖尿病は無症状で発病します。仮に1型糖尿病の患者がいたとしても、おそらくケトアシドーシスに陥り、昏睡のまま数週間ほどで亡くなっていたと思われます。結局「アイヌと糖尿病」の話は結論を得ることなくして終わりました。
和人(日本人)が北海道に住み着くようになったのは豊臣秀吉の時代でしょうか。渡島の松前藩は秀吉、家康の許可を得て藩政を整えましたが、特に病名の「蜜尿病」と「消渇」の記録はありません。糖尿病は生活様式が貧困な時代では発病はなく、生活が豊かになると発病率が高くなることは国内外で知られています。正に北海道の病気の歴史では風土病、肺結核ではじまり、生活様式が変わって糖尿病が徐々に増加するという定説通りの経過をたどっているのでしょうか。アイヌがこれから現代の日本食や洋食をとる日本人の生活様式に変わることに注意しなければならないでしょう。
現在でも糖尿病の治療の解明は核心(膵臓)に至っていないので、いずれも補填療法にとどまっています。しかも複雑化した今の社会構造では、高血糖となる理由を飲食物からだけの関係から解決するのは無理と考えます。従ってその病状の対応は薬剤のみで解決するものではなく、患者の身の回りの生活様式の改善を図らなければなりません。そのために数年前から医療の地域連携が立ち上げられており、多くの職種の人たちとの協同作業が必要になってきました。
近頃は職域の異なるスタッフがそれぞれの立場から相互の糖尿病の情報交換を行ない、病状改善につなげる方法をとるようになってきています。
国政でも「健康日本一」、「生活習慣病対策」、「糖尿病対策推進会議」とスローガンを掲げ、日本の糖尿病発病防止、進行防止、合併症防止の対策に動き出しています。
本書が、糖尿病に係わりある医師、看護師、医療職者、糖尿病患者皆様の知識の足しになることを願っています。
最後に本書の指導と校正に甚大なご協力、ご指導下さった北海道新聞社事業局中島哲也様と当院事務職員伊藤恵美様、並びに柏艪舎山本哲平様に感謝申しあげます。

本書中の人名については、敬称および役職名を省かせていただきました。
ご了解のほどお願い申し上げます。




おわりに


二〇一七年六月にサンディエゴで開催されたアメリカ糖尿病学会(ADA)で、私は研究発表をさせていただいたのですが、その復路の飛行機内で、心地よい達成感に浸りつつ決心したのは、ADAへの参加はこれで終わりにしようということでした。それでは学会参加に代わって私がしたいことは何だろうと諸々思案したあげく、日本到着の寸前に頭に浮かんだのが本書の題名だったのです。
帰国後さっそく執筆に取りかかったのですが、資料を読み進めるにつれ、自分がこれまで認識しなかった糖尿病の過去の事例がなんと多いことかと、糖尿病専門医として恥ずかしい思いに駆られるほど新しい事実を知ったのでした。これは、しかし、言いかえれば、現在の糖尿病研究が五十年前に比して想像もつかぬほど進歩したことを証明しているのではないでしょうか。
余談になりますが、私が五十年前に大学の研究室で実験に明け暮れていた頃は、十二時、一時の帰宅が当たり前の毎日でした。実験を終え、疲れを取ろうと仲間数人でススキノに立ち寄り、酒を飲みつつ糖尿病について侃々諤々、それぞれの意見を交わしたものです。その中で今も覚えているのは高血糖の対応についての意見交換です。意見の一つに、糖尿病患者は高血糖体質なのだから体内の糖を小便や大便として排泄させる方法を考えるべきだ、というのがありました。しかし、その方法は実現が難しい、学問的でない、単純すぎるなどの反対意見にあい議論はそれきりになりました。
ところが、ほぼ五十年後の二〇一八年に排尿中に糖を流すSGLT2という名の糖尿病薬剤が実際に発売されたのです。そうか、あの時却下した意見は実現可能だったのだ、と感無量。大物を釣り損じた話であります。

さて、本書の原稿を書き始めて間もなくして知ったことは、アイヌには文字がない、記録が一切ない、ということでした。当然ながら検診している記録など全くありません。
結論は本文中に述べた通りですが、私はこの先ペンを進めて、北海道にいつごろから糖尿病が登場したのか、和人(日本人)の糖尿病を調べることにしました。
「はじめに」でも述べた通り、開道一五〇年を過ぎましたが、開拓時は厳しい冬に耐え、土地の開拓から始めなければならず、大変な苦労がありました。このような生活環境では糖尿病が発病するはずがありません。
北海道の医療(特に糖尿病医療)の発展は、外国船の函館への寄港によるところが大きいと思います。糖尿病には、ぜいたく病や金持ち病と呼ばれる症状があり、社会が豊かになるにともない、糖尿病患者が増加するという考えは、いつの時代でも定説となっています。
従ってこれからは、糖尿病にならないための予防医学がさらに充実される必要があります。糖尿病の治療はまだまだ膵臓の根治療法には至っておらず、補填療法にとどまっている限り、糖尿病人口は多くなりこそすれ少なくなる見通しはありません。糖尿病は遺伝する疾患ですから、予防医学ではそこのところも念頭において対策をとる必要があります。
根治療法、つまり糖尿病を治せるようになるまで、まだまだ糖尿病の歴史は続くでしょう。それよりも、糖尿病にならないようにする手立てと、糖尿病患者の三分の一もが該当する、治療の中断者や全くの無治療者を減少させることが、これからの重要な課題と言えます。

 二〇二二年一月
佐々木 嵩

著者プロフィール

佐々木 嵩  (ササキ タカシ)  (著/文

佐々木 嵩(ささき たかし)
昭和38年 弘前大学医学部卒業
昭和39年 北海道大学医学部第二内科 入局
昭和56年 恵仁会佐々木内科病院 開設
平成元年5月  ジョスリン糖尿病センターにて研修
平成6年、8年、11年  ポートランド糖尿病センターにて研修
平成15年 サンフランシスコ糖尿病センターにて研修
日本糖尿病学会 専門医、指導医、功労評議員
日本内科学会 認定医
日本病態栄養学会 元評議員
札幌医師会学会賞、札幌医師会功労賞、北海道医師会功労賞受賞

上記内容は本書刊行時のものです。